南陽一浩の「フレンチ閑々」

看板はともかく、クルマを作るノウハウは途切れたことがなかったアルピーヌA110後継EVの技術に注目!【フレンチ閑々】

アルピーヌのEVがどんなモデルに仕上がってくるのかが楽しみ

今月、フランスのアルピーヌ・カーズ本社からかなり重要と思われるリリースが発表された。2026年からA110を代替する後継モデルがBEVになることは周知の通りだが、技術部門トップのロベール・ボネト氏のコメントをまとめる形となっており、そのポイントは3つほどある。

まず小社の別冊「アルピーヌ1」「アルピーヌ2」「アルピーヌ・ヌーヴォー」などで、折に触れて繰り返してきた認識だが、それがほぼ公式見解ヒストリーになった。過去にアルピーヌはブランドとしては途切れたことは確かにあったが、多少省いて数式ライクにいえば、ルノー傘下に入ってから「アルピーヌ+ゴルディーニ≒ルノー・スポール=現在のアルピーヌ・カーズ」なので、じつはクルマを作るノウハウは途切れていない。この見解が、EVの開発がいよいよ進んできた段階で発表されたことは重要といえる。新しいEVがアルピーヌやR.S.の系譜に連なり、値する一台となるサインとして受け止めるべきだろう。

ボネト氏はアルピーヌとルノー・スポールを蝶番のように繋ぐ市販車として、1995年のルノー・スポール・スピダーを挙げる。実際、RRの最後、A610から断絶したミドシップ・スポーツのようでいて、数々のFFホットハッチやニュルブルクリンクでのタイムアタックの金字塔を打ち立てるまで、エンジニアリング上のリソースは共通であり、現代のベルリネットことA110、さらにBEVにまで繋がるアルピーヌの独自ノウハウには、3本の柱があるという。それは空力と軽量化、そして比類のない足まわりセッティング能力だ。

まず空力については、つねにF1活動から最新の知見が引き出せる。F1の空力エンジニアたちは、市販車に求められる空力特性がフォーミュラのそれとかけ離れていることは前提としても、むしそうだからこそ、市販車にフィードバックできるものは少しでも反映させたがるという。

また軽量化は、アルピーヌならではのスポーツ性のコアであるとボネト氏は位置づけている。コンセプトカーのA110 E-ternitéは重量増が免れないBEV化にあたって、バッテリー自体は392kgあるにもかかわらず、車両重量の増加はICE版比で+258kgに抑えられている。つまりBEVになってそれでもなお、アルピーヌはポルシェ・ケイマンのICE並に軽く収まることが予想されるのだ。しかもリリースを読む限り、次世代のEV化されたA110ではE-ternitéと同様に前後に2分割式バッテリーが採用され、前後輪の重量配分を最適化することは決定的のようだ。参考までにE-ternitéの前後比は42:58と、現行の43:57とほぼ同じだが、アルピーヌは軽量化の目標値を1320kgとしており、まだ数値的に動くことは十分ありうる。それを可能とする技術的フィーチャーが、麻の繊維を用いたボディパネルと、アルピーヌが従来のDCTを基にさらに独自開発しているというEV用の2速DCTだ。

まず前者はボンネットやリアフード、ルーフパネルなど応力かからないところで市販モデルにも用いられる可能性もあるという。ところで今回の発表では同時に2台目のEVプロトタイプで、1台目の白と同じくA110 E-ternitéと呼ばれる青いプロトタイプも写真が公開された。確かにそれを見る限り、リアフードの熱抜きスリットが消え、リアウインドウからルーフ、フロントボンネットにかけて濃い茶色のファイバー状の目がうっすら見え、リネン・ファイバーのパネルと思われる。いわばA110Rと同じく後方視界は肉眼では塞がれカメラで確保する方向かもしれない。

他にも、前後のALPINEエンブレムは透過光になっているようで、またテールランプ下にフランス国旗のトリコロールのモチーフが追加された。加えて重要なことだが、A110でオープンモデルを希望する声が多かったことを受けて、E-ternité は脱着式ルーフとなっており、EVならではの無音・無振動に近い車内環境でオープントップで走行できることを、アルピーヌは狙いとして掲げている。

そして後者のEV用の2速DCTについては、トルクピークを逃さず効率よく伝えるために開発したと、ボネト氏は簡潔に説明するが、E-ternité の公表済みスペックは300Nm・178kW(約243ps)と、むしろICEより絞られてすらいる。これこそが動力源で無闇なパワーを追求するのではなく、いかに小さなリソースから高いパフォーマンスを引き出せるか、そのインテリジェンスこそが核になるという、アルピーヌひいてはフランス的なスポーツ性といえる。

これらを引き出すセッティングを担当するのがアルピーヌの開発ドライバーたちだという訳だが、ボネト氏はA110Rの開発を引き合いに出して「我々の開発ドライバーたちはカーボンホイールのたわみ、0.2mmの違いすら感じて指摘できる」と、自信を見せる。

だが驚くべきというかリリースの締めくくりとして逃せなかった点は、これらの仕事の成果は、あと数ヶ月で明らかにされるであろうという1文だ。次世代A110 となるEV市販モデルの全容は、思っていたより早く2023年後半には知ることができるかもしれない。

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

南陽一浩

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