マイアミの夜に溶け込む“光と闇”。北米で放たれた究極のレンジローバー
2025年12月2日、米国マイアミで開催された世界的なデザインの祭典「デザイン・マイアミ」において、ジャガー・ランドローバー(JLR)はフラッグシップSUVの最新モデル「レンジローバーSVブラック」を北米初公開した。会場では、この特別なモデルの世界観を表現するインスタレーション「ディップド・イン・ブラック(漆黒に浸した)」が展開され、訪れる人々を深遠なる黒の世界へと誘っている。
【画像13枚】黒陶のバッジにサテンの室内。一切の妥協なき「黒」で仕立てられた、究極のモダンラグジュアリーを見る
漆黒の純度を極めた「デザイン・ピュリティ」へのオマージュ
「レンジローバーSVブラック」は、レンジローバーの最上級ラインである「SV」シリーズに今年7月から新たに加わったモデルであり、ブランドが掲げる「モダニズム」と「洗練」を最も純粋な形で体現した一台だ。その名の通り、徹底的に「黒」にこだわり抜いた仕様は、単なる色の選択を超え、デザインの純度を高めるための哲学的なアプローチといえる。

マイアミでのデビューに合わせて用意された展示空間は、ミース・ファン・デル・ローエの傑作として知られるニューヨークのシーグラム・ビルディングからインスピレーションを得ている。シーグラム・ビルのファサードに見られる「黄金の光」を模した照明演出が施され、夜の闇に包まれたビルの内側から漏れ出す光のように、漆黒の空間に一条の光の帯が浮かび上がる。この光の帯の中には、レンジローバーSVブラックと同様に「黒の力」によってその魅力を増幅させたデザインオブジェクトが配置され、ギャラリーのような空間を創出している。
ステルス戦闘機を思わせる圧倒的なエクステリア
エクステリアは、まさに「漆黒」という言葉が相応しい。ボディカラーには深みのある「ナルヴィックグロスブラック」が採用され、フロントグリルは光沢のあるグロスブラックメッシュ仕上げ、ボンネットのレタリングも同様にグロスブラックで統一されている。これらは、ほのかにダークな光沢を放つグリルのオーバルバッジと相まって、精悍な表情を形成している。
サイドビューを引き締めるのは、グロスブラック仕上げの23インチアロイホイールだ。ホイールのスクリプトは控えめな仕上げとしつつ、ブレーキキャリパーには今回初めてダークなブランディングが施されたグロスブラックを採用するなど、細部に至るまで徹底されている。リアにはブラックセラミック製のSVラウンデル(円形バッジ)が配されており、この控えめながらも存在感のあるディテールが、妥協なきクラフトマンシップを静かに主張している。その佇まいは、さながらステルス戦闘機のような圧倒的なオーラを放っているといえるだろう。

この巨体を動かすパワートレインには、最高出力615psを発生するV8エンジンが搭載されており、デザインだけでなく走りにおいても圧倒的なパフォーマンスを誇る。ボディタイプは、標準ホイールベース(SWB)に加え、ロングホイールベース(LWB)も選択可能で、LWBでは4人乗りまたは5人乗りの構成が用意されている。
五感で感じる「センサリーフロア」という革新
インテリアにおいても、黒の美学は貫かれている。光沢のあるエクステリアとは対照的に、室内はサテンブラックの柔らかな仕上げが特徴だ。シートにはシルクのような手触りの「ニアアニリン・エボニーレザー」を使用。シート上部には独特なグラデーションの長方形パーフォレーション(穿孔)とユニークなステッチデザインが施され、さらにシングルパネルのシートカバーを初採用することで、縫い目や継ぎ目を減らしたシームレスでラグジュアリーな空間を実現している。
特筆すべきは、レンジローバーSVブラックに標準装備される世界初のテクノロジー「センサリーフロア」である。これは、レンジローバーが誇る「ボディ&ソウルシート(BASS)」技術を進化させたもので、シートに加えてフロアマットを通してハプティック(触覚)フィードバックを伝えるシステムだ。

従来のオーディオシステムが「聴く」ものであったのに対し、センサリーフロアは、音楽のビートや低周波振動を足元から直接感じることを可能にする。乗員は靴を脱ぎ、厚手のパイルカーペットを通じて伝わる振動に身を委ねることで、全身で音楽に没入するという未体験のリラクゼーションを味わえるのだ。このシステムは「Calm(静寂)」から「Invigorating(活性化)」まで6つのモードを持つウェルネスプログラムとも連動しており、ストレス軽減効果も期待できるという。
マイアミの会場では、受賞歴のあるサウンドデザインスタジオ「Father」が手掛けた、このハプティック技術にインスパイアされたサウンドスケープが流され、来場者を包み込んでいる。さらに、高級フレグランスのスペシャリストである「Aeir」による特注の香りが空間を満たし、黒の持つ力を嗅覚でも表現するなど、五感すべてに訴えかける演出がなされている。
サステナビリティとクラフトマンシップの融合
インテリアのディテールにも隙はない。ブラックバーチ(樺)のウッドパネルは滑らかで触り心地が良く、柔らかなシートと絶妙な調和を見せている。ギアセレクターにはサテンブラックのセラミックを採用し、ひんやりとしたクールな感触を演出。キャビン全体には「ムーンライトクローム」の加飾がこれまで以上に広範囲に施され、ダークでムーディー、そして宝石のような輝きを添えている。

また、足元を支えるタイヤには、サステナビリティへの配慮が見られる。2025年後半から順次導入されるピレリ製の「P Zero」タイヤは、米ぬか由来のシリカやリサイクル鋼など、70%以上がバイオベースまたはリサイクル素材で構成されており、これは業界初の試みである。ラグジュアリーと環境性能の両立を目指すブランドの姿勢がここにも表れている。
レンジローバーSVブラックは、「黒」という色が単なる「不在(色の欠如)」ではなく、デザインを最も根源的かつ深遠に見せるための「不可欠な要素」であることを証明している。究極の純度と静寂、そして圧倒的なパワーを兼ね備えたこのモデルは、モダンラグジュアリーの新たな定義を世界に提示したといえるだろう。
【ル・ボラン編集部より】
「砂漠のロールス・ロイス」と称されるレンジローバーが、まるでステルス戦闘機のような漆黒の相貌で現れた。昨今流行のブラックアウト化は、ともすれば「威圧感」のみが強調されがちだが、本作の狙いはむしろ逆だろう。色彩という情報を削ぎ落とすことで、純粋な造形美と「静寂」を際立たせる「リダクショニズム(還元主義)」の極致といえる。特筆すべきは、視覚情報を最小限まで削ぎ落した車室内で研ぎ澄まされる「センサリーフロア」の体験だ。足裏から音楽を感じるという新たなインターフェースは、移動空間を単なるキャビンから没入型オーディオルームへと昇華させている。V8エンジンの咆哮を秘めつつ、あえて五感の癒やしに没頭する。これぞ、成熟した大人にのみ許された、最も贅沢な矛盾ではないだろうか。
【画像13枚】黒陶のバッジにサテンの室内。一切の妥協なき「黒」で仕立てられた、究極のモダンラグジュアリーを見る












