ラグジュアリーなリゾート地に佇みながらも、岩や急斜面が待ち受けるクロスカントリーや砂漠を走り抜けたベンテイガの世界デビューはセンセーショナルそのもので、新世代ベントレーを世の中に知らしめた。マイナーチェンジを控えるベンティガに乗り、存在意義を再確認した。
普段使いとリムジンをSUVとして両立
プレミアムカーよりひとクラス上のラグジュアリーは車両価格が概ね2000万円以上。このクラス初として2015年にデビューしたのがベンテイガである。
プレミアムカーとラグジュアリーの違いはキャビンに乗り込むだけですぐにわかる。ダッシュボードなどが射出成型のプラスチックでできたものがプレミアムカー、ウッドやレザーを贅沢に使って手作りされたクルマがラグジュアリーと思ってまず間違いない。ベントレーの生まれ故郷であるクルー工場は全体の半分ほどがインテリアを作るためのスペース。熟練の職人たちが手作業で加工する様子は、工場というよりも工房と呼んだほうがしっくりくる眺めだ。
ベントレーとSUVという意外な組み合わせも、実車を目の前にするとしっくりとくる。1950年代から1960年代にかけて、ベントレーは背が高い巨大なリムジンをいくつも世に送り出していたが、そのイメージとベンテイガのプロポーションはぴたりと重なる。事実、私たちがゲストとしてベントレーに招かれたとき、リムジン代わりにベンテイガを差し向けられることが近年は増えている。
改めてベンテイガに試乗した。エンジンはW12とV8の2タイプが用意されるが、今回テストしたのはV8モデルである。
走り始めてまず印象に残るのはその優れた静粛性で、ロードノイズやエンジンノイズが意識されることはほとんどない。おかげで、目の前に広がる豪華なインテリアと相まって、キャビンで過ごす時間がこのうえなく贅沢なものに感じられる。世の中にはドライバーを鋭く刺激するクルマが少なくないが、ベンテイガはその正反対。ステアリングを握るだけですっと心が落ち着くから不思議だ。
だからといってベンテイガが俊敏な走りを苦手としているわけではない。最新のV8エンジンはレスポンスが良好で、軽快感ではW12を凌ぐほど。しかも、エンジンは回せば回すほどパワーが湧き出してくる。重心の高いSUVボディのロールをしっかりと抑え込むサスペンションもいかにもベントレーらしい設定で、しなやかさの中にもしっかりと強い芯のようなものを感じさせる乗り味。そういえば、2019年モデルから足回りが見直されたのか、路面からの衝撃をさらにしっとりと受け止めるようになった。この結果、これまではやや硬いと思われていたベントレー推奨のBモードが活躍する機会が増え、フラット感の強い乗り心地を快適に楽しめるようになったのは嬉しいニュースといえる。
SUV特有の着座姿勢ゆえに視点は高く、大柄なボディにもかかわらず取り回し性は悪くないから、普段使いもできる贅沢なリムジンといってもいいだろう。