いま後輪駆動モデルが追加される意味とは。
アウディが5.2L・V10を搭載したR8 V10 RWDの発売を開始した。RWDとはいうまでもなく後輪駆動のことで、これまで同社は2018年に後輪駆動モデルのRWSを999台の限定で発売したことがある。もちろん完売したが、今回は限定ではなくカタログモデルとして継続販売される。R8といえば4WD、すなわちクワトロの象徴的なモデルだったが、一体どういうことだろうか。
その背景にはまず、R8だけでなくTTなどアウディのスポーツカーが転換期を迎えていることが挙げられる。昨年5月の株主総会で、ブラム・スコット社長はR8およびTTに後継モデルの予定がないことを発表した。正確にいえば、すでに公約している電動化へ向けたロードマップで、これまでのような高出力ICE(内燃機関)を搭載するスポーツカーはもはや時勢から外れており、再考が必要という判断だ。R8の開発を担当するアウディスポーツのオリバー・ホフマンも、2022年に発表予定のR8の後継モデルは電動化されるだろうと語る。ゆえに、有終の美を飾るという意味でICE搭載のR8を再びプロモートする意義、すなわちフェイスリフトを機にエントリーグレードともいえる後輪駆動モデルを加えてきたのも理解できる。事実、R8 V10 RWDスパイダーの価格は15万7000ユーロ(約1960万円)と、クワトロモデルに対して2万2000ユーロ(約275万円)も安い。
搭載する5.2L・V10はいまや希少な大排気量の自然吸気ユニットで、最高出力は540ps、最大トルクは540Nmを発生。試乗したスパイダーの自重は1695kgとクワトロモデルよりも55kg軽く、7速DCTを介しての0→100km/h加速は3.8秒、最高速度は322km/hに達する。ほぼ同スペックを持つランボルギーニ・ウラカンと比べると、特にアウディのDCT、Sトロニックの制御は素晴らしくスムーズで、変速時のメカニカルノイズもハーシュネスもほとんどなく、低速でも決してギクシャクしない。トランク容量も112Lあるから、これなら気軽に街中へショッピングにも出かけられるはず。現時点でデイリースーパースポーツの最右翼といえる存在だ。
しかも、価格は同スペックのウラカンよりおよそ5万ユーロ(約725万円)も安い。なんとも魅力的な話だが、残念ながら日本への正規導入はない模様だ……。