モーターショー

シトロエン【パリ・サロン2018】AIよりも人間的な領域にこだわる

あくまでコンフォート志向

シトロエンがじつは「ハイドロリック・サスペンション」を捨てていない、そんなウワサは根強くあった。日本に導入されていないマイナーチェンジ以降のC4カクタスに採用され、今回新たに発表されたC5エアクロスにも導入された。それがHCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)ダンパーだ。

 

C5 AIRCROSS(C5エアクロス)

「ファミリー」を金科玉条に流行のSUVルック仕立て

今のところ7人乗り仕様の用意はないが、前後スライド可能でモジュール性の高い3席独立リアシートを備え、SUVながらもルーミーな室内を実現したC5エアクロス。プジョー3008とEMP2プラットフォームを同じくする兄弟車ながら、サスペンションに新開発された独自のハイドロリック・ダンパーを採用してコンフォート志向を鮮明にしている。

 

「KYBの南欧拠点と足かけ3年以上かけて開発しました。底づきや伸び切った際の挙動がマイルドになるので、当初はラリーやラリーレイドなどモータースポーツ用途に使われていましたが、コンフォート方向に応用したのはシトロエンが初めてでしょうね」と、サスペンション・エンジニアリングの責任者であるニコラ・ベルランジェ氏はいう。

【サスペンション・エンジニアリング担当:ニコラ・ベルランジェ氏】

HCCという技術自体はルノー・スポールでも先代クリオR.S.やメガーヌR.S.から採用され、最新の4代目メガーヌR.S.では4輪すべてに導入されている。だがシトロエンのそれが決定的に異なるのは、ダンパー・イン・ダンパー構造の内部ダンパーがある程度まで縮んでくると、その筒内に流入オイルを閉じ込めるフタ状のパーツが設けられている点だ。オイルの流入量コントロールがよりキメ細かに行われることで、減衰力が二次曲線的に最後の部分で増すのではなく、よりリニアに推移する。原理は同じでも、スポーツより徹底したコンフォート志向なのだ。

「シトロエンのサスペンションの伝統は、ストローク長をとにかく長く確保して、底づきと伸び切りに近い領域までは、とにかく自由に動かしてやること。それがC5やC6のハイドラクティブまであったハイドロプニューマティックの利点でした。でもこの新開発のHCCダンパーでは、ハイドロの乗り味を生み出す回路を車内に張り巡らせるのでなく、筒内に収めたといえます。快適性はもちろん、プジョーとは異なるシトロエンらしい動的質感をも実現できますから、ドライブモード選択のできるエアサスみたいな仕組みがホントに要らないんです(笑)。AIとか色々と新しいテクノロジーが取り沙汰されますけど、アーティフィシャルでなくヒューマンな領域でのインテリジェンスをもっと磨かないとダメだと、いつも思っています」

C5 AIRCROSS SUV HYBRID CONCEPT(C5エアクロスSUVハイブリッド・コンセプト)

シトロエン初のPHEVモデルも登場

2025年までに全ラインナップに導入を予定しているPHEVのコンセプトモデル。180HPのPureTechガソリンエンジンに80kw/337Nmの電気モーターと専用8速ATを組み合わせたプラグインHVモデル。ZEV(エレクトリックモード)での最高速度は135km/hで、電気モーターのみで50kmのゼロエミッション走行が可能とのこと。

また、この新たなサスペンションによってもたらされた快適性を、デザインで表現する上でも、格別の注意を払ったと、デザインのとりまとめ役を務めたアンドリュー・コーウェル氏は述べる。

【シトエン・デザイン統括:アンドリュー・コーウェル氏】
「ショルダーラインが高くてボンネットが分厚いプロポーションはSUVそのもの。でも必要以上にゴツくするのではなく、シトロエンらしいシンプルさ、オープンマインドな雰囲気は、曲線や滑らかな面で表せたと思います。加えて、C5エアクロスは5人乗りとはいえ、ファミリーを意識したSUVなので、ソファのようなシート、快適性を増幅させるクッションの厚み、リアシートの前後スライドやモジュール性の高さにもこだわっています」
確かにC4ピカソがC4スペースツアラーに名称を改め、従来のファミリー路線が変化しつつあることを思えば、3008と兄弟車とはいえC5エアクロスの狙う方向性はきわめて明快に打ち出されているのだ。

C3 AIRCROSS(C3エアクロス)

来年に日本上陸が見込まれるBセグSUVの大ヒット作

本国でもヒットを記録中のC3エアクロス。ツートンカラーや内装のショルダーラインにあしらわれるカラフルなアクセントが特徴で、今回のパリではサーフブランドのリップカール限定モデルが登場。日本市場には110psの1.2リッター+EAT6速仕様の導入が見込まれる。

 

GRAND C4 SPACETOURER(グランドC4スペースツアラー)

「グランドC4ピカソ」から改名の7シーターMPV

PSAの次世代プラットフォームEMPの採用で、低重心かつ広い室内を実現した7シーターミニバン。改名にともないインフォテインメイト機能がApple CarPlayと連携した。ガソリン仕様の1.6リッター・ターボ(SHINE/355万円)と2リッター・ディーゼルターボ(SHINE BlueHDi/380万円)が日本に導入されている。

C4 CACTUS(C4カクタス)

フェイスリフトモデルの日本導入はありか?

日本にも200台限定で導入されたクロスオーバーモデル、C4カクタスのフェイスリフト版。PHC(プログレッシブ・ハイドロリック・クッション)を採用したサスペンションは、極上の乗り心地が自慢とのこと。従来モデルよりもシャープかつスタリッシュな印象を得たエクステリアでは、ボディサイドのエアバンプが小さくなっていた。

 

フォト:望月浩彦 H.Mochizuki/南陽一浩/萩原 充(CMW)

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

南陽一浩

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