コラム

応募総数3000人超、倍率は約78倍。「ホンダ株主優待」の特別イベントは、なぜ愛車家たちを熱狂させるのか

長期保有株主だけが招かれる、聖地もてぎの「特等席」

ホンダが長期保有株主に向けて実施した特別な優待イベント「モビリティリゾートもてぎ体験会」。40名の枠に3000名超が殺到したこのプレミアムな企画は、愛車でのサーキットクルーズから里山散策、ミュージアム見学まで、もてぎの魅力を一日で満喫できる贅沢な内容だ。「モノ」から「トキ」消費へと進化した、ホンダファン垂涎の特別な一日をレポートしよう。

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東京ドーム137個分の森とサーキット。愛車で楽しむ特別なプログラム

株主優待とは、企業が自社の株を購入してくれた株主に対して、自社製品やサービスなどを贈る制度のこと。商品や金券をはじめ、最近ではカタログギフトで好みのものを選ぶようなサービスもある。あくまで任意の制度なためすべての企業が実施しているわけではないが、日本では個人投資家を募る手段として多くの企業が取り入れている。また企業としては、短期間で売却してしまうより長期保有してくれる安定した株主を確保したいため、通常の株主優待に加えて、優待品やサービスを用意しているケースもある。

ホンダではこれまでにも工場見学やレース観戦といった体験型の優待サービスを実施してきた。2023年3月からは株主層のさらなる拡大に向けた取り組みを実施しており、抽選制によるさまざまな体験会を拡充。2025年6月には株主数が約3倍にも増加している。

そして今回はあらたな株主優待として導入された「モビリティリゾートもてぎ体験会」を取材する機会が設けられた。3年以上の長期保有をする株主に向けたイベントだが、40名の枠に対して3116名もの応募が殺到したという。最終的には2日間にわたって実施することで計29組85名が参加した。

あらためて「モビリティリゾートもてぎ」は、ホンダが1997年に栃木県茂木町に開業した「ツインリンクもてぎ」を前身とする。2022年に現在の名称へと変更された。その面積は約640ヘクタールと東京ドーム137個分の広さに相当する。サーキットをはじめとする施設に使用されているのは全体の約30%で、残りの70%は森林など自然がそのまま残されているという。キャンプ場やホテルなども内在するテーマパークとなっている。

もてぎの豊かな自然とふれあう

体験会当日は午前9時50分からオリエンテーションがスタート。ひとつめのプログラムは、「里山散策 ハローウッズ キャストウォーク」。モビリティリゾートもてぎ内にある自然体験施設「ハローウッズ」をガイドの案内のもと約1時間をかけて散策する。

もてぎにこれほどの自然が残されていることを初めて知った人も多かったようだが、これを体験するだけでも来る価値がある。実際、参加した子どもたちは数種類あるどんぐりを拾ったり、カマキリやカブトムシの幼虫に触れあえたりと大喜びだった。

「ハローウッズ(https://www.mr-motegi.jp/hellowoods/)」では、一般の方でも参加できるキャンプやワークショップなど予約制のアクティビティも実施しているので、ぜひ。

愛車でレーシングコースを走る至福の時

2つめのプログラムは「サーキットクルーズ」。全長4.8kmのレーシングコースをペースカーに続いて自分のクルマで2周走行する。レーシングスピードではなく、60~80km/hくらいを目安としたクルージングなのでサーキットは初めてという人でも安心。またこの時間はコースを専有しているため、途中でホームストレート上に停車しての記念撮影タイムが設けられた。本格的なサーキット走行は初体験という人が多くみな大興奮だった。

お待ちかねのランチタイムはVIPスイートにて。VIPスイートはグランドスタンドハウス2階に設けられた観戦ラウンジ。全面ガラス張りの展望席からはホームストレートを眼下に、サーキット全体を見渡す絶景が広がっている。ここで提供されたお弁当も美味しかったと評判は上々だった。

