
コンパクトSUV市場に新たな風を吹き込むBMWの会心作
“自分の道は自分で切り開く”という意味を込め「アンフォロー(UNFOLLOW)」を標榜しているだけに、従来のBMWにはなかったディテールをふんだんに備え、クーペ風ボディに仕立てられた新型コンパクトSUVのX2。ようやく国内で走らせる機会に恵まれたので、そのフレッシュな外観と乗り味を確認してみた。
クーペボディとはいえ実用性は高い
BMWの新作、X2に与えられたテーマはBMWの一員でいながら“それらしくないクルマ”というもの。ざっくりいえばクーペ風コンパクトSUV、BMWの中ではSAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)の末っ子というのが実際の立ち位置になるのだが、確かに外観をチェックすると従来のBMWにはなかったディテールを確認することができる。
その代表格はキドニーグリル。いわずと知れたBMWデザインのアイコンだが、X2のそれは輪郭の下部が上部より長くなっている。クーペボディとはいえ実用性は高い近年のキドニーグリルは天地が薄く、左右のヘッドライトに近接する幅広の形状が基本なので、実車だと極端に印象が変わったようには見えない。しかし、「下辺」が「上辺」より長いキドニーグリルはBMWでも初なのだとか。
サイドウインドー後端を「く」の字に折り曲げるデザイン手法、ホフマイスター・キンクもX2では控えめだ。ウインドーの下辺が後席ドア後半からキックアップしてCピラーに繋がるので、遠目だと従来からの文法は守られているように見える。だが、もはやドアのアウトラインとは連続しておらず、スッキリしたグラフィックである一方、伝統的BMWの風情は少し薄くなった印象だ。
少し興味深いのは、それを作り手も気にした結果なのかCピラーにわざわざBMWのエンブレムを装着していること。これはE9こと2000CSや3.0CSLのデザインを踏襲したものだというが、“らしくない”を目指したにしては腰の引けた手法とも見て取れる。また、市場ではSUVに分類されるX2と、クーペの王道的デザインだったE9をエンブレムで結びつける主張も個人的にはいささか強引な気もしてしまう。

CピラーにはBMW往年のクーペである2000CS や3.0CSLをイメージし たエンブレムを装着す る。なお、新グレード の「MスポーツX」はホイールアーチなどにフ ローズン・グレーのト リムを装備。SUVらしさが強調される。
とはいえ、そんなツッコミどころを別にすればX2のデザイン性はなかなかのものだ。ベースとなったX1と比較すると、ホイールベースは同一だがオーバーハングを短縮。それに天地が薄いタイト感のあるグリーンハウスを組み合わせたことで、佇まいが別モノに見えるのは本当の話。ホイールの存在を強調する筋肉質な面構成と相まって、スポーティなテイストはX1を格段に上回る。兄貴分にあたるX4、あるいはX6と違い、ルーフラインは水平基調になるが、クーペに期待される軽快感も十分といえる出来映えだ。
また、前述のキャビン形状としたことで車高はX1より65mmも低い1535mm(X1のMスポーツ比)。この種のコンパクトSUVは都市部に住む人のニーズも高いだけに、立体駐車場の多くに対応できる全高はX1に二の足を踏んでいた潜在ユーザーの掘り起こしにも効果を発揮するだろう。
その一方、X2はSUVとしての使い勝手が悪いわけでもない。もちろん、X1と比較すれば室内は肩から上の空間が減少している。しかし、絶対的な広さに不足はなく、後席足下に至ってはベース車譲りで同クラスのSUVを格段に凌ぐほど。おそらく、X2の直接的ライバルは別項で比較しているメルセデス・ベンツGLAとなるはずだが、あちらの穴蔵のように暗くタイトな後席を思えば、X2のそれはずっとSUVらしい仕立てだ。ちなみに、荷室容量は後席を使用する通常時で470Lを確保。後席を畳んだ最大時は、1533Lまで拡大する。さすがに505~1550LというX1の大容量には及ばないが、荷室も同クラスのライバル比でトップクラスの広さとなっている。つまり、クーペとのクロスオーバーとはいえX2は実用度も高いのだ。
BMWを初購入する方なら満足度の高い一台
