新世代プラットフォーム「e-CMP」を擁したプジョー初のBEVとなるe-208。このモデルの魅力は、乗り味やランニングコストが内燃機関車に近しいこと。フランスの国民車らしく、ドライバーの感覚に寄り添ったBEVが登場した。
エンジン車に近い感覚を持ち合わせたBEV
今夏、日本上陸を果たしたプジョー208は懐の深いシャシー性能や常用域のトルクが充実したエンジンなどが好印象で、コンパクトカーが得意なメーカーであることを改めて認識した。
今回試乗が叶ったのはエンジン車と並行してラインナップされるBEVのe-208。新世代のCMP(コモン・モジュール・プラットフォーム)は開発当初から電動化を見据えたもので、BEV用はe-CMPと呼ばれる。バッテリーパックは前席・後席の下やセンターコンソールなどにH型に配置され、容量は50kWh。JC08モードでの航続距離は403kmとなる。テスラの登場以来、100kWh級の大型BEVが増えているなかではそうたいした容量に思えないかもしれないが、大きく重たいバッテリーを大量に搭載して走るのが本当に環境コンシャスなのかという疑問もある。より強力な急速充電が必要になり、冷却性も高める=エネルギー損失も大きくなるだろう。
そのあたりのバランスの見極めは難しいが、ホンダやマツダのBEVは35.5kWhにとどめてシティコミューターとして割り切った。プジョーはCセグメント以上のEMP2プラットフォームではPHEVを用意しているので、BEVはいまのところBセグメントで50kWh程度が閾値とみているのだろう。
モーターは最高出力100kW(136ps)、最大トルク260Nmで、フロントタイヤを駆動する。これもまた市販BEVのなかで、それほどトルクが大きいという部類ではないのだが、意外や乗り味にいい影響をもたらしていたのだから興味深い。
というのも、e-208の走りはエンジン車の208から乗り換えてもまったく違和感がない自然なフィーリングなのだ。もちろん、エンジン車のような音・振動はなく、スムーズにトルクが立ち上がってシームレスな加速をみせるBEVならではの魅力はあるのだが、それをことさらに強調するわけでもなく、ドライバーの感覚に寄り添う特性となっている。
BEVは回生ブレーキの強さを自在に調整できるから、BMWや日産などはアクセルだけで減速もコントロールする1ペダルドライブを唱えているが、e-208はそこも自然。Dレンジならば通常のエンジンブレーキ並みの減速感、シフトレバーを後ろに引けば強まるが、それも2速分シフトダウンしたぐらいの感覚で扱いやすい。
アクセルを踏みつければ、エンジン車に対して車両重量が増した分を超えてホットハッチ並みの素早い加速をみせる。面白いのはドライブモードでパワー&トルクが変わり、スポーツは100kW/260Nm、ノーマルは80kW/220Nm、エコは60kW/180Nm。1.2Lターボエンジン車は74kW、205Nmだからノーマルで乗ると似たような力感になる。
車両重量は1500kgでエンジン車より330kgも重くなるが、それによるネガティブ要素は最小限に抑えられていた。大きな段差を通過するときに、重さを意識させられることもあるが、サスペンションが硬くて突き上げがきついなどということはなく、快適性で劣ることはない。むしろ低重心化が図られたことによるメリットは大きく、コーナーではよりフラットな姿勢で安定感が高かった。
このバッテリー容量ならば、家庭の200Vで一晩充電すれば十分。急速充電にあまり頼ることなく乗れるのも健全だろう。プジョーでは補助金や燃料代を計算すると3年3万km程度でのトータルコストはエンジン車とあまり差がないことを強調している。乗り味に加えてコストでも多くのユーザーに向けたモデルであり、普及に本気の姿勢をみせているのだ。