国内試乗

リアルスポーツよりもGTを好む輩に最適な1台「BMW新型4シリーズM440i」試乗記

迫力あるフロントグリルに目が行きがちだが走りの完成度もかなりの高レベル

BMWのアイコンでもある馴染み親しまれたキドニーグリルをここまで主張したモデルが過去にあっただろうか。とにかくそのインパクトは強烈だ。2019年9月のフランクフルト・ショーで発表されたBMW コンセプト4で確認していたとはいえ、新型4シリーズクーペを始めてみたとき、「ついにここまで来たか……」と思うと同時に、このクラスにしては久々に心奪われる美しきクーペだと思えた。

BMW伝統のショートオーバーハングに、AピラーからCピラーにかけての流れるようなルーフライン、そしてロングホィールベースにより、室内の居住性を高めつつ、クーペらしい美しいプロポーションが与えられているのが4シリーズの魅力だ。

こうしてキドニーグリルを巨大化した理由は、往年の名車たち(328や3.0CSi)をモチーフにしたと謳われるが、恐らくBMWの本音はブランドとして個性的かつインパクトあるデザインに仕上げることによって主義主張のみならずステイタス性をより高めたかったからに違いない。ライバル勢の傾向もしかり、ますます激化する市場において、今や個性こそ武器。走行性能や居住性など平均レベル自体が底上げされている中、より一層そうした要素が求められているからだと思う。

中央に直立するように配置されたこのグリルは、BMW328やBMW3.0CSiなど、往年の BMWの伝説的なモデルのデザイン的特徴を採り込み、現代的な方法で再解釈したものだ。

L字型のリアコンビネーションランプは、周囲をブラックアウトすることで、クーペモデルらしい個性的なリアビューが表現されている。

今回初対面となったM440i xDrive クーペは、いわば4シリーズの中核を担うもっともBMWらしさを匂わせるグレードだ。ベーシックモデルの420iクーペ(Mスポーツもある)と、スポーツモデルのM4クーペの中間に位置するだけに、きっと多くのBMWファンは気になるはず。4シリーズは先代(F32型)でもヒットしているとあって期待も大きく膨らむし、新型3シリーズ セダンの完成度が高かったこともあるからなおさらだ。

「OK,BMW」と話し掛けることで、車両の操作目的地の設定等が可能となるほか、渋滞時においてドライバーの運転負荷を軽減し安全に寄与する「ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能」が装備された。

エンジンは3L直列6気筒ターボを搭載。387psの最高出力と500Nmの最大トルクを発揮する。これに8速スポーツATを組み合わせ、車名にも記されているように駆動方式はAWD。さらに48Vのマイルド・ハイブリッドシステムも組み込まれ、ブレーキエネルギー回生と電力への利用のほか、加速時などでジェネレーターは駆動も補助、8kW(11ps)の追加出力によって発進時や追い越し時に一役買う。

今回の試乗車は最高出力387ps、最大トルク500Nmを発生する3L直6ターボエンジン搭載のM440i xDrive。このほかに、184ps/300Nmを発揮する2L直4エンジンもラインアップする。

このスペックを見てどう思うかは個人差もあるだろうが、BMW=スポーティ、キャッチコピーの“駆けぬける歓び”から判断すれば、十二分。ましてやクーペである。パワー値もさることながら、500Nmを出力すると聞けば、それなりに楽しませれてくれるだろうと早々にスタートすると、驚くことに軽快感が先だった。俊敏性も高いとあって、“速っ!”と思えるほどの鋭い加速を得られる一方、つねに身のこなしが軽やか。確かに3シリーズもそうだったが、スポーティなイメージをもつ4シリーズでこの仕上がりは、むしろ有り難い。もちろん、この軽快感は快適性にもつながる。

Mスポーツ・サスペンションが装着された足まわりは、3シリーズよりも10mm低められた車高の効果もあって安定性が得られることもあるが、どちらかといえばスタビライザーとホイール・キャンバーの変更による効果のほうが大きく感じられ、コーナリング時などではバリアブル・スポーツ・ステアリングと相まって、快適ながらも狙ったラインをトレースしやすい。フロントにストラット式、リアに5リンクという基本構成に驚くことはとくにないものの、ロール量も抑えられ、見事な姿勢でコーナーをクリアしていく様を体感してしまうと、もっと飛ばしたくなる! 実にBMWらしい仕上がりだ。

しかし、ここまでは実のところノーマルモード。さらに上の領域に期待しつつ、スポーツモードとスポーツ・プラスモードを試してみると、ハンドリングはやや重くなり(重すぎないのが良い!)、エンジンレスポンスも磨きがかかったようで、全体的にダイレクト感が増した。コーナリングもより旋回しやすい特性になり、タイトコーナーでも的確、その気になれば、派手なアクションも可能であることを予感させる。だが、このモードでも不思議なくらい不快感のない高い快適性を維持できていることには感心されられた。引き締まっているのに硬くないとでも言おうか……、そんな乗り味だ。

タイヤは前:225/40R19、後:255/35R19サイズのブリヂストン・トランザT005ランフラットが装着されていた。

だからペースは上がるばかり。走り慣れた箱根ターンパイクを存分に攻め始め、さまざまなモードを試してみても楽しさが増す一方で、一体感も得られる。しかも相当、速い! 無論、Mスポーツ・ブレーキの性能があってこそだが、こうしたワインディングを走るぶんには必要以上だから頼もしい。

とはいえ、個人的に思うのは、サーキットに行くまでの気分にはならないというのが本音。しかし、これこそBMWの狙いでもある。言わずもがな本気で走りたいならM4を買え!ということだ。サーキットでもそこそこ楽しめるとは思うが、Mのようなメリハリの効いた走りではない。一言で例えるなら“全体的に速くて快適”という質で、Dセグメントにおける完成度の高いGT=グランドツーリングカーといったところだろう。

後席のバックレストは40:20:40分割可倒式を標準装備しており、長尺モノの収納も可能。最大ラゲッジルーム容量は先代モデルより30L増の440Lを確保する。

だからこそ、気に入る人がいるはずだ。執筆もそのひとり。歳を重ねるつれ、リアルスポーツカーよりもGTを好むようになってきたから気に入らないはずがないのだが、このスタイリングを見てしまうと、もはや他のクーペには興味がなくなる。フロントから見れば巨大なキドニーグリルによってパワフルに感じ、サイドやリアから見るとCピラーの傾斜とわずかに膨らむリアフェンダーとの相乗効果によるエレガントさに惚れ惚れしてしまう。これは先代とも比較にならないほどの美しさだ。もし購入に至ったら、フロントのナンバープレートは外したくなりそうだが……。

【Specification】BMW M440i xDrive Coupe
■車両本体価格(税込)=10,250,000円
■全長×全幅×全高=4775×1850×1395mm
■ホイールベース=2850mm
■トレッド=前1580、後1590mm
■車両重量=1740kg
■乗車定員=4名
■エンジン型式/種類=B58B30B/直6DOHC24V+ターボ
■総排気量=2997cc
■圧縮比=10.5
■最高出力=387ps(285kW)/5800rpm
■最大トルク=500Nm /(51.0kg-m)/1800-5000rpm
■燃料タンク容量=59L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=11.2㎞/L
■トランスミッショッン形式=8速AT
■サスペンション形式=ストラット/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前225/40R19、後255/35R19

BMWジャパン公式サイト https://www.bmw.co.jp/ja/all-models/4-series/coupe/2020/bmw-4-series-coupe-highlights.html

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

野口優

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