
究極の隠れ家、その名は「ビジョンV」
メルセデス・ベンツは2025年8月13日、同社が描く未来のトップエンドMPV(多目的自動車)の姿を示したコンセプトカー「ビジョンV(Vision V)」を、米国カリフォルニア州で今週末に開催される世界的な自動車の祭典「ペブルビーチ・オートモーティブ・ウィーク2025」に出展すると発表した。今年4月の上海モーターショーでワールドプレミアされた後、ドバイを経て米国デビューを果たすこのショーカーは、単なる移動手段ではなく、まったく新しいパーソナライズされたデジタルラグジュアリーの世界を切り拓く一台だという。
【画像75枚】後席はもはや映画館。メルセデス・ベンツ「ビジョンV」の革新的な内外装をギャラリーで一気に見る
映像体験は「Dolby Vision」へ、カラオケ機能もアップデート
メルセデス・ベンツ・ビジョンVは、広大な空間と最大限の特別感、そして前例のない没入型のデジタル体験を融合させるという、メルセデス・ベンツのビジョンを具現化したものである。その核心は、後席空間を「プライベートラウンジ」と位置づけ、乗員を360度のデジタル体験で包み込むユニークな空間設計にある。このラウンジは、映画館やゲームセンター、コンサートホール、オフィス、あるいはリラクゼーションのためのオアシスに姿を変えることができる、究極の隠れ家なのだ。
今回のペブルビーチでの披露にあたり、ビジョンVはエンターテイメント体験をさらに次のレベルへと引き上げる2つの新たなハイライトを搭載した。その一つが、7つあるインタラクティブ体験ワールドの一つである「カラオケ」機能のアップデートである。中国でローカライズされた楽曲を提供し大きな成功を収めたのに続き、今回の米国でのお披露目のため、英語の楽曲が利用可能になった。もう一つは、映像体験を飛躍的に向上させる「Dolby Vision」への対応だ。このHDRイメージング技術により、より豊かな色彩とシャープなコントラストが実現され、乗員はより強烈で魅惑的な視覚世界に没入することが可能となる。
この没入体験の中核をなすのが、プライベートラウンジの床下に格納された65インチの昇降式シネマスククリーンである。乗員が乗り込みドアが閉まると、バーウッドとナッパレザーでデザインされたコンソールから、スクリーンが静かに上昇する。乗員は床の透明なスラットを通して、スクリーンがせり上がり、ラウンジエリアをコックピットから分離する様子を見ることができる。4Kの高解像度を誇るこのスクリーンは、Dolby Vision技術と相まって、映像やゲームを驚くほどの鮮明さとディテールで映し出す。
サイドウィンドウもスクリーンに。究極の没入感を生む技術
音響にも抜かりはない。「Dolby Atmos」に対応したサラウンドサウンドシステムは、合計42個のスピーカーを備える。その中にはシートに内蔵され、音楽を触覚体験へと変えるエキサイターも含まれる。さらに、ヘッドライナーとフロアに埋め込まれた7台のプロジェクターが視界を広げ、サイドウィンドウを追加の「スクリーン」として活用することで、デジタルな360度の体験、すなわち「コクーン(繭)効果」を生み出すのだ。音楽鑑賞時にはアンビエント照明がビートに合わせて色を変化させ、この包み込まれるような感覚を一層高める。
ビジョンVが提供する体験は、エンターテイメントだけに留まらない。乗員は7つのインタラクティブな体験ワールドに飛び込むことができる。映画や音楽を楽しむ「エンターテイメント」、シートをリクライニングさせ心安らぐ風景と音楽でリラックスする「リラックス」、付属のコントローラーでレースゲームに興じる「ゲーミング」、シネマスクリーンを仮想デスクとして使うモバイルオフィス「ワーク」、さらには移動中にゴルフのチケットを購入したり、新しいアクセサリーを選んだりできる「ショッピング」、3DゲームエンジンのグラフィックスとAR(拡張現実)で周辺情報を表示する「ディスカバリー」、そして前述の「カラオケ」が用意されている。
「官能的純粋」を次の段階へ。光が彩るエクステア
ビジョンVの革新性はインテリアだけに留まらない。エクステリアデザインもまた、メルセデス・ベンツのデザイン言語「官能的純粋」を次の段階へと進化させている。彫刻的なフォルムは、最高の空力性能を誇る革新的な美学によって特徴づけられる。短いオーバーハングと流線形のルーフラインが、力強さとダイナミックな軽快さを表現している。
フロントマスクは、水平に走る3本の光るガラス製ルーバーを備えたクロームラジエーターグリルが印象的だ。このクロームフレームの周りには約200個、ボンネット下のボディギャップにはさらに約190個の照明付きルーバーが配置され、ヘッドライトを縁取っている。乗員が車両に近づくと、これらのルーバーがダイナミックな光のショーで出迎え、ボンネットのスリーポインテッドスターが明るく輝く。
サイドでは、右側に備えられた大きな自動開閉式の「ポータル」ドアと、格納式のランニングボードが、豪華なラウンジへの容易なアクセスを約束する。リアもまた、450個以上の立体的な照明付きルーバーがテールライトとブレーキライトとして機能し、光と動きの相互作用を表現している。さらに、ルーフ全面には168個のソーラーセルが搭載されており、太陽光から電気を自己生成して航続距離の延長に貢献する。例えば日照条件の良いスペイン・マドリードのような場所では、1日平均で約3.44kWhの電力を生み出し、約22kmの航続距離に相当するという試算も出されている。
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このビジョンVは、単なるコンセプトカーで終わるものではない。将来の最上級モデル「メルセデス・ベンツ VLS」の姿を予告するものであり、メルセデス・ベンツのMPVポートフォリオをトップエンド・セグメントへと拡大するモデルとなる。
2026年からは、新開発のモジュラー式プラットフォームをベースにした最初のモデルとして、最大8人乗りの「VLE」が登場する予定だ。この新アーキテクチャーは、個人向けの「グランドリムジン」と商用バンとの明確な差別化を可能にするという。伝統的なクラフトマンシップと、先進的なテクノロジーを見事に融合させたビジョンV。それは、メルセデス・ベンツが乗用車のラグジュアリーを新たな次元へと引き上げる、壮大な未来像の序章なのである。
【画像75枚】後席はもはや映画館。メルセデス・ベンツ「ビジョンV」の革新的な内外装をギャラリーで一気に見る