国内試乗

【比較試乗】「BMW 3シリーズ(320i/330i)」には惜しみない愛情が注ぎ込まれている

日本のビーエム愛にホンキで応えてくれた充実のレシピ

今年の3月から発売をスタートした新型3シリーズ。販売台数は目論見どおり、世界的に好調を博しているようだが、その勝因には、とりわけ日本の3シリーズカスタマーの要望や日本の自動車文化が深く関係しているようだ。320iと330iのふたつのスペックを乗り比べ、BMWジャパンのプロダクト・マーケティングに取材を行い、その秘密を探った。

日本でのBMWの販売台数は年間約5万台。輸入車のなかでトップ3に入る人気ブランドではあるが、世界での販売台数は200万台強なのだからそれほど大きな存在とは言えない。ところが、3シリーズの国際試乗会で話したエンジニアは「我々にとって日本は大切な市場なのです」としきりに言っていた。リップサービスかと思いきや、じつはそんなことはない。新型3シリーズはBMWジャパンからのリクエストには最大限応え、日本のユーザーの満足度を上げるべく開発されてきたのだ。

日本には自動車メーカーが10もあり、その合計は世界の乗用車販売の1/3を占める世界一の自動車大国。さらに、ハイブリッドやADAS(先進安全装備)のシェアが圧倒的に高く、自動車ユーザーの感度、先進性でも世界一。あるいは若者のクルマ離れや高齢者ドライバーの問題などネガティブな現象も早く顕在化し、やがてそれが欧米でも起きることになる。だから海外の自動車メーカーが、そう大きくはない日本の輸入車市場に数ではなく質で注目することはあるのだが、それでもBMWは格別。2002やE30の頃から日本人がBMWのコンパクトでスポーティなセダンに惚れ込み、敬意を払って愛してきたことが通じているのだろう。

トランスミッションは第3世代のZF製8速ATへとアップデート。発進はスムーズで力強く、ぎこちなさは綺麗に取りのぞかれている。

新型3シリーズが日本市場を特別視したひとつの証が320iを初期から導入したことだ。上級グレードを最初に投入して徐々にバリエーションを増やして鮮度を保つのがオーソドックスな戦略で、当初は330iでローンチして320iは遅れて導入する予定だったが、BMWジャパンの強い要望で、日本で販売の中心となる320iも同時に開発してもらい初期導入が実現した。ところが、これまでは330iしか試乗車の用意がなかったのでリポートもそれに限られていたが、ようやく320iと同時に乗ることができるようになった。グレードはともにMスポーツだが、320iは標準の18インチ・タイヤなのに対して330iはオプションの19インチ・タイヤを履いていた。

まずは何度も試乗している330iに乗り込む。数ある直列4気筒2Lターボのなかでもかなりのハイパフォーマンスで、最大トルク400Nmを誇るだけあって走り始めた瞬間から頼もしい。標準的なドライビングモードの“コンフォート”で街中を流しているとポンポンとシフトアップしていき、30-60km/hぐらいの範囲で緩やかな加減速を繰り返すシチュエーションでは2000rpmを超えることはほとんどない。それどころか1100rpmなど超低回転域を使うことも少なくなく、微妙な加速ぐらいだったらシフトダウンしないでこなしてしまう。よほどターボの使い方が上手なのだろう。超低回転域から完璧なドライバビリティを見せつけるのだ。 モードを“スポーツ”に切り替えアクセルを床まで踏みつければ重低音を響かせながら6600rpmまで一気呵成に吹け上がり、これぞ究極のスポーツセダンといった興奮を味わわせてくれる。

世界は日本の輸入車市場の“質”に注目している

19インチのランフラットタイヤは路面状況によって少し硬さを感じることもあるが、スポーツセダンとして3シリーズを求める向きならば許容できる範囲だろう。サスペンションのバネレートは先代に比べるとかなり締め上げているとのことだが、ボディ剛性も上がっているので動きはスムーズ。“コンフォート“から”スポーツ”に切り替えて可変ダンパーの減衰力が上がると、微少な入力域でもダンピングが効くとともに伸び側も抑えが効いてよりフラットライドでスポーティな乗り味になるが、不快になるほどではない。これもまた優秀なボディの恩恵だろう。

