第3回モレッティ総合カタログ/MORETTI(1955)
今回採りあげるのはイタリアにかつて存在した小型車メーカーのモレッティです。
1925年創業
モレッティといえば、現在ではビールなのかもしれません。クルマ好きには1925年に創業し1980年代の終わりまで続いた自動車メーカーのことが真先に思い浮かびます。
モレッティはバイクから始め、第二次大戦時には電気自動車もつくっていたようですが、終戦後はガソリンエンジンによるクルマの生産を開始します。そして1953年からは750ccエンジンのクルマを開発、セダン、クーペ、スパイダー、ワゴン、商用車、そしてフォーミュラ・ジュニアといった幅広いラインアップを揃えるまでになりました。掲載したカタログは1955年頃のものと思われます。
1989年終焉
モレッティがフルラインアップで商品を展開していたのはごくわずかの期間だったようで、1950年代の後半になると全てを自社で賄うスタイルから、コスト削減のためフィアットをベースにした特定の車型だけを製造する方針転換を図ります。その後は、他の多くの例に違わずじり貧となり、1989年に全ての生産を終えることになりました。
ここに紹介しているカタログはモレッティ最盛期のものです。フィアットベースで商品展開を始めるとカタログも写真が主体になります。やはり人の描く絵は写真とは異なり、趣が感じられます。
お金のかかっているとはいえないカタログですが「流石はイタリア」、とても瀟洒です
紙質を誌面でお伝えできないのが残念ですが、わたしがまだ小さい頃チリ紙として使われていたような実に質素なものです。豊かになった今では、このような紙は見かけることすらできなくなってしまいました。しかも二色刷。このカタログは、日本の年号でいえば、昭和30年頃の物資が豊かでない世情を如実に表しています。こうしてカタログを眺めていると、現物だけしか伝えることのできない情報が、確実にあることを思い知らされるのです。
このカタログと向き合ってみると、つくづく豊かさとは何か、を考えさせられます。貧しいけれど貧乏くさくない。昔、サントリーオールドのテレビコマーシャルにも次のようなものがありました。UFOが出そうな荒野で出逢った羊飼いの青年の目が澄んでいることに驚き、「ぼくらは本当に豊かなのかな」と自問するもの。このカタログはさしずめ、サントリーのTVCFにおける羊飼いの青年なのかもしれません。掲載カタログのサイズは、237mm×163mm14ページ。表紙を掲載したカタログは171mm×121mmの24ページです。