巧みなシャシー制御で余裕綽々の身のこなし
運転席周りは見慣れた最近のBMWのそれなので新しい発見はなく、むしろ後席の居住性のほうが気になって座ってみた。クーペより205mmも延長したホイールベースのおかげで、足元はゆったりしているし左右方向にも余裕がある。肝心のヘッドルームは、身長173cmの自分の頭上に拳1個は無理、両手を重ねたくらいのスペースしか残っていなかった。それでも必要以上にバックレストは寝かされておらず、ほぼ正しい着座姿勢がとれるので窮屈な印象はない。後席足元の中央にセンターコンソールが鎮座していてふたり掛けかと思ったが、3人分のシートベルトが用意されていてちょっと驚いた。後席中央に座る場合は両足を大きく開く必要があるだろう。実質的には大人ふたり掛けである。
エンジンやサスペンションは基本的にM850i xDriveクーペと同じ。ホイールベースが長くなっているので、当然ながら後輪へ駆動力を伝えるプロペラシャフトも長くなっているはずである。
530ps/750Nmを発生する4.4LのV8は、レスポンスやパワーデリバリーが変幻自在のユニットである。ドライブモードで「コンフォート」を選べば、スロットルペダルの踏み込み量に対して極めて従順に反応し欲しいだけのパワーを正確に得ることができる。これを「スポーツ」にすると、今度は右足のほんのわずかな動きも見逃さず瞬時にエンジンが反応して、まるでドライバーの意志を先読みしているかのような間髪入れないタイミングで猛烈な加速を開始する。エンジンの回転フィールは清々しいくらいスムーズで、6000rpmのレブリミットまで一気にきれいに吹け上がる。
ステアリング操作に対するクルマの挙動を司るのは、主に前述のMスポーツ・ディファレンシャル、アダプティブMサスペンション・プロフェッショナル、インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング、そしてxDriveである。“プロフェッショナル”の名が付け加えられたアダプティブMサスペンションには、電子制御式アクティブ・スタビライザーも含まれており、これがロール方向のばね上の動きをコントロールして、ピッチングからヨーが発生して向きを変えるまでの過渡領域で無駄な動きを抑え込む。加えて後輪に舵角が付きEデフがベクタリングの役目を果たすから、クーペよりもホイールベースが長くなったとは思えないほどの回頭性のよさを見せた。挙動は終始安定しているし、スロットルペダルを踏み増せば、前後の駆動力配分が随時最適化されて、しっかりと4輪にトラクションをかけながらエンジンパワーを余すことなく路面に伝える。
個人的には、クーペよりも4ドアのグランクーペのほうが全体的なバランスがよく好印象だった。こうなると、むしろ電子デバイスが省かれた後輪駆動の840iのほうにも興味が涌いてきた。