試乗記

【比較試乗】「BMW M850iクーペ vs メルセデスAMG GT4ドアクーペ vs アウディR8 vs ポルシェ911」これがドイツを代表するハイエンドスポーツの最新レシピ

昨今はSUVが全盛で、それこそ高性能バージョンやスポーティなモデルも数多く存在する。しかしそこは、純粋なスポーツカーとは仕立て方が違うのは当たり前。さらにハイエンドクラスともなれば日常生活で使え、いざその気になれば非日常の世界へと瞬時に誘ってくれる。ここでは、そんな最新のハイエンドスポーツモデルを集めてみた。

スポーツカーとスポーツGTの違い

この記事でご紹介するこの4台、一般的には“スポーツカー”としてひとくくりにできるかもしれないけれど、車両の成り立ちやパッケージ、運動/操縦性能の限界域などを鑑みれば、スポーツカーと呼べるのはアウディR8とポルシェ911である。実際に運転してみてもそれは明白で、BMWのM850iとメルセデス・ベンツのAMG GT4ドアクーペは、とてつもなくパワフルなエンジンを搭載した乗用車というイメージの範疇にいる。

PORSCHE 911 CARRERA S(左)、MERCEDES-AMG GT53 4MATIC+(右)

でもこれは2台の評価の足を引っ張るようなネガティブな要因ではない。世の中のすべての人が手に汗を滲ませながらガシガシと運転に興じることを望んでいるわけではなく、むしろごくたまにスポーツカーのような走りが楽しめればよくて、普段は心地よく過ごしたいと思っている。M850iとAMG GT4ドアクーペはそういう現実的需要に応える商品としてしかるべく成立しているからだ。

BMW M850i xDrive COUPE(左)、AUDI R8 COUPE V10 PERFORMANCE 5.2 FSI QUATTRO S TRONIC(右)

BMWのラグジャリークーペの名称はこれまで“6”と“8”を行ったり来たりしていたが、現行モデルでまた“8”を名乗るようになり、4ドアのグランクーペと共にしばらくはこのままいくと思われる。クーペは日本にM850ixDriveが導入された後に840d xDriveも加わった。特にM850iは前後駆動力/後輪左右駆動力を電子制御で随時可変するだけでなく後輪操舵も備えた電気仕掛け満載の仕様である。

BMW M850i xDrive COUPE/伸びやかで流麗なスタイリングは思わず振り返るほど個性的だ。いっぽうで室内にはBMWの流儀に従ったいつもの風景が広がっている。電子制御デバイスのおかげもあってボディサイズからは想像できないほどよく曲がる。

M850iにまつわるさまざまな性能のうち、もっとも特徴的かつ魅力的でもあるのはパワートレインかもしれない。エンジンは4.4LのV8ツインターボで、これにトルクコンバータ付きの8速AT が組み合わされる。750Nmという強烈な最大トルクは4台の中で群を抜く数値で、これを1800-4600rpmという幅広い回転域で発生し続ける。極端に言えば、右足にほんのちょっと力を込めればその間はずっと750Nmものトルクが4輪にかかっているわけである。だから発進時はもちろん中速域でも高速域でも、いつでもどこでも目を見張るような圧倒的瞬発力が体感できる。

BMW M850i xDrive COUPE

これを実現しているのは最大トルクが強力だからという単純な理由だけでなく、俊敏なスロットルレスポンスや駆動力ロスの少なさに加えて、8速ATの出来の良さによる複合的要因によるものだ。ちょっと浮遊感のある強烈な加速と路面をしっかり掴んで離さないトラクション性能は、そこだけ取り出すと紛れもないスポーツカーではあるけれど、全体的にはグランドツアラーとしての乗り味に支配されていて、ロングドライブは快適至極である。

BMW M850i xDrive COUPE

AMGがゼロから作ったスポーツカーがAMG GTで、その4ドア(リアにハッチゲートを持つので厳密には5ドア)版がAMGGT4ドアクーペである。2ドアのAMG GTはリアトランスアクスル形式を採用しているので、その4ドア版もトランスミッションをリアに配置していると思った。ところが実際にはEクラスのプラットフォームを流用しているので、エンジンの直後にAMGスピードシフトTCT(9G -トロニックをAMG専用の最適化)を置いたパワートレインレイアウトとなっている。そのため、車検証によれば前軸重のほうが後軸重より100kg重い(前後重量配分は52:48)が、通常のドライブでフロントヘビーを意識させられる場面はほとんどなかった。

