
レース由来のテクノロジーが生んだ「むき出し」のカーボンボディ
フォードは、ハイパフォーマンス・スポーツカー「マスタングGTD」シリーズの最新モデルとして、その全身をカーボンファイバーで覆った「マスタングGTDリキッドカーボン」を公開した。この新型モデルは2025年8月14日にラグナセカ・レースウェイでデビューを飾り、レース由来の最先端技術とストリートでの圧倒的な存在感を両立させた、まさに究極の一台だという。
【画像15枚】完璧に揃えられた圧巻のカーボン繊維 。塗装を捨てた「マスタングGTDリキッドカーボン」のディテールを徹底チェック
コンマ1秒を削り出すための選択。約5.9kgの軽量化を達成
今回登場したフォード・マスタングGTDリキッドカーボンの最大の特徴は、その名の通り、塗装を施さずにカーボンファイバーの素地をむき出しにしたボディワークだ。IMSAなどトップカテゴリーのレースで採用されるカーボンファイバーは、軽量でありながら高い剛性を誇る素材であり、これをボディ全体に採用することで、車両のパフォーマンスを極限まで高めている。塗装を省略するという大胆な選択は、単なる軽量化に留まらない。これにより、エアロダイナミクスの向上が図られ、レースで培われたスタイリングがより一層強調されている。
具体的には、ドアパネル全体を接着されたカーボンファイバーに置き換えるなどの工夫により、パフォーマンスパッケージを搭載した従来の「マスタングGTDカーボン」と比較して、約13ポンド(約5.9kg)もの軽量化を実現している。これは、サーキットでコンマ1秒を削り出すための、フォードの妥協なき姿勢の表れといえる。
完璧に揃えられた“織り目”。所有する悦びを満たす内外装の作り込み
さらに、このカーボンファイバーボディは、機能性だけでなく、工芸品のような美しさをも追求している。ボンネット、ルーフ、リアデッキ、そして巨大なリアウィングに至るまで、カーボンファイバーの織り目は車両の中心線上で完璧に一致するようにレイアウトされている。フェンダーやサイドパネルの織り目も見事に調和しており、ボディ全体で一貫性のある美しいパターンを描き出している。これは、フォードの高度な製造技術とクラフトマンシップの賜物だ。
細部にまで徹底したこだわりは、エクステリアの各パーツにも見られる。ブレーキシステムには、アルマイト処理されたボディにグロスブラックの「GTD」スクリプトが施された、ユニークなブラックのブレンボ製ブレーキキャリパーが標準で装備される。この特別なキャリパーは、むき出しのカーボンボディとのコントラストを際立たせ、足元からただならぬ雰囲気を醸し出している。
その妥協のない思想はインテリアにも貫かれている。室内は、ブラックレザーとダイナミカマイクロファイバースエードを大胆に組み合わせた、スポーティかつ上質な空間が広がる。シート、ドアパネル、センターコンソール、インストルメントパネル、そしてステアリングホイールには、鮮やかなハイパーライムのステッチが施され、コクピットに刺激的なアクセントを加えている。また、シート中央にあしらわれた反射性のあるセンターグラデーションは、機能性を追求した空間に明るさをもたらし、ドライバーの集中力を高める役割も果たす。
心臓部は815馬力。ベースモデルからして“規格外”のパフォーマンス
この「リキッドカーボン」のベースとなった「マスタングGTD」は、そもそも公道を走れるレーシングカーと呼ぶにふさわしい驚異的なスペックを誇る。心臓部には、スーパーチャージャー付き5.2LのPredatorベースV8エンジンを搭載し、最高出力は815psに達する。トランスミッションには8速デュアルクラッチ・リアトランスアクスルを採用し、カーボンファイバー製のドライブシャフトを介して後輪を駆動する。これにより、前後重量配分はほぼ50:50という理想的なバランスを実現している。その結果、最高速度は時速202マイル(約325km/h)に達し、ドイツのニュルブルクリンク北コースでは6分52秒072という驚異的なラップタイムを記録している。
足回りには、マルチマチック社のDSSV(ダイナミックサスペンションスプールバルブ)テクノロジーを用いたアダプティブダンパーを装備。トラックモードを選択すれば、車高は瞬時に40mmも下がり、サーキット走行に最適化される。標準装備のカーボンファイバー製ボディパネルやCピラーマウントのエアロリアウィング、さらにはオプションで選択可能な鍛造マグネシウムホイールやチタン製エキゾーストシステムなど、軽量化と空力性能の追求に一切の妥協はない。ブレーキはフロントに6ピストンのブレンボ製アンチロックブレーキを標準装備し、タイヤはフロント325mm、リア345mm幅のミシュラン製パイロットスポーツカップ2を装着。ロードゴーイングのマスタングとして初めてドライサンプオイルシステムを採用したことも、その本気度を物語っている。
* * *
この「マスタングGTDリキッドカーボン」の登場により、マスタングGTDのオーナーは、自らの好みに応じてカーボンファイバーの露出量を自由に選択できるようになった。サーキットでの究極のパフォーマンスを追求し、その技術を惜しげもなく見せつけるこのモデルは、マスタングの歴史に新たな1ページを刻むことになるだろう。最初の納車は、本年10月を予定しているとのことだ。
【画像15枚】完璧に揃えられた圧巻のカーボン繊維 。塗装を捨てた「マスタングGTDリキッドカーボン」のディテールを徹底チェック