コラム

三菱ふそうのゴミ収集車仕様「eCanter SensorCollect」と災害レスキュー車「Canter Athena」コンセプトの革新性とは?

三菱ふそうトラック・バス株式会社は7月30日、川崎工場で開催した「Fuso Future Solutions Lab」の場において2台のコンセプトトラックを発表しました。
そのうち1台はゴミ収集車仕様 の「eCanter SensorCollect」で、これは「eCanter」をベースに各種センサーを搭載し、リモート コントロール で車両の一時停止や障害物の回避といった操作を可能にすることで、ごみ収集員の負担を軽減する次世代のゴミ収集車のコンセプトモデルです。
もう1台の「Canter Athena」は、「Canter」の四輪駆動車をベースに、実際に救急救助を担う国士舘大学の防災・救急救助総合研究所と共同開発した災害用レスキュー車両。第46回東京モーターショー2019 にも 参考出品車として展示されていました。

コンセプトモデルのお披露目に先立つプレゼンテーションでは、同社の副社長兼開発本部長であるアイドガン・チャクマズ氏が創造性を育むための取り組みを紹介しました。

安全・クリーンで住宅街に優しいゴミ収集を作業者1人で可能に

車両上部にはGPS、4G、WiFiのアンテナが並ぶ。

eCanter SensorCollectは、早朝に行われるゴミ収集作業を低騒音で行うこと、3人一組で行っている作業を1人で行うことを目指してeCanterをベースに開発されたモデルです。
現状では1人が運転し1人ないし2人が道路脇の集積所にあるゴミを集め塵芥車に投入しながら後を追うというスタイルですが、これを1人で行うために自動化制御装置が組み込まれています。
具体的には、作業者の腕に装着されたスマートフォン型HMIと車両が通信しながら追随し、安全エリアを確保しながら障害物を避けて走行するため高精度GPS、4G、WiFi、遠方検知LIDARモジュール4個、短距離超音波センサー16個が搭載されています。

機器は塵芥部分とキャビンの間に収納されている。一般的な塵芥車との外観上の違いがわかる部分。16個の短距離超音波センサーが周囲をウォッチ。遠方検知LIDARモジュールは車両の四隅に配置。縦に5つ並んだボタンはゴミの積込・押込装置の操作用。手動緊急停止ボタンは車両前後に配置される。

仕組みと手順はこうです。
① 作業者が収集車の前か後に立ちスタートボタンを押す。Bluetooth機器とのペアリングのよう。
② 安全な距離を保ちながら車両が作業者を追跡開始。左に見える黄色の端末は作業者用のリモート緊急停止スイッチ。
③ 作業者が収集ポイント付近の地点を設定、車両は設定地点まで移動
④ 作業者が塵芥車に投入

⑤ 次のポイントへ(②から繰り返し)
この間、経路上の障害物は自動で回避し、作業者と車両の間に歩行者が飛び出すというようなことがあれば自動で急停車します。また、作業車が携行している緊急停車リモコンや車両に設置されている緊急停車ボタンでも手動で停められます。

作業者の立ち位置が車両の前から後になる、あるいはその逆の場合は再度スタートボタンを押して位置登録をし直します。

災害時の情報収集コマンダー「Canter Athena」

一方、「Canter Athena」は国士舘大学の防災・救急救助総合研究所と共同開発した災害用レスキュー車両です。

登壇した国士舘 大学防災・救急救助総合研究所 津波古憲助教によると、災害発生時にどれだけ早く正確な情報収集ができるかがその後の救助活動に大きな影響を与えるのだけれど、これまでは残念ながらそれができなかったために遅れをとるケースが多かったそうです。この問題を解決するために開発されたのがこの車両ということです。
一番乗りで初動情報収集と応急作業のための数々の機器や機能が搭載されています。
少々の悪路でも走破できる四輪駆動、発電機、暗所を照らすライト、クルマが入れない場所を探索するオフロードバイク、水タンク、車両の上から遠くを目視するための屋上ステップなどです。
興味を惹いたのはシートがRECAROだったこと。これはカッコだけのためではなく、長時間の活動でも疲れないために選んだそう。またこのタイプはレース用のバケットシートと違い座面のサポート部が低いため乗り降り性が犠牲になっていないところもいいそうです。

力強く頼りになりそうな佇まい。被災したときに近づいてくる姿を見たらホッとするに違いない。

キャンターではこれ以上進めない!という局面ではオフロードバイクに乗り換える。キャビン天井には出入口が。屋根上に上り遠くを目視したり周囲の人たちとコミュニケーションを取ったり、現地でまず自分がスタックしてしまわないようにタイヤの下に挟む脱出用板も装備。スマホやラジオの充電などとりあえず必要な機器に電気を供給するための発電機も備わる。とりあえず必要な物資や機器を搭載し現地へ向かう。フロントには強力ライト類や宣伝活動のためのスピーカーも装備されており頼もしい。RECAROシートで疲れ知らず。座面のサポートが低いため乗り降り性も上々。

まだこれからだけどすごく可能性を感じた

ゴミ収集車仕様「eCanter SensorCollect」は自動運転車ではないということをなぜかしきりに念押ししていたのが印象的でした。こういう技術の場合、だいたいがすぐそこの自動運転時代を錯覚させるような表現を使うのになぜでしょう?
3人で行ってきた作業を1人で可能にするというのは狙いはいいのでしょうけど、手順を見ているとすごく手間も時間もかかるし、実際にはしばしば緊急停止するだろうから、そのたびに最初からセットしなおしなければならないことも考えると、何倍もの時間がかかるだろうと想像します。とっても効率が悪い。追随速度は時速5キkm/hと遅いし、車両としても機器分だけ長くなるし。どう考えても今の車両と方法を超える日がくるとは思えません。
でも、モンクも何も言わないゴミが相手なので別にゆっくりのんびりしていても構わないとも言えます。それに活躍の時間帯が早朝なので実証実験もやりやすそう。低騒音だから深夜にでもできますし。乗っている人はいないので多少粗雑な運転マナーでも問題ないでしょう。“どきゅっ”という感じで緊急停止するのですが、車内のことを考える必要がないのでどんな止め方でもいい。と、いうようなことを考えると、センサー類の開発などもこれを使ってどんどんやればいいんじゃないでしょうか。
今は4Gですが5Gにすれば集積センターで集中管理できるようになるとも思いますし。帰り道にいろいろと妄想していたのですが、貨物・郵便の集配、地方での人員輸送など先の応用編が楽しみな技術だと思いました。
もう一つ面白いと思ったのは、日本のゴミ収集方法に合わせた車両だということ。欧米人は何かと自分たちを主としたがるため、「ゴミ収集方法も欧米式にしてくれたらもっといい自動収集車ができるから社会を変えて」というようなことを言いそうなものですがそれがない。

また「Canter Athena」の方は、活躍の場はない方がいいのですが、万が一被災して不安な気分でいるときにこの姿を見れば元気づけられるかもしれませんね。解散のニュースも流れていますが、石原軍団の炊き出しにも使えそうです。石原軍団と言えば、西部警察ですが、もしあったならこれを主役に話が一つ作れそうです。不謹慎かもしれませんがそんなことも思いました。

社員が多国籍というところもある意味将来が楽しみ。

余談ですが、社員送迎に活躍しているバスもご紹介もちろんエアロスター。

取材・文:大田中秀一
写真:大田中秀一/相澤隆之

大田中 秀一

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