
マーケティング部門のトップ「サイモン・スプロール」氏にインタビュー
ラグジュアリー・スポーツカーの分野で、ここ数年、最も躍進が著しいアストンマーティン。2014年にアンディ・パーマー氏がCEOに就任し、創業100年の次の世紀の道筋として打ち立てた“セカンド・センチュリー・プラン”を実行に移してからは、まさに破竹の勢いだ。パーマーCEOとほぼ時を同じくしてアストンマーティンに移籍し、以来、副社長兼チーフ・マーケティング・オフィサーを務めていらっしゃるサイモン・スプロール氏が来日し、お話をうかがう機会を頂戴した。

アストンマーティン
副社長兼チーフ・マーケティング・オフィサー
サイモン・スプロール氏
1992年から2000年までフォードの欧米での広報活動に従事、その後、フォードのプレミアム・オートモーティブ・グループの中のアストン、ジャガー、ランドローバーを担当。
2003年から北米日産に広報担当副社長兼チーフ・コミュニケーション・オフィサーとして勤務、2004年からは東京本社に異動してグローバル・コミュニケーション担当執行役員に、2009年には渡仏してルノー日産アライアンスのコミュニケーション・ダイレクターに、2010年には日産自動車の執行役員として横浜のグローバル本社を拠点に日産ブランドとインフィニティ・ブランドのグローバル・マーケティング・コミュニケーションを担当。
2014年(2013年かも……)にテスラの広報担当副社長を短期間だけ務めた後、2014年秋からアストンマーティンの副社長兼チーフ・マーケティング・オフィサー。
「セカンド・センチュリー・プラン」を鋭意進行中
──ここ数年、順調、というか快進撃ですね。ちょうど今のタイミングは、セカンド・センチュリー・プランのどの辺りでしょう?
- Aston Martin DBS 6th – 7th August 2018 Photo: Drew Gibson
- Aston Martin Vantage. Portugal. February / March 2018 Photo: Drew Gibson
「私たちは現在、柱となる3つのモデルを持ってます。ヴァンテージ、DB11、そしてDBSスーパーレッジェーラです。これらのモデルは、従来型との世代交代です。ここまでがチャプター1。そしてチャプター2は、アストンマーティンのブランドの拡張です。その柱になるのが、現在開発中のDBX。そして、チャプター3はラゴンダ・ブランド新しいカタチでのスタートです。まだまだチャプターは続きますが、現在はチャプター2とチャプター3に取り組んでいるところ、といえるでしょうね」
──DBXとラゴンダの他にも、たくさん計画をお持ちですよね。
「そうですね。DBX、ラゴンダが2車種、それにミド・エンジンの新しいヴァンキッシュの計画もあります。ハイパーカーのヴァルキリーのロードカーのデリバリー開始が、今年の末。それにこれらも特別なモデルですが、ザガート100周年を記念したDB4GTザガート・コンティニュエーションと新しいDBS GTザガートの19ペアの生産と、“007 ゴールド・フィンガー”のジェームズ・ボンドのDB5の25台の復刻。ヴァルキリーの娘といえる、AM-RB003もありますね」
──なるほど。生産規模の拡大が必要になるわけですね。
「これまではゲイドンだけでしたが、セント・アサンの新工場も稼働します。全体の生産能力としては、ふたつの工場を合わせて1万4000台。アンディ・パーマーがCEOを任された2014年には3500台程度でしたから、生産能力は大幅に拡大することになります。ただし、大きくなることを目指してるわけではないのですけどね」
DBXは女性にも関心を持ってもらえるクルマになる
──現在のラインアップでは、どのモデルが最も販売台数が多いんですか?
「ワールドワイドには、ヴァンテージですね。けれど、DBXの販売がスタートしたら、はじめの1年から2年は、おそらく最もボリュームの大きなモデルとなるでしょう。ラグジュアリーなSUVのカテゴリーは、非常に大きなマーケットでしょうからね」
──DBXについてうかがいます。ティーザーというか、公開されている開発中の映像も含めて楽しませていただいてますが、それによれば開発ドライバーをマット・ベッカーさんが務めてますよね。ということは、かなりスポーツができるSUVになるんじゃないかと思うんですが……?
「もちろんです。ハイエンドといえるようなSUVは、ラグジュアリー指向の強いモデルとスポーツをも重視しているモデルと、ふたつに分かれると思います。ランボルギーニやマセラティ、ポルシェなどはスポーツ指向が強いですよね。ロールス・ロイスやベントレー、それからレンジローバーなどは、ラグジュアリー指向が強いです。アストンマーティンが作るSUVは、そのふたつをしっかりと統合させています。SUVの姿をしている、ラグジュアリーなスポーツカーだと思っていただいていいと思います。ご存じの通りアストンマーティンは、スポーツ・フィーリングをドライバーに感じてもらうためにクルマを入念にチューニングしていくのが常ですから」
──車体の大きさはどれくらいなんですか?
現時点でははっきりとお伝えすることはできないのですが、大柄です。アメリカやイタリア、それに日本でもそうなのですが、このクラスにおいてはある程度以上のサイズが必要になるということが、お客様や販売ディーラーからのフィードバックで明らかだったのです。そこで私達は、スペースというものを犠牲にしない毎日の生活の中で使えるスポーツカー、あるいはものすごくファンなラグジュアリーカーが必要だと考えたのです」
──DBXは、スプロールさん御自身も欲しくなるようなクルマですか?
「もちろんです。でも私より妻が楽しみにしてるかも知れません(笑)。それはともかく、女性の方々にも関心を持っていただけるクルマになりますよ」
──もしラピードに次期型があるのだとしたら、それと顧客層がオーバーラップしそうですね。
「ラピードは少し横にずれて、DBXがそこをカバーすると考えてください」
──単刀直入に聞きますが、DBXのパワーユニットは何ですか?
