コラム

北海道のゼロカーボンシティに向けた風力発電への取り組みとアウディとのコラボによる「サステナブル・フューチャー・ツアー」を実施!【自動車業界の研究】

アウディは持続可能な社会の実現の重要性について、一人ひとりが考えるきっかけの場を作ることを目的に「Audi Sustainable Future Tour Hokkaido(アウディ・サステナブル・フューチャー・ツアー・ホッカイドウ)」を2024年9月10日~11日に北海道で開催しました。
今回のツアーを通じて地球温暖化を抑制するためのカーボンニュートラルの実現に向けた再生可能エネルギーの利用を中心に日本のエネルギー課題や自動車のパワートレインがこれからはどのようにあると良いか? などにフォーカスしてご紹介します。

アウディのサステナブル・フューチャー・ツアーとは

現在、アウディはカーボンニュートラルの実現に向けてBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー型電気自動車)である「e-tron」のラインアップ増と急速充電ネットワークである「PCA(PREMIUM CHARGING ALLIANCE=プレミアム・チャージング・アライアンス)」の拡充、ディーラーや工場といった各種の事業活動における再生可能エネルギーの利用といった様々な取り組みを加速させていて、その中のひとつにサステナブル・フューチャー・ツアーがあります。

ツアーは今回で5回目を数え、これまでにバイオマス発電によるゼロカーボンシティの先駆けである「岡山県真庭市」や地熱発電で市内全ての電力を賄う「岩手県八幡平市」、太陽光発電で国内自動車ディーラー初となるカーボンニュートラル店舗運営を実現した「静岡県浜松市(Audi浜松)」、水力発電で島内のほぼすべての電力を賄う「鹿児島県熊毛群屋久島町」、そして、今回は地域需要以上の発電力を持つ風力発電の「北海道(北部)」と全国で開催されてきました。

ツアーはこれまでにバイオマス、地熱、太陽光、水力、風力による発電にフォーカスして開催されてきましたが、他には波力や潮力、太陽熱や大気熱といったところが再生可能エネルギー源としては思い浮かび、そういった意味でもツアーによって再生可能エネルギーを考えるきっかけになっていると感じます。

稚内空港とe-tron①(アウディジャパン提供)

稚内空港とe-tron②(アウディジャパン提供)

北海道のゼロカーボンシティ宣言

日本の国土の22.1%ほどを占める北海道は広大な大地に豊かな自然が育まれ、雄大で各所に観光地もありますが、今回のツアーで立ち寄った「サロベツ原野(湿原)〔およそ6700haで東京ドームが1400個分ほど、日本国内の湿原で3番目の規模を誇る〕」は日本最大の高層湿原でアイヌ語の「サル・オ・ペツ〔葦原(あしはら)を流れる川〕」を語源としていて、100種類以上の植物が花を咲かせ、国内希少野生動植物種の「シマアオジ」をはじめ、多くの渡り鳥がやってくる生き物の宝庫でラムサール条約にも登録されているそうです。

サロベツ原野①

サロベツ原野②

さらに北海道は豊かな自然による食物も豊富でおいしい季節料理を味わうことができますが、これらの自然を守るためや自然界のバランスを保つためにも地球温暖化の抑制、カーボンニュートラルの実現に必然性を感じさせられます。

季節料理と蝦夷前鮨・丸喜①(アウディジャパン提供)

季節料理と蝦夷前鮨・丸喜②(アウディジャパン提供)

北海道では多くの市町村が2050年にCO2(二酸化炭素)を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自らが又は地方自治体として公表する「ゼロカーボンシティ宣言」をしていて、衣・食・住・ごみ(廃棄物)・教育・スポーツ&健康・交通・森林・ビジネスといった様々なところで各種プロジェクトが取り組まれています。
それらの項目を見ると再生可能エネルギーや自動車以外でも、ゼロカーボンシティに向けて自らの日常生活において取り組めるところはたくさんあると感じさせられます。

世界屈指の規模を誇る「北豊富変電所」

2023年に風力発電と接続され稼働を開始した「北豊富変電所」は、国内最大規模で世界でも最大級の蓄電池設備を誇る変電・蓄電施設で、連携する風力発電所は約540MWを予定していて(風力制御システムで最大300MWに抑制し連携)、蓄電能力はアウディのBEVである「e-tron」の約8,700台に相当する720MWhを誇るそうです。