パワーユニットは330iのディチューン版といえ、走りに不足はない。320iにも装備される新開発の可変ダンパーが大きな入力を吸収し、フラットな姿勢を保ってくれる。

新型3シリーズの剛性関係でもっともドライビングプレジャーに効果をもたらしているのがフロントサスペンションの取り付け部がアルミダイキャストになったこと。従来比1.5倍の剛性を得たことで、ステアリングをわずかに動かすぐらいから極めて正確に反応し、どこまでもリニアな感覚で曲がっていく。そのダイレクト感たるや凄まじいレベルで、これもまた究極のスポーツセダンの呼び名に相応しい。ゆっくり走っているときでも、正確無比なステアリングを操作するだけで幸せな気分になる。

320iに乗り換えてみると、まずはたった1インチでも乗り心地にはずいぶんと違いがあることを認識する。こちらもランフラットではあるがタイヤのゴツゴツ感が減ってどの場面でも快適に感じる。スポーツセダンとしての硬質な雰囲気と不快感のない好バランスな乗り味なのだ。それでいて正確なハンドリングも健在。限界まで攻めれば19インチのほうがハイグリップなりの良さが出てくるだろうが、ワインディングレベルなら18インチでもなんら不満はない。320iが1560kg、330iが1630kgと車両重量に小さくない差があることも320iの印象を押し上げているようだ。

330iは最高出力258ps/最大トルク400Nm、320iは最高出力184ps/最大トルク300Nmと、数値上の差はあるが、日常域ではその差を強くは感じない。

肝心のエンジンだが、320iでも最大トルクは300Nmあるので日常的な走りでのパフォーマンスは十分以上。最大トルク発生値は330iが1550-4400rpmなのに対して320iは1350-4000rpmとより低回転化されているので、普通に走らせているとその差は思っている以上に小さいのだ。ただし、アクセルを踏みつけていったときのパワー感には明確な差がある。ともに5000rpmで発する最高出力は330iが258ps、320iが184psなのでやはり速度のノリが違う。加えて330iはサウンドに迫力があるが、320iはそこまでスポーティではなくライトな感触。同じ型式のエンジンながらチューニングでの違いは小さくないのだった。

日本のファンの多くが3シリーズに究極のスポーツセダンを望んでいるが、330iはそれに真っ正面から応えてくれている。日常域で不快になるかならないかのギリギリまで攻め込んだのはあっぱれだ。320iは少しマイルドになっているものの、デイリーユース重視ならばかえってバランスが良く、ライバルに対しては圧倒的にスポーティ。思っている以上に買い得感が高い。

いずれにせよどちらも甲乙付けがたい魅力を放っており選択は悩ましい。日本のBMW愛をますます深めることになりそうだ。

BMW 330i M SPORT

 

19インチMライト・アロイホイール・ダブルスポーク(ジェット・ブラック)を装備。インテリアはMスポーツ専用オプションのヴァーネスカ・レザーのシートとアッシュグレー・ブラウン・ファイン・ウッドのトリムを選択。

【Specification】BMW 330i M SPORT

■全長×全幅×全高=4715×1825×1430mm
■ホイールベース=2850mm
■車両重量=1630g
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1998cc
■最高出力=258ps(190kw)/5000rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/1550-4400rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/40R19:255/35R19
■車両本体価格(税込)=6,320,000円
■問い合わせ先=BMWジャパン0120-269-437

 

BMW 320i M SPORT

18インチMライト・アロイホイール・ダブルスポーク(オービット・グレー)を装備。インテリアは標準装備のアルカンターラ/センサテックコンビネーションのシートとアルミニウム・テトラゴンのトリムを設える。

【Specification】BMW 320i M SPORT

■全長×全幅×全高=4715×1825×1430mm
■ホイールベース=2850mm
■車両重量=1560g
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1998cc
■最高出力=184ps(135kw)/5000rpm
■最大トルク=300Nm(30.6kg-m)/1350-4000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/45R18:255/40R18
■車両本体価格(税込)=5,830,000円
■問い合わせ先=ニコル・オートモビルズ0120-866250

