自動車ジャーナリスト「桃田健史」氏のキャンピングカーライフをあれこれ紹介していくこのコーナー。第4回は「初の長距離移動、福井への旅 復路編」お話をお届けします。
岐阜へ里帰り
1244年に開山されたといわれる、福井の大本山永平寺。門前にある、お土産さんと蕎麦屋さんの「てらぐち」を営む山口さんがコンちゃんを見るなり「あれ、また違うクルマで来たの!?」と笑顔で話しかけてくれた。
その前日、えちぜん鉄道・永平寺口駅近くにある、元郵便局の建物を活用したフレンチレストラン「ラポスト」のオーナーシェフ近岡さんは「ネットで見ていたイメージより、外観はシンプルでも、こうやって車内を見ると、う~んいいなぁこれ。普段づかいできますよね」と腕組みをした。筆者と永平寺町とのお付き合いも、足かけ4年目。経済産業省と国土交通省の支援事業をきっかけに、町の施策の議論に直接関わる「永平寺町エボルーション大使」の任を町役場から受け、町の皆さんと永平寺町のこれからについて議論を深めてきた。
こうしてコンちゃんが町の皆さんに新しい仲間として受け入れられたことを、とても嬉しく思う。
では一旦、首都圏に戻るとする。
永平寺町の自宅の近く、お友達のひなちゃんやマルちゃんにも挨拶して土曜日の午前6時半に帰路についた。福井北ICで北陸道に入ると、かなり強い横風に遭遇した。車高が2メートル近いコンちゃんは当然、風の影響は受けるものの、これまで何度か福井まで一緒にきたN-BOXのシロちゃんと比べて、やはり車重が重い分、ふらつきが少ない。米原ICで名神高速に入り、一宮JCTで東海北陸道を北上する。途中、NEXCO中日本が運用する高速道路内の大型施設ハイウェイオアシスのひとつ、川島PAをちょっと見学してから、岐阜各務原ICで降りた。
各務原(かかみがはら)という地名、中京圏では馴染みがあると思うが、首都圏の皆さんの中には初めて聞いたという方も少なくないのではないだろうか。市内に入ると、航空自衛他の岐阜基地、そこに隣接するように川崎重工業の工場や近代的なオフィスが並ぶ。P-3C哨戒機、ヘリコプター、航空機用ジェットエンジン、そして777などでボーイングとの協業開発など、川崎重工業の航空宇宙関連部門がここに集約されている。さらに、この各務原こそ、コンちゃんの生まれ故郷、岐阜車体工業の本社と最終組立工場がある地なのだ。
コンちゃんの仲間たち、ハイエースはトヨタ自動車の商業車だ。具体的なクルマづくりは、トヨタグループのトヨタ車体がトヨタ本社と連携して製品企画が行われ、製造は同じくトヨタグループの岐阜車体工業が全面的に担っている。岐阜車体工業の本社工場入口近くには「感謝 地域・社会とともに創立80周年」という垂れ幕があり、80周年のロゴにはハイエースの姿がある。
コンちゃん、こうして元気にやってますよ。岐阜車体工業の皆さんに感謝して、さあ次へ。
「HACO×HACO」とはなにか?
各務原から一般道を30分ほど走り、可児(かに)市に入った。キャンピングカーファンならば、可児と聞いてピンっとくると思うが、この地は人気キャンピングカービルダー・トイファクトリーの本拠地である。
岐阜店のショールームを訪れると、隣接する広い駐車スペースには出荷を待っているのだろうか、ベストセラーのBADEN等がズラリと並ぶ。朝10時の開店まもない時間帯でも、ショールーム内では真剣モードで商談中のお客さんがすでに大勢いた。つい先日、JNN系列(関東圏ではTBS)のドキュメンタリー番組「情熱大陸」で同社の藤井昭文社長が取り上げられたこともあり、トイファクトリーの知名度はますます上がっている印象がある。
ここで改めて説明すると、キャンピングカービルダーとは、いわゆるアフターマーケットの独立系企業やショップであり、ベースとなる車両をディーラーを通じて仕入れ、それを自社工場でカスタマイズして販売する仕組みだ。カスタマイズの手法も、ビルダーそれぞれの個性が出る。その上で、車両の保証などについてはそれぞれのビルダーが独自プランを設定している。
一方で、自動車メーカーの直接資本、または地場資本によるディーラーの場合、一部でキャンピングカー仕様車を自社で手掛けて販売するケースがある。その一例が、コンちゃんで、モビリティ神奈川(KTグループ)のハイエースキャンパーアルトピア―ノだ。同社の方針としては、トヨタの新車としての規定内の改良にとどめている。そのため、こうして実際にトイファクトリーの人気モデルたちとコンちゃんを見比べてみると、コンちゃんはとてもシンプルなカスタマイズに見える。また、トイファクトリーでは埼玉トヨペットと協業したモデルがあり、こちらはコンちゃんっぽいシンプルな造りで、価格も抑えめだ。
こうしたキャンピングカービルダーによるフルスペックのバンコン(バンコンバージョン)を選ぶのか、それともコンちゃんのようなライトな仕様を選び、カーサイトタープ(テント)などで屋外専用空間をかせぐのか? ユーザーの好み次第である。そんな中、筆者として、またこれからキャンピングカーにトライしてみようと思っているユーザーが注目しているのが、トイファクトリーから2021年4月1日に販売を始めた「HACO×HACO(ハコ×ハコ)」だ。
詳しくは同社ウェブサイトを確認して頂くとして、ここでは簡単に説明すると、まるで家の中で組立家具を置くように、ユーザーのライフスタイルにあわせた理想的な組み合わせをユーザー自身が自在に作り上げるというコンセプトだ。こうしたアイディアはこれまで多くの人や企業が考え、ごく小規模では市販されているが、ここまで多様なアイテムを取り揃え、かつ全国各地のトヨタディーラーで取扱うということが、キャンピングカー業界の中では大きなインパクトがある。
後日、「HACO×HACO」をハイエースに組み込んだ実車を横浜トヨペット(ウエインズグループ)の新業態店舗「U-BASE湘南」(神奈川県藤沢市)で触ってみた。実物を見ながら「今後さらにキャンピングカーが世の中で一般化すると、ニトリやイオンがプライベートブランドで車載棚の組立てキットを売るようになるのかも?」というイメージを持った。
さて、話を福井からの復路に戻す。
11時にはトイファクトリー岐阜店を出て、可児御嵩(かにみたけ)ICから東海環状道へ。途中、鞍ヶ池PAで一旦停車。可児市内のスーパーで買ったタコのお刺身を切ったり、中京地域ならではの、寿がきや・味噌煮込みうどんにお湯を注ぐ。ひと息ついてから、新東名を経て、東急・二子玉川駅(東京都世田谷区)近くで開催されている本サイトの媒体、ル・ボラン主催のEVイベントに顔を出そうとしたのだが……。難所、東名高速海老名SA近く大和トンネル・綾瀬バス停付近でなんと事故。いつものサグ部(下り坂から上り坂に変わる地形)の渋滞に輪をかける大渋滞が発生したため、残念ながらEVイベント見学は断念した。
それから……、本連載番外編でご報告の通り、福井の旅の後、コンちゃんの足下をノーマルタイヤとスチールホイールから、YOKOHAMA PARADA PA03と鍛造ホイールのRG-D2(ブラック)に変えたところ、走りは激変。結果的に、商用車の乗用化の難しさを実感することになった。
詳細な走りの感想については、次の旅路にてご紹介したい。
この記事を書いた人
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。