ツアーでは圧巻の規模を誇るリチウムイオン電池の連なる蓄電施設を見学することができ、その施設内は空調で温度管理が厳格になされていて、セキュリティも非常に高いことを伺い知ることができました。
見学では「現在、系統制約問題(発電した電力を系統に接続して利用ができない)があるので、北海道北部地域の恵まれた風況を活かした風力発電で得られた電力を安定して供給するための送電網の整備や容量の拡大と同時に電力を使う側の需要を高めることも大切」といった説明もあり、BEVの普及がその解決策のひとつになり得ると思いました。

北豊富変電所①(アウディジャパン提供)

北豊富変電所②(アウディジャパン提供)

日本における風力発電のパイオニア「オトンルイ風力発電所」

2004年に設立された「オトンルイ風力発電所」は、高さ約100mの28基の風車が3.1kmに渡って一直線に見られ、道内でも屈指の景観を誇る「オロロンライン」の一部として観光スポットにもなっている風力発電のパイオニアともいえる存在で、1基につき最大750kWを発電して設立から2023年までの約20年間で累計約1000TWhを供給、石油火力発電所との比較では年間約70万トンのCO2排出削減効果をもたらしてきたとのことです。
ツアーでは、風力発電が行われている直下に行く機会があって、発電用の風車のブレードの回転と共に一定の周期で“ブワン”と迫力のある音を放っていて大きさから凄みを肌で感じることができ、さらに風力発電用の風車は風向きやブレードの回転を発電が最大になるように、時には壊れないように風車が回転し過ぎるのを防ぐように、自動で風車の向きやブレードの角度を調整する機能も備えていて想像以上に高い技術が詰め込まれています。

オトンルイ風力発電所(アウディジャパン提供)

オトンルイ風力発電所とe-tron

オトンルイ風力発電所発電状況

オロロンライン(アウディジャパン提供)

日本最北端のAudi正規ディーラー「Audi旭川」

今回のツアーではAudi正規ディーラーとして、そして、同時に急速充電ネットワークである「PCA」の中でも最北端に位置する「Audi旭川(北海道旭川市東鷹栖東1条2丁目269-224)」を訪問、小雨の降る状況ではありましたが「e-tron GT quattro」や「Q8 55 e-tron quattro S line」などで実際に急速充電を実施しました。

「Audi旭川」には最新のターミナル・コンセプト・ショールーム・デザインが採用されており、入口から入ると受付の方が出迎えてくれて、ショールーム内は明るく整然としており、車両やアクセサリが展示されています。
そして、降雪地域であるため雨風雪よけにもなるショールームと一体感を持ったピロティ(吹き抜け)屋根がある駐車場も設置され、素敵でプレミアムブランドに相応しい上質さを備える空間が提供されています。

Audi旭川(アウディジャパン提供)

Audi旭川 受付

急速充電中のe-tron GT quattro

急速充電中のQ8 55 e-tron quattro S line(アウディジャパン提供)

急速充電中のQ8 55 e-tron quattro S line インテリア

初めて北海道で開催された「未来共創ミーティング」

北海道旭川市での「未来共創ミーティング」の舞台である「CoCoDe旭川」は、Audiのルーツにあたる「ホルヒ」ブランド創立年と同じ1899年に建設されていて、旧国鉄(日本国有鉄道)の工場をリノベーションした施設です。

「未来共創ミーティング」は、北海道再生可能エネルギー振興機構の鈴木 亨 理事長、環境経済学を専門とする北星学園大学 経済学部 経済学科 専任講師の藤井 康平 先生と藤井ゼミの学生さん5名、そして、アウディジャパンのマティアス・シェーパース ブランドディレクターによってミーティングが行われ、北海道の風力をはじめとする再生可能エネルギーのポテンシャルやアウディが掲げる環境保護プラグラム「Mission:Zero(ミッションゼロ)」とも親和性の高い自然環境保護や地域活性化をテーマとした研究内容の発表が行われ、白熱した議論が交わされました。
その中でも、とても印象的であったのは学生さんから率直に「北海道のように低温の地域で課題のあるBEVは普及しますか?」との質問に対して、シェーパース ブランドディレクターが「スウェーデンでは非常に高い普及をしています」と回答されたところです。
忖度の無い学生さんの質問内容によって少しだけ会場に緊張が走り、さてどういった回答がなされるのか? と固唾をのんで聴講していたので、思わず真っ当でストレートな回答に「なるほど!」と思わずにはいられませんでした。
低温の地域(寒冷地)であってもBEVが普及するということを水力や風力、バイオマスといった発電による再生可能エネルギーの利用割合が80%を超えていて、ゼロエミッションビークル(BEVとプラグインハイブリッド車)が60%以上普及しているスウェーデンで実現されているということを再認識することができました。