日本市場の徹底的なマーケティングで多くの支持を集めた

プレミアムDセグメントの代表格ともいえる3シリーズは、日本市場にマッチした販売戦略を展開してきたことでも知られている。今回の新型3シリーズでも、そうした伝統は健在な模様。ここでは、そんな日本向けの特別なところを関係者に語ってもらった。

 

BMWジャパン
ブランド・マネジメント・ディビジョン
プロダクト・マーケティング プロダクト・マネージャー
御舘康成氏

BMWには2013年に入社。以降、3シリーズのプロダクト・マネージャーを務める。前職は国産メーカーだったそうだが、そちらでもプロダクトマーケティングを担当していた。

先進システムの標準装備化は日本向けの3シリーズだけ

—1月末に受注を開始、3月に販売がスタートしている新型3シリーズだが、まずは初期の販売状況を訊いてみると……。

「おかげさまで非常に好調なスタートを切っていまして、先代の同じ時期と比較しても新型の勢いが上回っています。新型はクルマとしての基本性能が大幅に向上していることに加え、充実した運転支援システムを筆頭とする安全性が高い評価を戴いているようですね。実際、お買い求めになる顧客層にも変化が出ていまして、国産ハイブリッドやディーゼルモデルからの乗り替えが目立っています。これは輸入車でトップクラスといえる安全性が注目を集めた結果といえるでしょう」

—新型3シリーズというと、初期の320i用エンジンを日本専用に仕立てたことでも話題を呼んでいる。年内には本国仕様ベースのものに切り替わるというが、そこまでして導入を早めた理由はどこにあるのだろうか?

受注生産の320i SEを除き、先進の運転支援システムが標準となる新型。御舘氏のオススメ装備はリバース・アシストとか。

「確かに異例ではありますが、BMWでは日本を6大市場のひとつと位置付けています。これは単なる販売台数の話ではなく選択眼の厳しいユーザーが多い、プレミアムブランドにとってはプライオリティの高い市場だという認識があるからです。そうした点からも、こちらの都合で“出し惜しみ”することは避けたかった。320iは3シリーズの主力グレードですからね。今回の専用エンジンは、BMWの日本市場に対するリスペクトの結果とお考え頂ければ良いかと思います」

—日本向けのローカライズ、という意味では先代までの3シリーズがドアハンドルを専用設計として全幅を多くの立体駐車場に対応する1800mmに抑えていたのは有名な話。新型ではついに1800mmを超えているが……。

「これは時代の流れといいますか、わざわざ厚みを抑えた専用品を作ってまで1800mmに抑える必然性が薄れた結果ですね。いまや輸入車はもちろん、国産のミドルセダンでも1800mmを超えるモデルが珍しくなくなっています。加えて立体駐車場のメーカーでも全幅が1850mm以上対応のパレットしか作っていない状況もありますから、もはや数値に縛られる必然性もないのかな、と」
「もちろん、先代までのお客様の中には全幅が拡大したことを気にされる方もいらっしゃいます。ですが、新型では駐車が容易になるパーキング・アシストや低速走行時は最後に走った50mの軌跡をクルマが記憶して、後退時にそれを自動トレースできるリバース・アシストが標準化(受注生産の320i SEを除く)されていることをご説明すると安心されるようですね。実は、3眼カメラを駆使した運転支援システムやこのリバース・アシストなどをほぼ標準装備化しているのは日本向けの3シリーズだけなんです。海外での装着率は10%程度ということで、本国からは『大丈夫か?』と心配されたほどですが、これもまた日本という6大市場の事情を考慮した結果といえるでしょう(笑)」

 

【SHOP DATA】BMW GROUP Tokyo Bay

住所:東京都江東区青海2丁目2番15/電話:03-3599-3840(代表)/営業時間:10:00-19:00/定休日:火曜日・年末年始・夏季

 

フォト:河野敦樹/A.Kawano  インタビューリポート:小野泰治/T.Ono インタビューフォト:宮門秀行/H.Miyakado ル・ボラン2019年8月号より転載
石井 昌道

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