それはちょうど90年前にさかのぼる
1926年6月28日、世界最古の自動車メーカー2社が合併に関する契約を締結した。ダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト(DMG)とベンツ&シー。ここにダイムラー・ベンツAGと月桂冠の内側に三芒星を置くエンブレムが誕生し、それが現在のダイムラー社へとつながっている。
DMGのブランド名だった“メルセデス”と“ベンツ”&シーを組み合わせた“メルセデス・ベンツ”の名称は1925年2月に商標登録されており、合併後、ダイムラー・ベンツAGの広告や掲載された出版物にその名が登場するようになる。つまり、一般的に使用されるようになったのは、正式に合併した1926年からということのようだ。そのためダイムラー・ベンツAG初期にはそれ以前のエンブレムも混在し、実際、1926年の「メルセデス・ベンツ タイプ630」のラジエターグリル上部には、ベンツ&シーの月桂冠で囲まれていない“メルセデス・スター”のみがあしらわれている。
当時のドイツは第一次世界大戦後の経済不況にあえいでおり、自動車産業においてもそれは変わらず、DMGとベンツ&シーも同様だった。それが合併した大きな理由のひとつなのは間違いないところだろうが、1926年の合併当時の広告によれば、両社はすでに1万5000人以上の従業員で年間に約6000台を生産し、約1.04億ライヒスマルク(当時の為替で約5000万円、現在の貨幣価値に換算すると約320億円)の売上高がある一流企業だったようだ。合併に先見の明があったことが誰の目にも明らかになったのは、世界恐慌に陥った1920年代末のことだった。