アウディは2050年までに全社でネットカーボンニュートラル、定義としては「取り得る削減策が尽きた後、製品や活動からのCO2排出量やアウディ車両のサプライチェーン、製造、リサイクル工程において現時点で避けられないCO2排出量を世界各地で実践する自主的オフセットプロジェクトによって相殺すること(車両の利用段階、すなわちユーザーへの納車以降に生じるCO2排出量は考慮せず)」を達成するという目標を設定していて、つまり、ここに再生可能エネルギーとBEVの利用が実現されれば、おおよそ全ての領域でカーボンニュートラルが実現されると捉えることができます。

CoCoDe旭川

未来共創ミーティング(アウディジャパン提供)

北海道再生可能エネルギー振興機構 鈴木 亨 理事長(アウディジャパン提供)

北星学園大学 経済学部 藤井 康平 先生(アウディジャパン提供)

アウディジャパン シェーパース ブランドディレクター(アウディジャパン提供)

未来共創ミーティング 出席者(アウディジャパン提供)

CoCoDe旭川とe-tron(アウディジャパン提供)

アウディのサステナブル・フューチャー・ツアーから考えさせられる自動車の未来像

再生可能エネルギーの風力発電による電気でBEVを走らせ移動するといった私たちの日常におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みは、風力発電が盛んな地域であってもすぐに全てがそのように至る訳ではないですし、さらに社会全体に普及させるには風力以外の各種再生可能エネルギーを用いたとしても相当に難しいことですが、それぞれの地域に根ざし適した再生可能エネルギーのリソースを移動の手段に用いる重要性をとても感じます。
例えば、屋久島における水力発電の活用や北海道における風力発電の活用といったように、再生可能エネルギーは基本的に自然界の力を利用しているため、地域に適した自然界の力を如何に上手く活用するか? が重要で、それには発起人となり得る事業者(産業)、専門家として支える有識者(学会)、各自治体やその首長(行政)といった各種機関の連携と協力が必要不可欠であり、実現するためには自らの信念を元に長期ビジョンを持ち周囲へ共有して、粘り強い実行力で協力し合って継続的に取り組んでいかなければ実現することはできないので、アウディの現在の取り組みもその一翼を担っており、BEVや充電ネットワークを地道に少しずつ増やしていくことが移動に関わるカーボンニュートラルの実現に向けては必要不可欠であると再認識します。

つまり、自動車での移動においては各種パワートレインを適材適所で用いることがカーボンニュートラルの実現に向けては必要であるため、巷で論じられるようにFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle=燃料電池車=水素から発電した電力によるモーターの動力で走行)、或いはハイブリッド車やエンジン車(カーボンニュートラル燃料である合成燃料やバイオ燃料等の燃焼による走行)が最適である地域もあるように、再生可能エネルギーで発電した電力を利用するBEVが最適である地域も確実に存在するので、アウディがBEVの普及を図るという役割をきちんと担うことの価値や強い決意を今回のツアーからも再認識することができ、その志の高さを感じます。

宗谷丘陵周辺(アウディジャパン提供)

宗谷丘陵周辺を走行するe-tron(アウディジャパン提供)

優雅で走りの魅力にあふれるフラッグシップ「SQ8 Sportback e-tron」

今回のツアーでは「Q8」や「Q4」の各種、「e-tron GT quattro」といった数々の「e-tron」で稚内から旭川まで300kmほどのドライブが行われ(宗谷~留萌~空知~上川の地域を走行)、いずれのモデルもアウディのBEVらしく静粛性が高くスムースで快適性の高い走り味でしたが、その中でも特に印象的であったのがフラッグシップモデルの「SQ8 Sportback e-tron」です。
同モデルは2023年12月に日本で発表されていて、CHAdeMO規格の150kWまでの急速充電に対応するため短時間での充電が可能で、フロントに1基、リヤに2基、合計3基のモーターが搭載されquattro(クワトロ=4WD)による力強くしなやかな走行性能を持ち(最高出力370kW、最大トルク973Nm、0-100km/h加速がわずか4.5秒という俊足を誇り)、総電力量114kWhで余裕のある一充電走行距離482km(WLTCモード)を実現しています。

