万能スポーツカーの頂点に輝くのは?
アウディR8の現行型は2016年に販売が開始され、昨年マイナーチェンジを受けた。日進月歩が著しい電子デバイスとソフトウエアのアップデートや内外装の意匠変更などが主な改良点。同時にモデル名が「アウディR8クーペV10パフォーマンス・クワトロ」のモノグレードとなった。
エンジンは5.2Lの自然吸気V10を踏襲し、パワースペックを最高出力620ps(+10ps)、最大トルク560Nm(+20Nm)と見直している。サスペンションはセッティングを改めてより正確な反応とレスポンスの向上を図ったという。実際、パワーの上乗せ分と操縦性の変化は(そういう言われればそうかもしれない)程度で、でもこれは自分が久しぶりにR8のステアリングを握ったからそう感じた可能性もある。むしろ、全体的にさらにカッチリしたというか、塊感のような手応えがあった。
そもそもR8というクルマは、ドイツのアウディがミッドシップレイアウトのスポーツカー作りに真摯に向き合って作るとこうなるんだ、と思わせるクルマである。ご存じのように、ミッドシップは車両の中心付近に重量物であるパワートレインを置くことでヨー慣性モーメントを小さくして回頭性に優れるパッケージ特性を有している。いっぽうで、限界付近の挙動が唐突だったりする場合もあり、最後の最後は制御やドライバー自身でもどうにもならない局面も訪れるトリッキーな性格も持ち合わせている。
ところがR8は、ミッドシップ特有の危うさをほとんど感じない。リスクを可能な限り排除するべく、徹底的に吟味されたシャシーと制御にずっと守られていることを実感しながら運転が楽しめる。これを「スリルがない」と思う人もいるかもしれないけれど、世界一安全なミッドシップスポーツカーを望んでいる人だっているだろう。乗り心地もよく後ろからエンジン音が心地よく聞こえ、そこそこの快適性までも備えている。
911はリアルスポーツカーである。それは間違いない。しかしそれだけではないからやっかいだ。これまで992型の911は4WDのカレラ4を主に試乗してきて、今回はRRのカレラSを試したが、カレラ4よりも軽快でより繊細なハンドリングが楽しめた。
でも911というのはRRに乗ると「やっぱりこれぞ911」と感心するし、カレラ4に乗ると「ヨンクも悪くない」と思ってしまう。カレラに乗ると「これで十分」と納得しカレラSに乗ると「これくらいパワーがあったほうがいいかも」と考え直しターボに乗ると「すげえ」と舌を巻き、GT2やGT3に乗れば「参りました」と白旗を挙げる。いつもこうである。
そして現行の911は歴史上最高の快適性までも備えてしまった。乗り心地はよく静粛性も悪くなく直進安定性も申し分ない。ボーッと乗ってもしゃかりきになって峠道を攻めても、期待以上の反応を見せてくれるのである。つまり、ピュアスポーツカーとして資質にはさらに磨きがかかり、その上にグランドツアラーとしての一面までも手に入れてしまった。4人乗車は難しいとかラゲッジスペースに限界があるとか、物理的に解決不可能な点があるとはいえ、後席を荷室に充てたふたり乗りと割り切れば、たいていの場面で困ることはないだろう。
結局、911はもはや何を持ってきても決して惨敗することのない最強のカードなのである。