往年のシンプレックスから最新のEQSまで
コロナ禍で閉塞感に満ちた世の中だが、メルセデス・ベンツのクラシック部門は、そんな重い空気を突き破るようなスカッとしたイベントを企画してくれた。タイトルは「ドリームカー全員集合!」。ダイムラーとベンツがほぼ同時に自動車を発明した1886年から今日に至るまでのエポックメイキングなモデル、それも量産車だけでなく限定生産車、ワンオフのショーカーまでを一堂に会し、ほぼすべてのモデルのステアリングを握ることを許したのだ。
厳重なコロナ感染対策を敷いて開催された会場は、南ドイツのイメンディンゲンにあるメルセデス・ベンツのプルービング・グラウンド。2018年9月に完成したこの開発センターの敷地面積は520ha、東京ドームの約110倍で、オンロード、オフロードだけでなく自動運転用の市街地など、テストコースの全長は56kmにも及ぶ。
ここに集結したドリームカーたちは、1886年にカールベンツが発明した0.75psのパテントワーゲンから、昨年公開されたスタディモデルのEQSまで計20台以上。筆者が特に注目したのは1902年に初めてメルセデスと命名された伝説のシンプレックス、そして1954年製の300SLクーペだ。この2台は筆者にとって永遠の憧れであり、ともに公道を自らステアリングを握って走行したことがある。前者はニースのクラシックイベントでクラッチ操作に手こずり何度も立ち往生、後者はミッレミリアに参加してクラス4位に入賞した。
このほか、当時ドイツ中を探し回りようやく見つけた190E2.5-16や、1988年当時、チューナーだったAMGを初取材したAMG300E6.0なども感慨深いモデルだ。
「クルマは単なる移動の道具ではない」とはよく言われる。特にプレミアムを自認するメーカーはブランド力、すなわち付加価値を高めるためにデザイン、性能、品質、モータースポーツへなど様々な手段で「伝統的な価値」を創造する。メルセデスがこの点で非常に優れたパフォーマンスを発揮しているのは、最近のインスタグラム調査でも確認できる。ハッシュタグでメルセデスが登場するのは2480万回で、フェラーリの2190万回、ポルシェの1990万回を抑えて一位に入っているのだ。
楽しくも豪気なイベントは、同時にプレミアムブランドがいかに「憧れ」を大切に考えているのかを再認識するいい機会であった。