























タッチパネル全盛へのアンチテーゼ。ジョニー・アイブ率いるLoveFromと描いた、EV時代の「新たな直感」
フェラーリは2026年2月9日、ブランド初となるフル電動スポーツカーの正式名称を「ルーチェ(Luce)」と発表した。昨年10月に「エレットリカ(Elettrica)」としてベアシャシーとパワートレインが先行公開されていたモデルであり、今回ついにそのインテリアとユーザーインターフェースの全貌が明らかになった。注目すべきは、デジタル化が進む現代において、あえて「物理的な感触」を重視した点にある。デザイン界の巨匠ジョニー・アイブ率いるLoveFromとの協業により、フェラーリはEV時代における新たなラグジュアリーとドライビング体験の定義を提示している。
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「エレットリカ」から「ルーチェ」へ。それは技術の誇示ではなく、未来を照らす“光”のビジョン
フェラーリは昨年10月のキャピタル・マーケット・デイにおいて、電動化戦略の要となる新モデルの主要コンポーネントを「フェラーリ・エレットリカ」の名で公開していた。それから約4ヶ月を経て発表された正式名称「ルーチェ」は、イタリア語で「光」や「照らすこと」を意味する。
フェラーリはこの名称について、単なるモデル名ではなくビジョンそのものであると説明している。電動化は手段に過ぎず、デザインとエンジニアリング、想像力が融合した新時代の到来を告げるものだ。「ルーチェ」という名は、明快さとインスピレーションのシンボルであり、フェラーリの革新への姿勢を表現しているのだという。この命名戦略は、跳ね馬のラインアップにおける同モデルの重要性を示唆しており、未来への道を照らし出す存在としての気概が込められている。
巨大スクリーンへの決別。あえて回帰した「物理スイッチ」がもたらす、濃密な対話と確かな手応え
今回公開されたルーチェのインテリアにおける最大のトピックは、元Appleのデザイナー、ジョニー・アイブとマーク・ニューソンが率いるクリエイティブ集団「LoveFrom」との包括的なコラボレーションだ。彼らは5年にわたりフェラーリと協業し、新モデルのデザインをあらゆる側面から再構築した。
現代のBEV(バッテリーEV)は大型タッチスクリーンに機能を集中させる傾向にあるが、フェラーリ・ルーチェはその潮流に真っ向から異を唱える。インターフェースのデザインにおいて、触覚、明快さ、直感的な意思疎通が重視され、ドライバーと車両との強いつながりを作るために「触れて操作したくなる物理的スイッチ類」が優先されたのである。
多くのスイッチ類は機械式であり、操作をシンプルかつダイレクトにするよう開発されている。これはクラシック・スポーツカーやF1マシンからのインスピレーションによるもので、重要な機能のみに絞り込まれている。例えばステアリング・ホイールは、1950年代~1960年代の名高いナルディ製木製ステアリングを再解釈したシンプルな3本スポーク形状を採用。そこには2つのアナログ・コントロール・モジュールが配置され、各ボタンは機械的フィードバックと音が調和するよう、テストドライバーによる評価を20回以上重ねて開発された徹底ぶりだ。
静寂から鼓動へ。Eインクのキーと「マルチグラフ」が演出する、アナログとデジタルの融合美
ドライビングの始まりを告げる「キー」にも、フェラーリらしいドラマチックな演出が施されている。自動車用ガラスとして初めて採用された高耐久なコーニング製フュージョン5ガラスと、電力消費を抑える「Eインク」ディスプレイを組み合わせたキーは、センターコンソールのドックに挿入されると色が変化し、システムが「静」から「動」へと切り替わる。
情報の表示系(アウトプット)と操作系(インプット)は明確に整理された。ドライバー正面の「ビナクル(計器盤)」は、ステアリング・コラムに取り付けられ、ステアリングの角度に合わせて動くことで常に最適な視認性を確保する。ここには有機ELディスプレイが採用されているが、グラフィック自体は1950年代~1960年代のヴェリアやイェーガーのメーターを想起させるアナログ時計のようなデザインで、直感的な読み取りやすさが追求されている。
また、センターコンソールには「マルチグラフ」と呼ばれるマイクロエンジニアリングの傑作が鎮座する。これは独立したモーターで針を駆動するアナログの美しさと高度な電子制御を融合させたもので、時計、クロノグラフ、コンパス、そしてローンチ・コントロールという4つのモードを華麗なアニメーションと共に切り替える。
合成音は排除する。4モーター・1000psの怪物を手懐けるための「本物のサウンド」と低重心
インテリアが「静かなエネルギー」と「伝統」を表現する一方で、そのシャシーにはフェラーリの最先端技術が詰め込まれている。昨年秋公開の情報によれば、フェラーリ・ルーチェ(当時はエレットリカ)は、前後に各2基、計4基の電動モーターを搭載し、ブーストモードでの最高出力は1000psを超える。0-100km/h加速は2.5秒、最高速度は310km/hに達する。
特筆すべきは、これらのパフォーマンスがフェラーリ独自の「音」と共に提供される点だ。フェラーリは合成音を使用せず、電動パワートレインの機械的振動を高精度センサーで拾い、それを増幅させることで「本物のサウンド」をドライバーに届けるアプローチを採った。また、バッテリーをシャシーの構造部材として統合することで、従来の内燃機関モデルと比較して重心を80mmも低く設定することに成功しており、ブランド特有の鋭いハンドリングは電動化されても健在だ。
今回の発表でインテリアと名称が明らかになったフェラーリ・ルーチェ。エクステリアを含めた完全な姿は、2026年5月にイタリアで開催されるイベントで披露される予定である。フェラーリの歴史における新章は、伝統への敬意と革新的なインターフェース、そして圧倒的なパフォーマンスを携えて、まもなくその全貌を現す。
【ル・ボラン編集部より】
「プロサングエ」でボディ形状の呪縛を解き、ブランド初のPHEV「SF90ストラダーレ」とそれに続く「296GTB」では電動化すら快楽に変えたフェラーリ。彼らが満を持して放つBEV「ルーチェ」の真価は、1000psのスペック以上に、あえて「物理スイッチ」へ回帰したその哲学にある。タッチパネルによる情報の氾濫に背を向け、ドライバーとの“対話”を最優先する姿勢こそ、真のラグジュアリーだ。合成音を排した機械音の演出も含め、マラネロはBEV時代においても、クルマが「愛すべき機械」であり続けるための道筋=光(Luce)を示そうとしているのだ。
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