
2014年から販売が開始され、売れ行きも好調な5世代目Cクラスが、セダン、ステーションワゴン、クーペ、カブリオレの4車種を同時にマイナーチェンジ。見た目はキープコンセプトながら、約6500カ所におよぶ部品改良のほか、パワートレインやテレマティクス、安全支援機能などが大幅に刷新されている。
新型を機にフロントおよびリアバンパー形状 を見直し、よりダイナミックなデザインを獲得。セダンのテールライトユニットは「C」の文字をモチーフにしたライトデザインに変更。
常にセグメントのベンチマーク
1982年に誕生した190が「W201」、初めてCクラスを名乗ったモデルが「W202」と型式名の数字が連続しているので、メルセデスの公式資料では190も“Cクラス”ファミリーに含められ、“初代Cクラス”という扱いになっている。でも個人的にはW201とW202以降のモデルは、その生い立ちや素性を考慮すればまったく別のクルマだと思っているので、この“くくり”には違和感を覚えなくはない。初代CクラスはやっぱりW202である。
W202の生産期間は1993年から2001年まで。1996年にワゴン、1997年にV8を積んだC43 AMGなどが追加された。W203は2000年から2007年まで。フロントに新設計の3リンク式ストラットサスペンションを装備したり、2005年から7Gトロニックトランスミッションをオプションで用意、初めてCクラスに4MATICを採用するなど、技術的革新が多く見られた。2007年から2014年はW204の時代。それまではクーペやカブリオレなどにしか許されなかったフロントグリル内へのスリー・ポインテッド・スターの配置がセダンでも初めて実現した。「アジリティ」という言葉を使い、ハンドリングの良さを強調するようになったのもW204からである。
現行のW205の登場は2014年。前年に現行のSクラスがデビューした直後だったこともあり、Sクラスを小さくしたようなスタイリングが印象的だった。車格が上がった雰囲気も功を奏して、2017年までにセダンとワゴンだけで約41万5000台を売り上げたという。現在、Cクラスはドイツ(ブレーメン)をはじめ、南アフリカ(イーストロンドン)、アメリカ(タスカルーサ)、そして中国(北京)の4カ国に生産設備を有している。ちなみに北京工場では中国市場向けにロングホイールベース版(V205)も生産されている。
今回のマイナーチェンジでは、約6500カ所(パーツベースでの数値)も改良の手が入ったという。歴代のCクラスはモデルライフが7〜8年なので、登場から4年が経過したちょうど折り返し地点で大がかりな手直しが施されるというのは当初の計画通りだろう。邪推をすれば、パリ・サロンではライバルのBMW 3シリーズがフルモデルチェンジを果たしたばかりであり、今回のCクラスのマイナーチェンジのタイミングはそれをまったく意識していないはずはないとも思ったりする。
6500カ所の改良点は目に見えない部分がほとんどで、エクステリアでは前後の意匠が若干刷新された程度。Cクラスのデザインは依然として好評なようで、あえていじる必要もなかったのだろう。インテリアも、中央の液晶モニターが10・25インチに拡大された他に目立った変更はない。最近のメルセデスはナビ画面とメーターパネルを1枚の“板”にしてそれをダッシュボードに立てかけるやり方が主流となっている。それと比べると、ダッシュボードをくり抜いた“穴”の中にメーターパネルが見える光景はもはや古臭い感じすらしてしまう。

インテリアには12.3インチのCクラス専用デザイン「コクピットディスプレイ」のほか、ダッシュボード中央にはワイドディスプレイを装備。またSクラス と同じ機能のタッチコントロールボタン付きのマルチファンクションステアリングホイールを装着する。
新型最大のトピックBSGとは何なのか
新型Cクラスの最大の見所はC200が搭載するエンジンにある。M264型の1.5L直列4気筒エンジンはターボチャージャに加えてBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレータ)と組み合わされた新しいパワートレインで、昨年の現行Eクラスクーペの登場と共に姿を現した。メルセデスではSクラスなどに「ISG」と呼ぶ次世代型ガソリンエンジンをすでに投入しているが、ISGとBSGの違いは何か? いずれも、通常の12Vバッテリーとは別に48Vのリチウムイオンバッテリーを搭載し、ウォーターポンプを電動化している。決定的な違いは、ISGにはベルトが存在しないが、BSGはその名の通り、プーリーを介したベルトがエンジン前方に残る。このベルトにより、エアコンのコンプレッサーの他にクランクシャフトを回すスタータージェネレータ(=モーター+充電器)を動かしている。

今回の最大のトピックは、C200が搭載するパワートレイン。新開発1.5L直4ターボ 「M264」エンジンとBSG(ベルトドリブン・ スターター・ジェネレーター)と48V電気システムを組み合わせさらなる高効率化を実現。