MERCEDES-AMG GT53 4MATIC+/後席をふたり乗りと割り切って、大人4人が寛げる空間を確保。2セットのゴルフバッグを収納可能なラゲッジスペースを備えるなど、十分な機能性も備えている。操縦性はナーバスでなく、安定性を担保した味付けが特徴。

そんなことよりも、AMG GT4ドアクーペに乗って感心するのはそのボディ/シャシー剛性の高さである。「なんだEクラスベースか」なんて知った口を叩いた自分が恥ずかしくなるほど、別物と言ってもいいくらい頑強だ。相応のパワーや路面からの入力に耐えうるべく、シャシーには本格的に補強の手が入れられたそうで腰下はしっかりとしているし、大きな開口部を持つハッチゲートによるばね上の動きへの悪影響もほとんど感じられない。

MERCEDES-AMG GT53 4MATIC+

ボディやシャシーがしっかりしていると、サスペンションは本来の仕事を全うできる。タイヤの接地面変化を少なくして4輪にしっかりとトラクションをかけると共に、比較的重くて大きなばね上をスムーズに動かしつつスリップアングルを小さくしてニュートラルステアに近いステア特性を実現している。空気ばねを採用したエアサスペンションはドライブモードの切替によって、快適性重視と操縦性重視のふたつにもきちんと対応していた。

MERCEDES-AMG GT53 4MATIC+

試乗車の「53」はISG搭載モデルで、状況に応じてモーター/ターボ/電動スーパーチャージャを巧みに使い分けるのだけれど、正直に言っていまどれがどれくらい駆動力を支配しているのかまったくわからない。低回転域からレブリミットまで出力カーブは線形で、エンジンをサポートしているであろう3者の介入によるリズムの乱れがないからだ。大変複雑な制御をしているのは容易に想像がつくし、内燃機を少しでも延命しようとするエンジニアの熱意までもが伝わってくるユニットである。

万能スポーツカーの頂点に輝くのは?

アウディR8の現行型は2016年に販売が開始され、昨年マイナーチェンジを受けた。日進月歩が著しい電子デバイスとソフトウエアのアップデートや内外装の意匠変更などが主な改良点。同時にモデル名が「アウディR8クーペV10パフォーマンス・クワトロ」のモノグレードとなった。

AUDI R8 COUPE V10 PERFORMANCE 5.2 FSI QUATTRO S TRONIC/低く幅広く、V10が拝めるエクステリアデザインはミッドシップスポーツカーの特質をうまく表現している。インテリアは見た目よりも機能性が重視されており、アウディの誠実さが現れている。NAのV10はもはや世界遺産。

エンジンは5.2Lの自然吸気V10を踏襲し、パワースペックを最高出力620ps(+10ps)、最大トルク560Nm(+20Nm)と見直している。サスペンションはセッティングを改めてより正確な反応とレスポンスの向上を図ったという。実際、パワーの上乗せ分と操縦性の変化は(そういう言われればそうかもしれない)程度で、でもこれは自分が久しぶりにR8のステアリングを握ったからそう感じた可能性もある。むしろ、全体的にさらにカッチリしたというか、塊感のような手応えがあった。

AUDI R8 COUPE V10 PERFORMANCE 5.2 FSI QUATTRO S TRONIC

そもそもR8というクルマは、ドイツのアウディがミッドシップレイアウトのスポーツカー作りに真摯に向き合って作るとこうなるんだ、と思わせるクルマである。ご存じのように、ミッドシップは車両の中心付近に重量物であるパワートレインを置くことでヨー慣性モーメントを小さくして回頭性に優れるパッケージ特性を有している。いっぽうで、限界付近の挙動が唐突だったりする場合もあり、最後の最後は制御やドライバー自身でもどうにもならない局面も訪れるトリッキーな性格も持ち合わせている。