「最終的な確定項としてお伝えするのではないのですが、おそらくV8エンジンになると思います」
──もちろんAWDだとは思ってますが、そのシステムは自社開発ですか?
「メルセデスのシステムを利用します」
──先日、アンディ・パーマーCEOが「巨額を投じて同じような技術を開発するのはナンセンスだ」とおっしゃっていたのを、外誌の記事で読みました。
「そのとおりです。ヴァンテージやDB11に積んでいるメルセデスAMGのV8エンジンもそうなのですが、サウンドやフィーリングなどはちゃんとアストンマーティン流に仕立てなおしています。そのままポンと流用するようなことはせず、優れたテクノロジーや優れたユニット、システムなどを、自社のクルマに、そして目指すものに相応しくなるようしっかりチューニングして搭載します。今回も同じで、DBXもはっきりとアストンマーティンですよ」
──確かにヴァンテージもDB11も、AMGのクルマとは異なるフィーリングやサウンドを持ってますものね。それどころか、ヴァンテージとDB11でも違ってる。
「そうするために、実は開発陣は本当にいろいろなことをやってるんですよ」
──DBXの正式な発表はいつのタイミングですか?
「今年の年末に、ちょっと特別なイベントを企画していて、それを通じて皆さんに御覧いただけるようになると思います。販売開始は2020年から。1年後ぐらいにはショールームで御覧いただけるでしょう」
ラゴンダは純粋なラグジュアリーカーとして新しいスタートを切る
──DBXもさることながら、3月のジュネーヴ・ショーでは、おそらくファンの誰もが想像していたよりも、たくさんのモデルを発表しましたね。
「ブースには、アストンマーティン・レッドブル・レーシングのF1マシン、ヴァルキリーAMR、ヴァルキリー、AM-RB003、ヴァンキッシュ・ヴィジョン・コンセプトの順番で並べました。それは生産台数の順番で、2台(笑)、25台、150台、500台、そしてプロダクション・シリーズという流れなんです。そして重要なのは、それらのモデルが全て同じDNAで作られているということでなんですよ」
──ちなみにAM-RB003の限定500台って、もう売り切れてたりします?
「購入の意思を示されてる方が500人以上いらっしゃるのは確かですね。ジュネーヴ・ショーの反響は、ものすごく大きなものでした」
──おそらくファンの皆さんが最も強いのはヴァンキッシュだと思うのですが、計画としてはこれからどういうステップを踏んでいくんですか?
「現時点ではコンセプトを皆さんにお披露目した段階。私達はフェラーリやランボルギーニの市場に新人として参入していくことになるわけですが、まずはそこにいらっしゃるお客様たちから信頼を得ないといけないですよね。私達が素晴らしいミド・エンジンのスポーツカーを作れるということを、実証しなければいけない。ヴァルキリーやAM-RB003を順番に送り出すことで、お客様に信頼していただけることになると思います」
──開発はどれくらい進んでいるんですか?
「完成までには80%のところまで来ている、といったところでしょうか」
──ということは、生産型ヴァンキッシュのお披露目が来年のジュネーブ・ショー辺り、という感じでしょうか?
「さあ、どうでしょう(笑)。いずれにしても、生産開始までにはまだ1〜2年の時間がある、ということだけお伝えしておきましょう」
──すでに知られているところですが、155台の限定ですが、ラピードE。それにヴァンテージのAMR。まだまだたくさん計画がありそうですね。
──DBSのヴォランテも忘れないでください。この夏に発表しますよ(笑)」
──ラゴンダについてはいかがでしょう?
「私達もものすごくエキサイティングな気持ちでいます。まだちょっとだけマーケットの中で注意深く見ていかなければならない状況もあるのですが、いずれにしても、ラゴンダは純粋なラグジュアリーカーとして新しいスタートを切ることになります」
「去年のジュネーヴ・ショーでコンセプトをお披露目されました。今年のジュネーヴ・ショーでは、もう少し具体的なコンセプトをお披露目されました。反響はいかがですか?
「昨年春のジュネーヴと夏のペブルビーチでラゴンダの最初のコンセプトをお披露目したのは、私達にとってはある種のテストでもありました。お客様達の反応を知りたかったのです。ラゴンダというのは110年を越える歴史を持つブランドではありますが、ご存知ない方がたくさんいらっしゃいました。そうした方々に向けて、私たちはテクノロジー、それに未来に向けた存在感とスペースの利用の仕方などをプレゼンテーションしたかたちです。車体はロールス・ロイスのゴーストより全長が僅かに短いぐらいなのですが、車内はファントムのストレッチより遙かに広いのです。ご覧になった方たちは、かなりお気に召していたようでした。とりわけロールス・ロイスを購入できるようなお客様、現在はテスラに乗っていらっしゃるようなお客様からの反響が、ものすごく大きかったです。所有したいのはロールス・ロイス、けれど運転したいのはテスラ。なぜなら、イメージにあったテクノロジーを持っているからです。私達のラゴンダは、その両方を持ち合わせたクルマになります」
──最後に、日本のアストンマーティンのファンの皆さんに、何かメッセージをお願いします。
「数年前に軽井沢でテストドライブのイベントがあって、私も同行しました。とても心地のいい体験でした。なぜなら日本の客様は、クラフトマンシップというのがどういうものなのか、よく理解なさってるからです。それに本当のOMOTENASHIというものについても。そしてアストンマーティンというブランドに敬意を払ってくださっています。私達はそうした方々を裏切ることのないクルマ作りをしていきますので、私達と一緒にエキサイティングな気持ちになっていただきたいと思います。楽しみにしていてください」