コラム

「Sクラス」の原点、誕生60年。メルセデス・ベンツ「W108/109」は、なぜ今なお“傑作”と称されるのか?

Sクラスの礎を築いた不朽の名作

1960年代はファッションや建築、そして自動車の世界において大きな変化と革新が生まれた時代であった。そのデザインは華美な装飾を排し、明確なラインと機能的な形状を持つモダンで控えめな美学へと向かっていた。この新たな時代の潮流を的確に捉え、自動車におけるラグジュアリーの概念を再定義した1台が、1965年8月のフランクフルト・モーターショーで鮮烈なデビューを飾った。メルセデス・ベンツの「W108」である。

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ラグジュアリーセダンを際立たせるデザイン

スタイリストであるポール・ブラックによって生み出されたこの新しい高級車世代は、見る者に強烈な印象を与えた。そのデザインは、直線基調のすっきりとしたボディライン、従来よりも低く設定されたルーフライン、そしてエレガントな形状で広くとられたガラスエリアが特徴である。ブラックは、機能性、快適性、そしてエレガンスという要素を、見事に調和させながらも極めて個性的な1台の自動車へと昇華させた。

水平基調を強調することで安定感と伸びやかさを演出し、明確なラインに生命感を与え、全体のプロポーションを巧みにバランスさせたのである。ブランドの象徴であるラジエーターグリルも、伝統を受け継ぎつつほぼ正方形のモダンなフォーマットへと刷新された。その完成されたスタイリングは、短期的な流行に流されることなく、デビューから60年を経た今日においても、見る者を惹きつける魅力を放ち続けている。

この卓越したデザインは、室内の広々とした空間感覚にも貢献した。ゆったりとした寸法と高いレベルの走行快適性を両立したW108は、瞬く間に当時の高級セダン市場におけるベストセラーの地位を確立した。1965年には、W108のホイールベースを延長し、技術的に卓越した快適なエアサスペンションを装備した「300SEL」が登場。このモデルには独自のシリーズ番号W109が与えられ、さらなる格式を求める顧客層の心をつかんだのである。

これらのモデルは、1972年に登場する後継のW116から正式に「Sクラス」と命名される、メルセデス・ベンツのエレガントな高級車の系譜に連なる直接の先駆けであり、その後の革新的で個性的な高級車の代名詞となる礎を築いたと言えるだろう。その伝統は、現行のW223に至るまで、メルセデス・ベンツ、メルセデスAMG、そしてメルセデス・マイバッハの各モデルに一貫して受け継がれているのである。

最善か、無か――技術面でも抜かりのない造り

その先進性は、デザインのみならず技術面においても顕著であった。安全性と快適性、そして卓越した走行性能を実現するため、当時の最高の技術が惜しみなく投入された。全モデルが4輪にディスクブレーキを標準装備し、リアアクスルにはブレーキ力リミッターを搭載。さらに、重い荷物を積載した際に車体の姿勢を水平に保つハイドロニューマチック補正スプリングをリアに備えるなど、高度な配慮がなされていた。

当初搭載されたのは6気筒エンジンであったが、1969年にはエンジン製造における新時代の到来を告げる大きな変革がもたらされる。3.5Lの排気量を持つ新型V8エンジン「M116」と、ボッシュ製の電子制御式燃料噴射装置「Dジェトロニック」を搭載した「300SEL 3.5」が発表されたのだ。これはメルセデス・ベンツにおける初の量産V8エンジンの採用であり、同社のパフォーマンス文化に新たな1ページを刻む出来事であった。

そして、このW108/109シリーズの頂点に君臨し、後のパワーセダンの元祖とも言うべき伝説的なモデルが、1968年3月に登場した「300SEL 6.3」である。このモデルは、ブランドの最高峰に位置するショーファードリブンカー、メルセデス・ベンツ600(W100)から、実に6.3Lもの大排気量を誇るパワフルなV8ドライブトレインを移植。その結果、同時代のスポーツカーに匹敵する圧倒的な走行性能を手に入れた。ラグジュアリーとパフォーマンス、そしてスポーティネスが見事に融合できることを証明したこの特別な1台は、6,526人もの顧客に選ばれ、他に類を見ない威信を確立した。

1965年から1972年までの生産期間において、W108/109は合計で38万2,000台以上という、当時の高級車セグメントとしては驚異的な販売台数を記録した。この商業的な大成功こそが、今日においても多くの個体が良好な状態で現存している理由のひとつである。

クラシックカーとしての価値も高く、約10年前に価格が大幅に上昇した後も、その水準はさらにわずかに上昇を続けている。一例として、良好なコンディションの「280SE 3.5」は30,000ユーロ(約520万円)の大台を超え、トップモデルである「300SEL 6.3」に至っては、最高評価の個体が90,000ユーロ以上(約1550万円)で取引されるなど、技術面だけでなく資産価値においても別格の存在となっている。

今なお供給される純正パーツ

多くの車両が今なお現役で走り続けていられる背景には、メーカーであるメルセデス・ベンツ・クラシックによる手厚い純正部品の供給体制がある。メーカーの仕様に正確に従って製造される信頼性と耐久性の高いパーツは、この不朽の名作が本来の姿を保ち続けることを可能にしている。現在、走行安全に関連する重要部品を中心に約2,100点もの純正パーツが供給されており、近年では3種類のウインドスクリーン(A 108 671 02 10他)の再供給も開始された。これは、過去の製品に対するブランドの深い愛情と責任の証左と言えよう。

デビューから60年、メルセデス・ベンツ W108/109は単なる過去のクラシックカーではない。それは、現代のSクラスにも脈々と受け継がれるブランド哲学の礎を築いた、自動車史に輝く不朽のスタイルアイコンなのである。

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※この記事は、一部でAI(人工知能)を資料の翻訳・整理、および作文の補助として活用し、当編集部が独自の視点と経験に基づき加筆・修正したものです。最終的な編集責任は当編集部にあります。
LE VOLANT web編集部

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