ホンダの歴史と未来を学べる機会

ランチ後は3つめのプログラム「ホンダコレクションホール ガイドツアー」。2024年3月にリニューアルオープンしたホンダコレクションホールを見学。創業期から現代に至るまで、二輪も四輪もロボット(アシモ)も飛行機(ホンダジェット)まで、また親世代にとっては若い頃に乗っていた、憧れていた懐かしのモデルなど、ホンダのさまざまなモビリティが一堂に会している。専門のガイドが案内してくれるので子供でもわかりやすいものだった。

ホンダを愛する参加者の皆さんにインタビュー

シビックタイプRに乗って親子で参加:安藤隆史さん/心之介さん

もともと二輪が好きでホンダを応援したいという思いから株を購入したという安藤さん。映画『汚れた英雄』がきっかけで二輪に興味をもつようになり、それからホンダのファンになった。現在はこのシビックタイプRのほか、Nワゴン、ビート、モンキーなども所有しているという生粋のホンダファンだ。

タイプRを所有しているだけあって、鈴鹿やもてぎでの走行も経験済み。また中学生の息子の心之介さんも幼稚園の頃から4~5回はもてぎに遊びにきたことがあるという。こうした父親の影響もあり心之介さんもF1観戦をはじめクルマが大好きと話す。近い将来には父親からビートを譲り受ける予定だ。今回の体験会については「ものすごい倍率のなかで、当選したのはラッキーでした。質の高いサービスを受けられてとてもいい経験ができました」ととても満足そうだった。

親子4人で東京から参加:山本ゆうじろうさん/奥さま/りこさん/そうまさん

学生時代にスクーターのトゥデイをはじめ、アメリカンタイプのVツインマグナに乗り継いだことでホンダファンになったという山本さん。「長い間ホンダのバイクに乗っていたんですけど、丈夫だし良いメーカーだなと思って、それが株を所有しようと思ったきっかけでした」。娘の“りこ”さんもハローウッズでカマキリに初めて触ることができたり、またコース幅の広いサーキットを体験することができ終始笑顔の様子だった。

「株をもつことで家族がホンダという会社に興味をもってくれるようになりました。そして、こういった体験会に参加できたことで家族のホンダに対する理解がより深まったと感じています。クルマにはそれほど興味のない妻もまたもてぎに遊びに来たいと言ってましたし、さらに株を長期保有してみようかな、買い増しをしてみようかなという気にもなりました。企業価値が上がるいいイベントだと思います」

20代の頃からホンダの株を所有:青野良平さん(左)/友人の坂本将直さん(右)

大学生の頃から株に興味をもち、株主優待のことを調べては自動車メーカーやサプライヤーの株を買い始めたという青野さん。ホンダの株は20代で手に入れてすでに8年間も所有しているという。聞けば青野さんの初めてのクルマはフィット2で、友人の坂本さんが現在所有するのはヴェゼルというから、やはり2人ともホンダファンのようだ。

「そもそもはサーキットを走行できるというのでこの体験会に申し込んだのですが、森林を散策するプログラムも楽しかったし、弁当もとても美味しくて。サーキット走行ももちろん楽しかったけれど、もてぎにはそれだけじゃない良さがあることを知ることができてよかったです」と青野さん。「僕も株を買いたくなりましたね」と坂本さんも続ける。遠方に暮らす2人は泊まりがけの旅行の一環として参加していたが、この体験会はそういった楽しみ方もあるようだ。

思い出という配当。「トキ消費」へと昇華する企業とファンの絆

近年、消費行動の変化をあらわすものとして、モノ消費からコト消費という言葉が使われてきた。日産のキャッチコピーには「モノより思い出」なんていうものもあった。それが最近では、コト消費の進化版としてトキ消費という新たな言葉が生まれているという。

コト消費が再現性のあるものであるのに対して、トキ消費とはその場所やその時間でしか体験できない特別な消費体験のことを意味するという。ちなみにホンダの株主優待においてもっとも人気なのはわずか12名のみが参加できる「Honda Jet体験会」という。実機に搭乗して遊覧飛行体験ができるというから、まさに株主優待もトキ消費へと進化しているということのようだ。

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フォト=篠原晃一/K. Shinohara

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