そのドライビングフィールは、走り始めからのしっとり感に「お!」とフラッグシップの高級感が感じられ、基本的に静粛性の高いBEVというカテゴリーの中においても優れた静粛性を実現していて、それでいて路面状況を的確に伝えるステアリングへのインフォメーションとアジリティの高いハンドリングと、圧倒的にトルクフルでありながらアクセルワークに過敏ではなくスムースに反応するモーターのパワーによって、大柄なボディ(全長×全幅×全高=4915×1975×1615mm、ホイールベース=2930mm)や重さ(2720kg)を感じさせないストレスの無いパワフルで楽しい走りを提供してくれて、走行中の道路に猫が出て来るというハプニングもあったのですが、その際の急ブレーキでも安定していて無事に止まることができました。

今回のルートでは、特にオホーツク海の浜辺を臨んで北海道の大地を疾走する絶景の「オロロンライン」ドライブで“ゆったりと優雅にスムースで快適に!”心地良いドライブを提供してくれて、フィールドにとてもマッチしていると感じました。

SQ8 Sportback e-tron(アウディジャパン提供)

稚内空港を出発するSQ8 Sportback e-tron(アウディジャパン提供)

「SQ8 Sportback e-tron」はインテリアも高級感に溢れていて、シャープで水平基調のモダンなインテリアは理路整然と並んだディスプレイが中央に備わり、夜間はクールにライトアップされてドライブを演出してくれます。
居住性として前席はもちろん後席も十分に広く、さらにケミカルリサイクルと呼ばれる革新的なプロセスで自動車の混合プラスチック廃棄物を用いながらも強度に優れるというシートベルトバックルカバーも採用され、サーキュラーエコノミーにも取り組まれています。

SQ8 Sportback e-tron インテリア

「e-tron」によって研ぎ澄まされるアウディのブランドオリジナリティ

アウディはBEV「e-tron」の普及を次世代に向けて強力に推進していますが、ブランドとしてBEVを軸にするという決意が商品ラインアップや各種プロモーション、そして、今回のサステナブル・フューチャー・ツアーからも感じ取ることができ、昨今のBEVへの逆風下においても“ブレない”方針で着実に進めているということが伺えます。
BEVという商品には、エンジン車で言うところの給油と同義の急速充電を提供するネットワークが必要であるためインフラとして「PCA」の整備を図り、その充電する電気は再生可能エネルギーによって賄うということを知らしめるためにサステナブル・フューチャー・ツアーを開催するという、他の自動車ブランドが未だに手掛けていないところまでをピュアに提示することができるのは、きちんと長期サステナブル戦略が練られていて「ブランドオリジナリティ」が確立されているからこそであると思わずにはいられません。

カーボンニュートラルの実現に向けて“ブレない”方針で取り組みを推進し続けているアウディに今後も注目していきたいと思います。

サステナブル時代のブランドオリジナリティ〔ABeam Consulting〕

参考リンク)
アウディHP
https://www.audi.co.jp/jp/web/ja.html
「Audi Sustainable Future Tour Hokkaido」を開催 ゼロカーボンシティを目指す北海道を電気自動車 e-tronで巡る(プレスリリース)
https://www.audi-press.jp/press-releases/2024/s5n52g00000016z0.html?u=00003102&em=20240918-01
新型 Audi SQ8 Sportback e-tronを発表(プレスリリース)
https://www.audi-press.jp/press-releases/2023/pdhl9j0000001ad9.html
Audi Mission:Zero
https://www.audi.co.jp/jp/web/ja/stories/sustainability/futureisanattitude/mission-zero.html
Audi旭川
https://www.audi-asahikawa.jp/ja.html
PREMIUM CHARGING ALLIANCE(PCA)
https://pcajp.com/
サロベツ湿原センター
http://sarobetsu.or.jp/swc/
北海道北部風力送電株式会社
https://www.hokubusouden.com/
幌延風力発電株式会社
https://www.horonobe-wp.com/
ゼロカーボンシティ宣言(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/zcg/zero_city2.html
ゼロカーボン北海道チャレンジ!(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/zcs/challenge.html

 

この記事を書いた人

橋爪一仁

自動車4社を経てアビームコンサルティング。企画業務を中心にCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等、自動車産業の幅広い経験をベースに現在は業界研究を中心に活動。特にCASEとエンジンが専門で日本車とドイツ車が得意領域。

橋爪一仁

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