A3スポーツバックを買うなら今でしょ、とすら想う
もう1台のアウディA3スポーツバックは、デビューが2012年と、今回唯一のモデル末期に近づいているクルマだ。ただ、アウディの見えない部分の熟成力には定評があって、個人的には今回もそこがマイナス要素になってるようには思えなかった。
今回の試乗車は30TFSIスポーツのSライン。1.4Lターボはたった122psだけど上までスムーズに吹け上がって気持ちいいし、スタート直後から200Nmのトルクが力になってくれて低中速域も得意技。Sラインのシャシーはほどよく締まった感じで荒さや粗さはなく、乗り心地も快適といえる部類なのに、曲がりっぷりもしなやかで正確でシャッキリしている。そうした実用域での心地良さ、過剰さがないのに存分に爽快なスポーティさを感じさせる走りっぷり、ゴチャつきのないシンプルなしつらえと思想、それにクルマのそこかしこから感じられる高級感というより“いいモノ”感。それらが高い次元で綺麗にバランスしているのがアウディの“らしさ”であって、もともとプレミアムコンパクトの先駆者らしく巧みに作られていたというのに、それらが熟成されて芳醇さすら感じられるほど。A3スポーツバックを買うなら今でしょ、とすら想う。
ここ10年ぐらいの間、自らが育んできた独自性を巧みにクルマ作りへとあらためて盛り込む自動車メーカーが増えてきた。見せかけだけのプレミアム性や単純な数値の優秀さだけで勝利したとしても、そんなものは長く続かない、ということが判ったからだろう。真のヘリテイジとは何なのか。それをマジメに考える自動車メーカーが増えてきたようで、嬉しい。
という想いなんて世の中的には小さな戯言で、そんなのとは無縁にクルマ選びをする人が圧倒多数だろう。それでいい。何せこの3台、いずれもクルマとしてかなり優秀なのだ。ブランドの好みで選んだとしても、後悔することはないだろう。このクラスは、そういうところまで来ているのである。