さて、このほど日本に導入されたX2のパワーユニットは1.5リッター3気筒と2.0リッター4気筒のガソリンターボという2種。ギアボックスと駆動方式は前者が7速DCTとFF、後者には8速ATと4WDを組み合わせて「スタンダード」と「MスポーツX(MスポーツよりSUVらしい外装を持つ新種だ)」というグレードがそれぞれに用意される。今回の試乗車は2.0LのMスポーツXだったが、その走りはSACを名乗るに相応しい仕上がりだった。
走り出して最初に気付くのは、カッチリとした剛性感の高さ。これにはX1より小さくなった開口部や絶対的なマスの小ささも貢献しているはずだが、上質さはもとより、日常的な速域でも背の高さを忘れさせる一体感が得られることが好ましい。この点は、X1を筆頭とするエンジンを横置きにしたBMWの中でも屈指の出来だ。その前後重量配分は、車検証の記載値ベースで約57対43。絶対的にフロントが重くなるのは仕方がないが、旋回時の荷重バランスがそれを意識させないこともX2における魅力のひとつ。もちろん、FRのBMWのごとき風情は期待できない。しかし、SUVとしては異例なほど曲がりたがる性格であることは確か。また、攻め込むとリアの踏ん張りがあと一歩という印象もあったX1と比較するとX2は安定感も秀逸だ。例えば、うねりがあるコーナーを強行突破するような場合でも不安感は皆無。高負荷時でも漸進的にロールする足回りは、荒れた路面もしっかりと捉えてくれるからだ。
- MスポーツXのシート表皮は、イエローのステッチが入るヘキサゴン・ファブリックとアルカンターラのンビ。
- 全モデルでBMWコネクテッド・ドライブが標準装備となる。
その一方で乗り心地はソリッド、というよりハッキリと硬い。日本仕様はスポーツサスペンションが標準で、試乗車はオプションとなる20インチタイヤ装着車とあって最初から安楽なライド感は期待していなかったのだが、現状は特に後席での長距離移動に多少の覚悟が必要そうな感触。スポーティなクーペだと思えば苦痛なほど硬いわけではないが、SUV用途にはもう少し路面からの入力を抑えた方がユーザーに好まれるだろう。
- X1より減少しているが、荷室は470~1355 Lというトップクラスの大容量。
- 後席後方は一見天地が低く見えるが、フロアボードの下にも大容量の収納空間がある。オプションのセレクト・パッケージを選択すると、ラゲッジ・パーティション・ネットも装備。
で、残るは2.0Lエンジンの動力性能だが、これは必要にして十分というところ。車重が1620kgに達するだけに特別速くはないし、近年のBMWで主流のディーゼルと比較すれば加速に線の細さを感じる場面もある。しかし、パドルシフトを駆使して積極的に走らせると“回す歓び”が得られるのも事実。もちろん、日常の音や振動はそれを上回る質感が備わるだけに、クーペ風SUVという役どころを思えば日本仕様のガソリンのみという設定にも納得がいく。
そこで結論。クロスオーバーというニッチな位置付けのX2だが、スポーティで気の利いたSUV、あるいは初めて購入するBMWとしてはX1を凌ぐ可能性を秘めた選択肢であることは間違いない。
Specification
ビー・エム・ダブリューX2 xドライブ20i MスポーツX
車両本体価格(税込):5,150,000円
全長/全幅/全高[mm]:4375/1825/1535
ホイールベース[mm]:2670
トレッド(前/後)[mm]:1575/1570
車両重量[kg]:1620
最小回転半径[m]:5.1
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:B48A20A/直4DOHC16V+ターボ
内径×行程[mm]:82.0×94.6
総排気量[cc]:1998
圧縮比:11.0
最高出力ps(kW)/rpm:192(141)/5000
最大トルクNm(kg-m)/rpm:280(28.6)/1350-4600
燃料タンク容量[L]:61(プレミアム)
燃費(10・15/JC08)[km/L]:-/14.6
ミッション形式:8速AT 変速比:1)5.519、2)3.184、3)2.050、4)1.492、5)1.235、6)1.000、7)0.801、8)0.673、R)4.221、F)3.200
サスペンション形式:前 ストラット/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/Vディスク
タイヤ(ホイール):前225/45R19(8J)、後225/45R19(8J)