そもそもダウンサイジングエンジンとは簡単に言えば、エンジンの排気量を小さくし(=使用燃料量の削減)、パワー不足を過給機で補うという論理である。アイドリングの回転数からわずかに上がった時点で最大トルクが発生するセッティングになっているものが少なくない。ただ、エンジンの燃焼効率だけを見ると(特に小排気量の4気筒エンジンは)低回転域よりも中回転域付近のほうが一般的に効率はいい傾向にある。そこで、1.5リッターエンジンを3000〜4000rpmの燃焼効率のいい範囲で最大トルクが出るようにして、3000rpm以下の部分をターボとモーターでアシストするというのがBSGの考え方だ。
寿命がなんとなく見え始めた内燃機が少しでも長く生きられるよう、たとえわずかな燃費向上であったとしても最後まで改良の手を休めないエンジニアの執念というかプライドには頭が下がる。
M264型のBSGを搭載するセダンのC200アバンギャルドを試してみると、発進時や再加速時に後ろからわずかにグッと押されるような感触があるものの、それ以外はいたって普通の動力性能である。これはいままでのクルマから乗り換えても違和感なく使えるよう、あえてそういうセッティングにしているのだろう。エンジン音は小排気量の4気筒なので、高級感のある音色とは言えないけれど、日常の使用範囲でエンジンパワーに不満を覚えることはまったくないはずである。
W205は初期モデルから操縦性や乗り心地がよかったので、その部分に関しては大幅に刷新された印象は薄い。というか、その必要もないだろう。切り始めからきちんと反応しつつも絶対的な安定感を誇るハンドリングや、電子制御ダンパーなしでもしっとりとした上質な乗り心地はこれまで通り提供されている。この素性は、ボディがワゴンやクーペやカブリオレになっても、エンジンが1.6リッター直4ターボ(C180)や2.0Lディーゼルターボ(C220d)や3.0LのV6ツインターボ(C43 4MATIC)になっても大きく変わることはない。
今回試した4種類のエンジンの特徴を端的に言えば、C180カブリオレスポーツはパワーを使い切れる楽しさ、C200アバンギャルドは次世代型内燃機に触れる喜び、C220dステーションワゴン・アバンギャルドはロングドライブに最適な頼もしさ、そしてC43 4MATICは余りあるパワーを攻略する嬉しさ、となるだろうか。
Cクラスはここにきて、現在だけでなく近い未来まで見据えた完璧な布陣(=豊富なボディタイプとパワートレイン)を整えた。これに対抗できる同セグメントの日本車がまったく見当たらないのはなんとも寂しい限りである。
Gallery
Specification
メルセデス・ベンツ C200 アヴァンギャルド
車両本体価格(税込):5,520,000円
全長/全幅/全高[mm]:4690/1810/1425
ホイールベース[mm]:2840
トレッド(前/後)[mm]:1565/1550
車両重量[kg]:1550
最小回転半径[m]:5.2
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:直4DOHC16V+ターボ
内径×行程[mm]:80.4×73.7
総排気量[cc]:1496
圧縮比:10.5
最高出力ps(kW)/rpm:184(135)/5800-6100
最大トルクNm(kg-m)/rpm:280(28.6)/3000-4000
燃料タンク容量[L]:66(プレミアム)
燃費(JC08/WLTC)[km/L]:13.6/-
ミッション形式:9速AT
変速比:1)5.354、2)3.243、3)2.252、4)1.636、5)1.211、6)1.000、7)0.865、8)0.717、9)0.601、R)4.798、F)3.066
サスペンション形式:前 4リンク/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/ディスク
タイヤ(ホイール):前225/50R17(7J)、後225/50R17(7J)
メルセデス・ベンツ C220d ステーションワゴンアヴァンギャルド
車両本体価格(税込):6,020,000円
全長/全幅/全高[mm]:4705/1810/1440
ホイールベース[mm]:2840
トレッド(前/後)[mm]:1565/1550
車両重量[kg]:1830
最小回転半径[m]:5.2
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:直4DOHC16V+ターボ
内径×行程[mm]:82.0×92.3
総排気量[cc]:1949
圧縮比:15.5
最高出力ps(kW)/rpm:194(143)/3800
最大トルクNm(kg-m)/rpm:400(40.8)/1600-2800
燃料タンク容量[L]:66(軽油)
燃費(JC08/WLTC)[km/L]:18.9/-
ミッション形式:9速AT
変速比:1)5.354、2)3.243、3)2.252、4)1.636、5)1.211、6)1.000、7)0.865、8)0.717、9)0.601、R)4.798、F)2.473
サスペンション形式:前 4リンク/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/ディスク
タイヤ(ホイール):前225/50R17(7J)、後225/50R17(7J)