独プレミアムを筆頭に、自国の仏&米伊など多くのライバルがひしめくEセグメントで、独自の世界観を築き上げてきたDSが新たにフラッグシップモデルとなるサルーンを投入した。まさにフレンチラグジャリーを具現化した、パリ生まれの雰囲気が漂うDS 9は、我々にどんな世界を見せてくれるのか?
アヴァンギャルド感が満載のフラッグシップサルーン
今回、都内での試乗と撮影に供されたDS 9を目の前にして、まずハッとさせられたのは「ノワール ペルラネラ」によるボディ塗装のクオリティが高いことだ。ノワールは黒のことなので「黒真珠」を表すペルラネラと重ねるのは、冗語のはずだが、パールカラーの深いニュアンスというだけでなく、映り込みの輪郭がはっきりしていることに驚いた。水溶性ペイントが常識的な昨今、かくも平滑性の高い塗装面は、サイズ的にはEセグメントで、日本市場における価格帯的にはジャーマン・プレミアムやレクサスらのDセグ・サルーン勢に相まみえるニューカマーとして、意気込みと意識の高さを感じさせる。
往年のDSに倣ったCピラー後方のオーナメントライトは、日本仕様では認証の問題か採用されなかった。だがルーフやボディサイドなど、薄く削いだ凹面で全体的にスヴェルトなサーフェスで魅せるエクステリアは、見慣れた筋肉隆々の表現とは一線を画す。クロームの面積も小さくないがボディのサーフェスと均一面として馴染ませることで、妙に光らせない工夫も独特だ。ボンネット上面、クルー・ド・パリの大胆なバー・オーナメントとて同じで、光りモノをなるべく光らせない工夫はDSの得意技といえる。
そんな地味ハデな、フランス流のアンダーステイトメントがさらに炸裂するのが、トリム名「オペラ」のインテリア。ルビー・レッドのナッパレザー&テップレザーでダッシュボードからコンソールにドアパネル、さらにシート背面まで、覆い尽くされている。もちろんパールステッチが随所に施され、白黒モノトーンの無難さとほど遠いのに、落ち着いた雰囲気は貴重といえる。外観にも表れている通り、後席についても、座面長も足元も、十分に広々したスペースが確保されている。
いわばDS 9の主張するところは、デザイン面ではアヴァンギャルドでも、欧州サルーンの新顔としてあえてクラシックど真ん中であること。これまでSUVのみが展開していたDSブランドの基礎固めに、欠かさざる1ピースでもある。
ロングホイールベースのFFであることは、ドイツ的なFR勢に対抗するどころか、11CVやオリジナルDS以来の伝統ですらある。余談ながら2期目のマクロン仏大統領が再選就任パレードで選んでもおかしくなかったはずだが、1期目同様のDS 7クロスバックに落ち着いた。
試乗車のパワートレインはガソリンの225ps版で、以前に試乗したPHEVの225ps版より、ごく低速域の乗り心地はドライブモードをコンフォートにしてDSアクティブスキャンを働かせても、やや跳ね気味に感じられた。だがツギハギ路面の路地を抜け、一般道や首都高に連れ出すと、途端に足まわりの動きがスムーズに滑らかに、トロットのような軽快な足どりに変わる。
細かな振動を吸収しきるフィルトレーションの妙と、卓越した静粛性、ロングホイールベースながら素直な回頭性は、DS 9の動的質感における最上の部分だ。ちなみにドライブモードがノーマル時は、ロール抑えめの締まったライドフィールにもなる。
いずれ中高速域では、渋味のないリアのマルチリンク式サスに、しなり感の豊かなフロントストラット式サスのバランスが絶妙だ。とくに後者のロワアームは鋳造アルミだが、ハブ側だけ押出し材とおぼしき先端部分をボルト連結するという凝った構造となっている。
アヴァンギャルドの謳い文句から想像されるより、じつはケレン味のなさ、厳選素材の組み合わせの妙に支えられている事実に気づくと、俄然ユニークな一台なのだ。
【Specification】DSオートモビルDS 9オペラ
■全長×全幅×全高=4940×1855×1460mm
■ホイールベース=2895mm
■トレッド(F&R)=1595mm
■車両重量=1640kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1598cc
■最高出力=225ps(165kW)/5500rpm
■最大トルク=300Nm(30.6kg-m)/1900rpm
■燃料タンク容量=60L(プレミアム)
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=235/45R19: 245/40R18
■車両本体価格(税込)=6,999,000円
この記事を書いた人
1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。