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木下隆之のブランパンGTアジア2018参戦記【第5&6戦 鈴鹿】

重圧の掛かる母国凱旋ラウンド

BMW Team Studie(ビー・エム・ダブリュー・チーム・スタディ)は、母国凱旋となる鈴鹿ラウンドに乗り込むにあたって、決意に近い「強い意志」を固めていたと思う。
というのも、チームにとってはSUPER GT以来の勝利が期待されていたからだ。同時にそれは、「ブランパンGTアジア」に挑む日本代表として、あるいは日本人ドライバーとしての「初優勝」という栄冠でもあるのだからなおさらなのだ。

初戦マレーシア・セパン(4/14-15開催)での楽勝ムードが、ステージをタイに移すと消えていった。それまでの好調は一転、FIA GT4クラス最大のライバルであるメルセデスAMG勢が牙を剥き始めた。そんな流れの中での鈴鹿凱旋。
誰もが地元での初優勝を期待していたし、その期待は大きければ大きいほど重圧に感じた。しかも、前戦ブリーラムの戦績を受けたサクセスハンディキャップシステム(ピットストップ時間ハンデ)によって6月30日土曜日に開催される第5戦は圧倒的に有利な状況。それがむしろプレッシャーを強くした。ここで勝たねばもう勝利はどこにもないようにさえ思えていたから気分は晴れやかではなく、巌のように重かったのだ。
さらにアゲインストが吹いた。ブランパンGTアジアは、FIAが定めるBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)規定に則っている。鈴鹿に向かう直前に発表されたBoPは、BMW M4 GT4の足枷を強めるものだったのだから不安は増幅していく。
もともと昨年王者のポルシエ・ケイマンと比べても85kgのウエイト増と15mmの車高アップが強いられているのに、さらに5kgの鉄の塊を背負わされ、フロントを3mm持ちあげろとの沙汰がくだったのだ。タイで苦戦したから、てっきり優遇されるとばかり楽観視していたのに、むしろ締め付けは厳しくなるばかり。したがって、AMG GTは相変わらず速く、沈んでいたケイマンが息を吹き返したのである。より一層激戦の度合いを強めたのである。
しかし、鈴鹿入りしてからの公式テストで戦略は見えていた。期待された第5戦での初優勝を遂げるためには、ポールポジションのAMG GTをオープニングラップで仕留めるしか方法はないと悟っていたのだ。
しかも、勝機はスタートのその瞬間がすべてだ。AMG GTはスタート直後から上りに差しかかるS字区間がめっぽう速い。スタートで先行されれば敵は一気に逃げていく。霞の彼方に消えていくことだろう。そう、スタートで先行し、S字区間を封じなければすべてが水泡に帰す。

一瞬で勝負を決める!

レースは一瞬の所作で勝敗が決まるスポーツではない。ブランパンGTアジアは、1時間のセミ耐久レースである。安定してラップタイムを刻むことが勝利への方程式だ。だがこのレースは違った。一瞬の切れ味で点数を左右する体操競技や、落下時間だけが与えられる飛び込み競技のように、瞬間ですべてが決まる。この日のレースは、1時間レースではなく、スタートの一瞬ですべてが決まるレースだったのだ。
そしてそのスタートは、見事に決まった! それがすべてだった。今季ブランパンGTアジアのGT4クラス初優勝は、シグナルが赤から青に変わった瞬間に決定した。

続く第6戦は、比較的穏やかな気持ちで挑むことができた。というのはもちろん、前日に初優勝したことで胃袋がキリキリと痛むようなプレッシャーから解放されたからである。
ただし、圧倒的にAMG GTが有利であることには違いない。ただ、勝機はなくはなかったのに、取りこぼしてしまったのが悔やまれる。結果的には3台のAMGが表彰台を独占し、われわれは4位。彼らのシャンパンファイトをポディウムの下から屈辱的に見上げることになってしまったのだ。
敗因は、僕にある。あきらかなコミュニケーション不足が、連勝を取り逃がした理由であろう。相方の(砂子)塾長がトップ快走中、SC(セーフティーカー)が介入したその瞬間に僕へとドライバーチェンジ。インラップの周を僕は、タイヤと水温への負荷を抑えつつ隊列に並ぶことで勝機を見出そうと考えていた。コースインしてから1周するまでは全周イエロー区間だからペースを抑えても抜かれることはない。最終コーナーで隊列に並べば、マシンを温存させた状態で再スタートできると計算していた。
というのも、このワンメイクタイヤが熱ダレする傾向にあることを確認していたからだ。SCが介入したことで不安材料が減ったとはいえ、可能な限りトレッド温度を抑えて再スタートしたかったのである。
さらにいえば、レース開催当日は猛暑日であり、水温計の針は100℃を超えていた。予選アタック中でも同様で、水温上昇が仇となり、「パワーダウンしたままでの予選アタックになっていた」とはメカニックの弁だ。ともかく、予想したタイムに届かなかった。という苦い経験もあり、インラップのペースを抑えたかったのである。
だが、SCの位置を見誤った。隊列に並ぶタイミングが合わずライバルの先行を許し、一時は7位までダウン。最終的には3台を抜き去り4位まで取り戻したとはいうものの、悔しいレースとなった。
今週末の僕は、感動に涙した翌日にどん底まで落とされるというジェットコースターのような浮き沈みを味わった。歓喜と屈辱に翻弄された週末になったのである。
でも、これでめげるほど僕は複雑な構造の人間ではない。今回の歓喜と屈辱は、「慢心するな」というメッセージに思えた。すでに気持ちは富士スピードウェイに向かっている。

BMW Team Studie公式サイト http://TeamStudie.jp/

 

【木下隆之】Takayuki Kinoshita

出版社編集部勤務を経てレーシングドライバーとしての活動を開始。全日本ツーリングカー選手権、全日本F3選手権、スーパーGT500/GT300等で優勝多数。スパ・フランコルシャン24時間、シャモニー24時間等々、数多くの海外経験を持ち、特にニュル24時間レースへの参戦は日本人最多出場記録および最高位記録を保持。一方で、数々の雑誌に寄稿するモータージャーナリストであり、ドライビングディレクター、イベントプロデュース/ディレクションをこなす。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

【Blancpain GT Series Asia】 ブランパンGTシリーズ・アジア

FIA規定GT3マシンとGT4マシンによりポイントを争うGT選手権シリーズ。土日開催の各ラウンドを2名のドライバーが1台のマシンを駆り闘う展開の速い1時間のレースである。6ラウンド全12戦となる今季は、マレーシア・セパン(4/14-15)で開幕。タイのチャン国際サーキット(5/12-13)から鈴鹿サーキット(6/30-7/1)、富士スピードウェイ(7/21-22)、上海国際サーキット(9/22-23)をラウンドして中国の寧波国際サーキット(10/13-14)が最終戦となる。http://www.blancpain-gt-series-asia.com/

 

リポート:木下隆之 T.Kinoshita フォト:田村 弥 W.Tamura

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