
ミドルクラスのベンチマーク、3シリーズの歴史を振り返る
BMW「3シリーズ」は1975年の登場以来、半世紀にわたりミドルサイズクラスの絶対的な指標として君臨してきた。その歴史は、単なる1台の自動車の変遷に留まらず、スポーツセダンの概念を確立しプレミアムセグメントを牽引してきた。その3シリーズの輝かしい成功の物語を振り返る。第4回目は、3代目(E36型)3シリーズにスポット当てて紹介する。
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プレミアムセダンの先駆者となった3代目3シリーズ
3代目BMW 3シリーズ(E36型)は1990年にデビュー。このモデルの最も革新的だった点は発売当初から4ドアセダンを主軸として展開するという、従来とは異なるアプローチを採用したことだ。このラインナップの刷新は、その後のプレミアムミドルクラスセダンの在り方に多大な影響を与えることになる。
第3世代3シリーズの設計思想で最も重視されたのは、快適性と安全性の飛躍的な向上であった。ボディは外形寸法が大幅に拡大され、乗員に格段に広い室内空間を提供した。特に後部座席の乗員は、膝周りのスペースが従来比で30mmも拡大され、日常の使い勝手から長距離ドライブまで、あらゆる場面で乗員に高い快適性をもたらした。
しかし、BMWが単なる快適なセダンを目指さなかったことは、そのスタイリングを見れば明らかであった。拡大されたボディを持ちながらも、その基本的なフォルムは紛れもなくスポーティな緊張感を湛えていた。長いホイールベースと短いオーバーハングというBMW伝統のプロポーションは健在であり、前1418mm、後1431mmというワイドなトレッドは、この新型3シリーズが秘める卓越した走行性能を雄弁に物語っていた。
デザイン面での革新は、特にフロントエンドに顕著であった。スレンダーなシルエットを際立たせる滑らかなフロントマスクの中央には、BMWの象徴であるツインサーキュラーヘッドライトが、それぞれ1枚のガラスカバーの後ろに収められていた。この斬新な処理は、空力特性の向上に貢献するだけでなく、歩行者保護性能の最適化という、当時としては先進的な安全思想を具現化したものであった。
安全性への配慮は細部にまで及び、すべてのバリエーションにおいて側面衝突時の乗員保護性能を高めるための新しいドア強化要素が組み込まれるなど、総合的な安全基準が大きく引き上げられた。
環境性能とフィーリングを両立したエンジンラインナップ
この先進的なボディに搭載されたエンジン群もまた、革新性に満ちていた。発売当初から用意されたすべてのエンジンが100ps以上の出力を発生。エントリーモデルである1.6Lの「316i」でさえ100psを発揮し、「318i」は113㎰を誇った。
そしてハイライトと言えるのが、ツインカムシャフトとシリンダーあたり4バルブを備えた2つの革新的な直列6気筒エンジンであった。「320i」は最高出力150ps、「325i」は192psという、胸のすくようなパワーを生み出した。さらに1992年、パフォーマンスと燃費効率を両立させる画期的な技術として、可変カムシャフトタイミング機構「VANOS」が導入される。第2世代「M3」の6気筒エンジンにて採用されたこの技術は、その後他の6気筒モデルにも展開され、BMWのエンジン技術の高さを改めて世界に知らしめたのだ。
ディーゼルエンジンの分野においても、BMWはそのスポーティな血統を証明してみせた。2.5L、115psのユニットを搭載した「325td」の登場は、ディーゼルの実用性に”駆けぬける歓び”を加え、1993年にはチャージエアクーリング付きターボを備えた「325tds」が143psの最高出力と260Nmの強大なトルクを発生。0-100km/h加速10.4秒という俊足ぶりを発揮しながら、14.9km/Lという優れた燃費を実現した。さらに1994年には、4気筒ターボディーゼルの「318tds」が追加され、90psのパワーと平均燃費16.9km/Lという驚異的な経済性を両立させた。
1995年にはガソリンエンジンも次世代へと進化を遂げる。アルミニウム製クランクケースの採用により大幅な軽量化を実現した新世代の直列6気筒エンジンは、さらなるパワーと効率性を手に入れた。フラッグシップエンジンは排気量を2.8Lに拡大し「328i」として登場。193psの最高出力と280Nmのトルクは、3シリーズのパフォーマンスを新たな高みへと引き上げた。
卓越したエンジン性能を支えたのは、先進のシャシー技術であった。フロントにはアンチロールバー付きのシングルジョイントストラットサスペンション、リアには上下2本のラテラルコントロールアームを持つ新しいセントラルコントロールアームが採用され、特に高速コーナリング下での方向安定性と乗り心地を劇的に向上させた。
ブレーキ性能も強化され、アンチロックブレーキシステム(ABS)は1992年から全車標準装備となった。さらに、駆動輪の空転を抑制するオートマチック・スタビリティ・コントロール(ASC)がオプションで設定され、1997年からはブレーキ介入も行うASC+Tへと進化。ドライバーが安心してそのダイナミックな性能を堪能できる、高度な安全技術が提供されたのである。
ボディラインナップも多様化
第3世代3シリーズの功績は、その多彩なボディバリエーション展開にもある。セダンで幕を開けた後、1992年には純粋な2ドアモデルとして、セダンとは全く異なるエレガントな「クーペ」が登場。両者が共有する部品はごくわずかであり、その独立した個性的なスタイリングは多くのファンを魅了した。1993年には、低いショルダーラインが美しい「コンバーチブル」が、1994年には全長4.21mというコンパクトなボディにスポーティな走りを凝縮した革新的な「3シリーズ コンパクト」がデビュー。そして1995年、ダイナミズムと実用性を高次元で融合させた「3シリーズ ツーリング」が加わり、盤石のラインナップが完成した。
デザイン、技術、安全性、そして多様なライフスタイルに応えるバリエーション。そのすべてにおいて時代を先取りした第3世代3シリーズは、約10年間にわたり生産され、累計販売台数は2,745,780台に達した。この数字は、先代モデルの記録を再び大きく塗り替えるものであり、このモデルがいかに世界中のドライバーから絶大な支持を得たかを物語っている。それは、BMWの歴史における金字塔であると同時に、現代へと続くプレミアムスポーツセダンの指標を打ち立てた、真の先駆者であったのだ。
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