熊野古道・風伝峠(No.064)
風とともに熊野詣での人々が行き来してきた峠道。
風伝峠は三重県の南部、御浜町と熊野市紀和町の境に位置し、国道311号の旧道で鵯山(ひよどり・標高813m)と大瀬山(標高627m)の間の狭い鞍部を抜けていく。 峠の標高は257m。自動車道として開削されたのは昭和の初めだが、もとをたどると紀伊山中に張り巡らされた参詣路『熊野古道』のひとつで、熊野灘に面する七里御浜と熊野本宮とを最短距離で結んでいる。 この峠の名物は『風伝おろし』。紀伊山中で湧き上がった雲が、山並みのわずかな切れ目、ちょうど風伝峠のある鞍部から熊野灘側へと、大きな白い塊のまま斜面を滑り降りるように流れ出していくのだ。ここは風の通り道、まさしく風を伝える峠なのである。 海側の気温が高い時期、風伝峠を越えた雲はたちまち雲散霧消してしまう。そのため風伝おろしを目にできるのは秋から春にかけての寒い時期に限られてしまう。一方、風伝峠を反対の山側に下ったところにある丸山千枚田では、その見事な棚田の風景を1年中楽しむことができる。 地元の言い伝えによると、ここに人が住み着き、水田が拓かれ始めたのは平安時代の末頃という。熊野古道と同様、非常に歴史の古い棚田なのだ。そんな丸山千枚田が最も美しいのは、春の田植えや秋の稲刈りの季節。朝早く訪ねると、風伝おろしの〝素〟となる雲が谷を埋め尽くす幻想的なシーンとも出会えることがある。