
桜前線を優雅に追うグランドツーリング
マセラティの本懐はグランドツーリングにある。ブランドの最新モデルであるグランカブリオと人気を牽引するグレカーレも、その出自から違うことはない。桜色が舞う頃、京都・奈良、そして兵庫へとこの2台を走らせた。歴史ある場所や土地を巡り、様々なドライブステージを駆りながら、イタリアンラグジュアリーの真価を知る旅が始まった。
【画像23枚】スタイリッシュなマセラティと美しい桜が互いを引き立てあう様子を見る!
頭上に桜を仰ぎ見るグランカブリオの愉悦
相対的な話をするのであれば、いつもの箱根試乗もいいだろう。けれどブランドの個性に合った試乗スタイルというものだってきっとあるはず。ではマセラティならどうか? ブランドを代表するモデルである「グラントゥーリズモ」という車名が、それをわかりやすく指し示しているに違いない。
ちょうど年度が替わるタイミングだったこともあり、テーマは桜と決めた。天候は関西方面の方がいいらしい。宿泊は奈良にとっておきの一軒を見つけた。そこを拠点として満開の桜を探すのである。
今回は2台のマセラティを交互に乗りかえながら旅をするスタイル。グランカブリオ・トロフェオとクロスオーバーSUVのグレカーレ・モデナである。往路でステアリングを握ったのは、グリージョ・インコグニトというブルーグレー系のボディカラーが空に溶けそうなグランカブリオの方。時折小雨が降る中を西へ向かった。
走行モードは迷わずコンフォートを選択。ステアリング上のスイッチで操作するストップ&ゴー機能付きアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)も直感的に使うことができた。あとはオプション装着のSonus Faberハイプレミアム・サウンド・システムとスマホを連携させれば極上の移動空間の出来上がりだ。
最高出力550㎰を誇るネットゥーノで4輪を駆動するオープン・スポーツカーらしからぬ使い方? いやいや、ラグジュアリーな佇まいと、レーシーな走りの融合こそ、今年で創業111年目を迎えたモデナの老舗の本懐なのである。飛ばして走る、オープンエアドライブを堪能するといったグランカブリオの真価には、相応しいシチュエーションでのみ触れるべきだろう。

MASERATI GRANCABRIO TROFEO ■全長×全幅×全高=4960×1950×1380㎜■ホイールベース=2929㎜■車両重量=1970kg■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ツインターボ/2992cc■最高出力=550ps(404kw)/6500rpm■最大トルク=650Nm(66.3kg-m)/3000rpm■トランスミッション=8速AT■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク■タイヤサイズ(F:R)=265/30ZR20:295/30ZR21■車両本体価格(税込)=31,200,000円
- 低回転からトルクフルだが高回転ではプレチャンバー特有の吹け上がりが楽しめるネットゥーノV6。
- 電制のエアサスによりラグジュアリーからスポーティまで幅広いセットを堪能できるシャシーとネットゥーノV6の組み合わせは絶妙。
- そこにわずか14秒で開閉可能な電動ソフトトップが華を添えるグランカブリオ。室内はアイボリー系のICEというカラーで纏められている。
投宿するリゾートホテル「ふふ奈良」までの350kmほどの往路で最も感動したのはACC。車線逸脱防止機能も含めたハイウェイアシスト(HAS)のドライビングは信用が置けるもの。自律走行としてはレベル2ということになるが、そのレベル2の完成度がまちまちだから始末が悪いのである。
予報通り愛知県より西の空は明るかった。抹茶で知られる京都の宇治を抜け「ふふ 奈良」へと続く下道ではグランカブリオの幌を下ろし、広い視野で桜を探しながら走った。こんな贅沢が許されるのもこのクルマならではといえる。

ふふ 奈良……奈良公園に隣接したリゾートホテル。ロビーから繋がっている客室は30室で全ての部屋に露天風呂が付いている。神社仏閣の雰囲気にも馴染む建物は瀟洒。マセラティとの相性にも優れていた。〒630-8301奈良県奈良市高畑町1184-1 https://www.fufunara.jp/ 宿泊予約に関するお問い合わせ℡:0570-0117-22(有料/10:00〜20:00)
今回の旅は奈良を起点としつつ、桜並木の絶景を探して京都や神戸、淡路島までを巡る。広範囲ではあるが、それだって足が速く快適なクルマがあれば全く問題はない。
翌日は「ふふ 奈良」に隣接する奈良公園の桜を撮影することからはじまった。予想はしていたが、ブルーグレーのグランカブリオと、ピンク色の桜との相性は抜群。カメラマンの手が止まらない。
硬軟両様入り混じる走りグレカーレの精神性
だがそれ以上に印象的だったのはグレカーレ・モデナの方だった。フォーリセリエカラーであるローズ・ゴールド・リキッド・メタルは桜の花びらを映し込んだような佇まいで風景に良く馴染んでいた。
奈良から神戸、六甲までの行程ではグレカーレ・モデナに乗り換えた。ステアリングをはじめとして、ダッシュ周りの景色はグランカブリオのそれに近い。それでも乗り味ははっきりと異なっていた。ほど良い重みを感じさせるステアリングや低いアイポイントなどスポーツカーらしさをひしひしと感じさせるグランカブリオ。それに対しグレカーレはストローク感のあるアシとSUVならではの視界の広さが緊張を和らげてくれる。

