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2025年12月4日の先行予約開始以来、自動車ファンの間で大きな話題を呼んでいるホンダの新型「CR-V」。すでに海外では販売され高い評価を得ているこの第6世代モデルが、満を持して日本市場へ再投入される。注目すべきは、単なるボディサイズの拡大やパワートレインの刷新にとどまらない。開発陣が目指したのは、圧倒的な機能美とプレミアムな質感を両立させることだった。デザイナーや開発責任者の言葉から、新型CR-Vがデザインで解決した「視界」と「質感」のパズルを読み解いていこう。
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「走り屋」デザイナーが求めた機能的プレミアム
2026年2月の発売を予定している新型CR-Vのデザインコンセプトを聞き、意外な印象を受けた。「安心・快適なのに考えずに使えるパッケージ」。これが、ホンダを代表するグローバルSUVのデザイン・インテリアを担当した須藤大志氏が掲げたテーマだ。
須藤氏は自身のプライベートについて、愛車シビック・タイプRの内装をすべて取り払った「ドンガラ状態」でサーキットを走るほどのモータースポーツ好きだと語る。そんな「走り」を知り尽くしたデザイナーが、CセグメントSUVの王者を目指すCR-Vで追求したのは、飾り立てられた豪華さではなく、ドライバーが直感的に扱える道具としての洗練であった。

エクステリアは、先代モデルのワンモーション的なシルエットから一変し、Aピラーを後方へ引き、ボンネットを長く見せるプレミアムなシルエットへと進化した。フロントフードの先端を伸ばして「顎を引いた」ような精悍な顔つきにし、ホンダ最大級のボンネットフードを採用することで、堂々とした風格を演出している。しかし、このデザイン変更は単なる見た目のためだけではない。そこには、エクステリアとインテリアの担当者が共同で作り上げた、緻密な計算が隠されていた。
雪道でも迷わない「視界」への執念
新型CR-Vのデザイン開発において特筆すべきは、エクステリアとインテリアのチームが初期段階から密接に連携し、視界や機能について協議を重ねた点にある。その成果が如実に表れているのが、運転席からの視界設計だ。
例えば、運転席から見たインパネの最後尾の稜線と、ボンネットフードの線がピタリと重なるように設計されている。これにより、ドライバーは車両の先端や幅を感覚的に掴みやすくなる。さらにメーターバイザーの造形にも機能的な意味が込められている。バイザーには前後方向にキャラクターラインが入っているが、これがただの装飾ではない。この線が、車外の車道の線と視覚的に重なるようにデザインされているのだ。

須藤氏は、外界が白一色となる雪道での運転を例に挙げた。ホワイトアウトするような状況下でも、自車の骨格がしっかりと見え、外界との境界線が明確になることで、ドライバーは安心して直進状態やクルマの向きを把握できる。カッコよさと機能性は相反するものではなく、高度に融合できることを新型CR-Vは証明している。
加飾に加飾を重ねる「力技」が生んだ上質
インテリアの質感向上においても、開発陣の挑戦的な姿勢が見て取れる。須藤氏が「力技と言っちゃうとあれですが」と前置きして紹介したのは、ピアノブラックのパネルに木目調加飾を合わせるという手法だ。
通常、加飾の上にさらに加飾を重ねるようなデザインは、煩雑になりがちで避けられる傾向にある。しかし新型CR-Vでは、これを巧みにバランスさせることで、奥行きのある上質感を表現した。CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)を担当した岩崎氏は、部品構成をシンプルにしながらも、こうしたコーディネートによって全体の塊感を演出したと語る。

グレードによる世界観の描き分けも明確だ。「RS」グレードでは、キャビン周りを明るいグレーとし、黒内装の中にシルバー調のヘアラインフィルムやメッキ加飾を配置することで、洗練されたスポーティーさを表現している。一方、日本専用のコーディネートとなる「RS BLACK EDITION」では、加飾部分をダークメタル色に変更し、エクステリアの下回りもピアノブラックで引き締めることで、より重厚でミステリアスな印象を作り上げた。
「考えずに使える」を支える隠れた技術
デザインの美しさは、使い勝手の良さがあってこそ輝く新型CR-Vには、ユーザーの無意識のストレスを解消する技術が詰め込まれている。
その一つが、新型CR-Vで初採用された「スマートクリアワイパー」だ。ワイパー本体にノズルを内蔵し、進行方向にウォッシャー液を噴射して即座に拭き取る仕組みである。これにより、ウォッシャー液で一瞬視界が遮られるという不快感が解消されるだけでなく、洗浄効果を維持しながら約40%の節水も実現している。さらに、ワイパー格納時にはゴム先端の曲がりを一定頻度で変更させる機能を搭載し、ビビリ音の低減やゴムの劣化抑制まで配慮されている。

また、荷室の使い勝手も徹底されている。リアの開口部は段差のない「掃き出しフロア」となっており、重い荷物もスムーズに積載可能だ。パワーテールゲートには「予約クローズ機能」と「予約ロック機能」が備わり、ボタンを押して車から離れるだけで、自動的に閉まり施錠まで完了する。まさに「考えずに使える」機能の真骨頂である。
王者の風格と、使い手への優しさ
開発責任者の佐藤英資氏は、新型CR-Vの開発にあたり「ギャップの両立」を掲げた。スポーティな外観でありながら予想を超える室内広さを持ち、上質なのにタフに使える。そうした相反する価値を高い次元でまとめ上げたのが、この「究極のオールラウンダー」だ。
後席空間は先代よりホイールベースを40mm延長した恩恵を受け、レッグルームが16mm拡大されている。特筆すべきはリクライニング機構で、従来の2段階から8段階へと大幅に増え、角度も10.5度プラスされた。ドアは90度近くまで開くため、チャイルドシートのケアや乗り降りもスムーズだ。

ミニバンを卒業した層や、より上質なSUVを求める層をターゲットに見据えた新型CR-V。そのデザインには、単に高級素材を使うだけではない、使う人の所作や視線まで計算し尽くしたエンジニアリングが宿っている。走り屋の魂を持つデザイナーや、長年技術を磨いてきたエンジニアたちが作り上げたこのクルマは、日常の移動を「感動」へと変える力を秘めている。
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