ポルシェ、1973年キャメルGT参戦車にインスパイアされたワンオフの新型「911 S/T」を発表
ポルシェの特別カスタマイズ部門であるゾンダーヴンシュは、1973年のキャメルGTチャレンジに参戦した伝説的なマシンを現代に蘇らせた、唯一無二の「911 S/T」ワンオフモデルを発表した。この車両は、かつて北米のサーキットを席巻したオリジナルの1972年型911 S/Tを所有するスイスのコレクターからの依頼により誕生した。単なる復刻にとどまらない、芸術的な再解釈が施された特別な一台となっている。
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伝説のレーシングカーがインスピレーションの源
ベースとなったインスピレーションの源は、カナダのレーシングチームが採用し、名門ブルモス・レーシングがレース向けにチューニングを施した1972年型の911 S/Tである。このマシンはフェニックスレッドのボディと、フロントとは全く異なるデザインのワイドホイールをリアに履くという特徴的なスタイルを持っていた。1973年から1978年にかけて、セブリングやデイトナなど名だたる北米のサーキットで開催されたキャメルGTチャレンジにおいて、計27回のレースを戦い抜いた歴史を持つ。
輝かしい戦歴を持つこのオリジナル車両だが、1978年のトロワ・リヴィエールでのクラッシュにより競技生活に終止符を打った。しかしその後、不死鳥を意味するフェニックスレッドの名の通り見事に修復され、現在はスイスのカーコレクションに収蔵されている。そして今回、この歴史的マシンの現在のオーナーが、自身の愛車をモチーフにした現代版の911 S/Tをゾンダーヴンシュプログラムを通じてオーダーしたのである。
単なるレプリカではない、芸術的な再解釈
今回のプロジェクトの目的は、クラシックモデルの単なるコピーを作ることではなく、芸術的な再解釈を生み出すことであった。カレラGTなどを手掛けたデザイナーのグラント・ラーソンが担当し、オリジナルのシグナルイエローをフロントバンパーなどの一部に残しつつ、ボディの大半をフェニックスレッドで仕上げた。手作業で丹念に施された流れるようなカラーパターンが、この車に唯一無二の表情を与えている。
また、1970年代のレースシーンを象徴するタバコ広告のデカールは、現代のコンプライアンスを考慮してあえて引き継がれていない。その代わり、象徴的なラクダのマークや各サーキットのアウトラインが、特注の刺繍入りヘッドレストやセンターコンソールなど、インテリアの各所に繊細なディテールとして組み込まれた。ドアのロゴプロジェクターからは、レーシングカーを運転する禁煙したラクダの姿が地面に照らし出されるという遊び心も取り入れられている。
機能的な非対称デザインと日常使いの両立
オリジナルモデルの特徴であった前後非対称のホイールデザインも、新たな解釈で再現された。リアホイールには、GT3 RS用に開発されたマンタイ・レーシング製のエアロディスクが装着されている。ただし、このパーツは911 S/Tの公道走行用としては正式な認証を取得していないため、停車時のみの装着に限定される。公道を走行する際には、オーナー自身で簡単に取り外すことが可能だ。
ポルシェのゾンダーヴンシュ部門が手掛けるすべての車両と同様に、このワンオフモデルもポルシェの厳格な品質基準を完全に満たしている。複雑な塗装や精巧なディテールはすべて卓越した職人技によって仕上げられており、サーキットでの走行はもちろんのこと、日常の公道での使用にも完璧に対応する。フェニックスレッドという歴史的なカラーを現代に復活させたこの特別な911 S/Tは、ポルシェのカスタマイズプログラムが持つ無限の可能性を見事に証明している。
【ル・ボラン編集部より】
数字の呪縛から解き放たれ、純粋な走りの悦びへと回帰した現代の911 S/T。そのスパルタンな素性とは裏腹に、一般道における望外な快適さという懐の深さに驚かされる。今回ゾンダーヴンシュが仕立てたワンオフモデルは、まさにその哲学の延長線上にある。70年代の伝説的レーサーの記憶を単なるレプリカとして懐古するのではなく、禁煙したラクダや着脱式エアロディスクといった現代の法規と日常性を逆手にとり、「大人の遊び心」へと見事に昇華させている。スペックではなく物語を愛でる、自動車趣味の深淵がここにある。
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