MASERATI GRECALE MODENA ■全長×全幅×全高=4845×1980×1670㎜■ホイールベース=2900㎜■車両重量=1920kg■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1995cc■最高出力=330ps(243kw)/5750rpm■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/2250rpm■トランスミッション=8速AT■サスペンション(F:R)=マルチリンク:マルチリンク■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク■タイヤサイズ(F:R)=255/40R21:295/35R21■車両本体価格(税込)=11,140,000円
- マセラティならではのスタイリングやドライバビリティに高い実用性も加えたヒット作。インフォテイメント系やADASなど標準の装備も充実している。
- コクピットの豪奢な仕立てはマセラティの伝統に則ったもの。
- トップグレードのトロフェオはネットゥーノV6を搭載。ミドルグレードのモデナとベーシックのGTは2L 4気筒ターボを積んでいる。
だが4気筒であることを意識しつつスロットルを踏み込むと面食らうことになった。ドライブモードがスポーツだったこともあり、出だしからドンッとトルクが背中を押してくる。マセラティ謹製の2L 4気筒ターボMHEVは時流に乗ったダウンサイジングユニットというだけではないのだ。
48Vの電力による「eBooster」と呼ばれる電動コンプレッサーが出だしの過給を行ない、いつの間にかターボチャージャーがフェードインしている。2Lながら最高出力は330㎰もあるので全域でトルクフルなのは当然。だがここまで頑張ってパワーを絞り出してしまうとスロットルレスポンスが悪化しそうなものだが、賢い過給システムのおかげでそれが全く感じられなかった。ターボ+AWDという機構を持ちながら、まるで4Lの自然吸気ユニットで操るFR車の如しである。
スロットルを踏み込むとリアタイヤにはっきりとトルクが入る感覚が伝わってくるのは、LSDのおかげだろう。そう、グランカブリオから乗り換えたグレカーレ・モデナはライトウェイトスポーツのような軽快な走りを見せてくれた。満開の桜がトンネルのようになった神戸を抜け六甲山を駆け上がる。稜線を縫うように走るワインディングでは、グランカブリオの走りを堪能した。幌を下ろし、走行モードはもちろんSPORTでクルマの感度を最大限に高める。
エアサスによるドライバビリティの変化は大胆なもので、さきほどまでのラグジュアリーカーがスポーツカーに豹変する。このカバレッジの広さこそがグランカブリオというクルマの真骨頂なのだと実感させられたのだった。
今回のグランドツーリングの目的でもある満開の桜並木とは3日目の早朝にようやく出会うことができた。それが兵庫県にある梨ケ原川のほとり「栗原の桜並木」だ。
理想的なメインカットが撮れれば、取材旅の緊張は解かれる。オープンエアで明石海峡大橋の主塔を仰ぎ見つつ、我々は淡路島へと渡った。ZENリトリートのための施設「禅坊 靖寧」を訪ね日帰りプランを満喫するのである。
山間に忽然と姿を現す壮大な建築物は坂茂氏の設計によるもの。細長い能の舞台のような「禅坊靖寧」と2台のマセラティの饗宴もまた、満開の桜と並ぶこの旅のもうひとつのハイライトだった。

禅坊 靖寧……建築家・坂茂氏による荘厳な建築。全体の80%以上が木造でできており、周囲の森に馴染ませている。手前側は斜面に接地しており、奥は浮き上がっているような複雑な構造になっている。〒656-2301 兵庫県淡路市楠本字場中2594-5 https://zenbo-seinei.com/ ℡:0799-70-9087
淡路島から都内まで、600kmを越える帰りのロングドライブではグレカーレ・モデナのステアリングを握った。包み込むように体をホールドしてくれるシートはスポーティなドライビングにも、肩の力を抜いて浸るACCによるクルーズにも向いていた。グランカブリオと同じくグレカーレのハイウェイ・アシスト機能もまた、ドイツメーカーのそれに肩を並べるような、しっかりとした完成度を誇っていた。
一方メーターパネルの表示を切り替えるとeBoosterによる巧妙なアシストの様子がわかる画面もあり、精巧ともいうべき協調制御の始終に驚かされた。
今回の旅の総距離は2000km弱。そこで実感したのは、マセラティが伝統だけを盾にして「GT」を名乗っているのではないということ。グランカブリオ・トロフェオとグレカーレ・モデナはともにGTの精神性を秘めながら、それぞれに異なる動的質感によって乗り手を魅了してくれたのだ。「さぁこのまま日本海を見て帰る?」そんな冗談すら口をつく気持ちの余裕。優れたグランドツアラーは旅と人生を豊かにしてくれる。
【問い合わせ】マセラティジャパン 0120-965-120
グレカーレの詳細はコチラ
グランカブリオの詳細はコチラ
※「ル・ボラン」2025年6月号より転載