AUDI R8 COUPE V10 PERFORMANCE 5.2 FSI QUATTRO S TRONIC

ところがR8は、ミッドシップ特有の危うさをほとんど感じない。リスクを可能な限り排除するべく、徹底的に吟味されたシャシーと制御にずっと守られていることを実感しながら運転が楽しめる。これを「スリルがない」と思う人もいるかもしれないけれど、世界一安全なミッドシップスポーツカーを望んでいる人だっているだろう。乗り心地もよく後ろからエンジン音が心地よく聞こえ、そこそこの快適性までも備えている。

PORSCHE 911 CARRERA S/ボディの肥大化だけはどうにかならなかったものかと思うが、それ以外はほとんどすべての性能面で呆れるほど良質な進化を遂げている。他のメーカーがどうしてこれをいまだに真似できないのかが不思議でならない。

911はリアルスポーツカーである。それは間違いない。しかしそれだけではないからやっかいだ。これまで992型の911は4WDのカレラ4を主に試乗してきて、今回はRRのカレラSを試したが、カレラ4よりも軽快でより繊細なハンドリングが楽しめた。

PORSCHE 911 CARRERA S

でも911というのはRRに乗ると「やっぱりこれぞ911」と感心するし、カレラ4に乗ると「ヨンクも悪くない」と思ってしまう。カレラに乗ると「これで十分」と納得しカレラSに乗ると「これくらいパワーがあったほうがいいかも」と考え直しターボに乗ると「すげえ」と舌を巻き、GT2やGT3に乗れば「参りました」と白旗を挙げる。いつもこうである。

PORSCHE 911 CARRERA S

そして現行の911は歴史上最高の快適性までも備えてしまった。乗り心地はよく静粛性も悪くなく直進安定性も申し分ない。ボーッと乗ってもしゃかりきになって峠道を攻めても、期待以上の反応を見せてくれるのである。つまり、ピュアスポーツカーとして資質にはさらに磨きがかかり、その上にグランドツアラーとしての一面までも手に入れてしまった。4人乗車は難しいとかラゲッジスペースに限界があるとか、物理的に解決不可能な点があるとはいえ、後席を荷室に充てたふたり乗りと割り切れば、たいていの場面で困ることはないだろう。
結局、911はもはや何を持ってきても決して惨敗することのない最強のカードなのである。

PORSCHE 911 CARRERA S
○ スポーツカーでもGTでも王様/価格とボディサイズくらい

【Specification】
■全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
■ホイールベース=2450mm
■車両重量=1515kg
■エンジン種類/排気量=水平対向6DOHC24V+ツインターボ/2981cc
■最高出力=450ps(331kW)/6500rpm
■最大トルク=530Nm(54.0kg-m)/2300-5000rpm
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35ZR20:305/30ZR21
■車両本体価格(税込)=16,968,519円

AUDI R8 COUPE V10 PERFORMANCE 5.2 FSI QUATTRO S TRONIC
○ 世界一安全なV10ミッドシップ/V10ミッドシップなのに真面目

【Specification】
■全長×全幅×全高=4430×1940×1240mm
■ホイールベース=2650mm
■車両重量=1670kg
■エンジン種類/排気量=V10DOHC40V/5204cc
■最高出力=620ps(456kW)/8000rpm
■最大トルク=580Nm(59.1kg-m)/6600rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/30ZR20:305/30ZR20
■車両本体価格(税込)=30,010,000円

MERCEDES-AMG GT53 4MATIC+
○ 圧倒的なボディ剛性と安定感/「軽快」や「俊敏」ではない

【Specification】
■全長×全幅×全高=5050×1955×1440mm
■ホイールベース=2950mm
■車両重量=2080kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ツインターボ/2996cc
■最高出力=435ps(320kW)/6100rpm
■最大トルク=520Nm(53.0kg-m)/1800-5800rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション(F:R)=4リンク:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ( F:R)=265/40R20:295/35R20
■車両本体価格(税込)=16,230,000円

BMW M850i xDrive COUPE
○ 電制デバイスによる快適な乗り味/BMWにしてはダイレクト感が希薄

【Specification】
■全長×全幅×全高=4855×1900×1345mm
■ホイールベース=2820mm
■車両重量=1990kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/4394cc
■最高出力=530ps(390kW)/5500rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-4600rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35R20:275/30R20
■車両本体価格(税込)=17,460,000円

フォト=郡 大二郎/D.Kori ル・ボラン2020年3月号より転載

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