
近頃はよくできた2ペダルのATやDCTが増えその一方で次々と消えていく輸入車のMTモデル。「僕たち私たちはMTに乗りたいんです!」というわけで、ここではMT大好き安東さんにあらためてMT車の魅力を語っていただいた!
クルマに近づきたい、クルマと対話したい
以前、安東さんと一緒に某国産車の試乗をしていた時、彼は走り出してから30分くらいずっとそのクルマのトランスミッションについて語っていた。この人はトランスミッションに並々ならぬこだわりがあるのだろうと思った。

RENAULT MEGANE R.S. TROPHY/ルノー・メガーヌRSトロフィー/レカロ製バケットシートやアルカンターラを巻いたステアリングなどはトロフィー専用の装備。他にも、後輪を操舵する4コントロール、スプリングレート/ダンピングレートを高めてアンチロールバーを追加したシャシーカップ、トルセンLSDなども標準装備。
「トランスミッションはとにかく気になります。僕は基本的にイライラしないんですが、CVTだと5分で不機嫌になります(笑)。トランスミッションはドライバーとエンジンを繋いでくれる重要なものだと思っています。だからギアチェンジできなかったり勝手にエンジン回転数を制御するCVTの類がどうにも我慢ならないんです」
トランスミッションはエンジンよりもドライバーの身近にあるし、エンジンのおいしいところをうまく使うためには欠かすことのできないメカニズムである。これを、ドライバー自らが操作できないなんてあり得ない、というのが安東さんの主張なのだ。

ABARTH 124 SPIDER/アバルト124スパイダー/インテリアは兄弟車となるマツダ・ロードスターと基本的に同じだが、シートをはじめ随所にアバルトらしい演出が見受けられる。乗り味やエキゾーストノートなどもロードスターとは明らかに異なるものになっており、アバルトならではの雰囲気が楽しめる。
「もちろん、最近のATやDCTの出来の良さはわかっているつもりです。でも僕はATでもMTモードがあればすぐにそっちに切り替えて運転しています。やっぱり自分で“変えたい”んです。それができない、エンジンブレーキが使えない、自分の意思が通じないトランスミッションは、少し大げさな言い方かもしれませんが、人とクルマとの距離をどんどん拡げてしまうように感じる。欧州車にはいまでもMTの設定がけっこうあって、逆にCVTはあまり見かけない。欧州の人とクルマの距離感って近いですよね。だからそんなふうに思ってしまうんです。
僕はエンストして欲しいんです。MTは発進の時からスキルの差が出ますよね。もし自分が下手くそだったらエンストして“お前、下手くそだな”とクルマに言って欲しいんです。そういう対話をクルマとしたい。ただただ気持ちいいんじゃなくて、下手と言われたらそれをどうにか克服したいと思うんです」
果たして今回のベストMTモデルは?
「アバルトの124スパイダーは、ターンパイクみたいなところではロードスターよりトルクがあっていいですね。ただ、124スパイダーもロードスターも、ペダルのオフセットがどうしても気になってなかなか慣れないですね。シートとステアリングの位置関係も、僕のドライビングポジションには合わない。ストロークが少なく節度感のあるシフトフィールなので、MT車としての運転そのものは楽しいけれど、どうにもポジションが(笑)。それでも、今回の中では一番よかったかもしれません。エリーゼに乗るまでは(笑)」

LOTUS ELISE HERITAGE EDITION/ロータス・エリーゼ ヘリテージ・エディション/試乗車はエリーゼ220をベースにした“ヘリテージ・エディション”と呼ばれる限定モデルで、ストライプの入ったエクステリア、専用カラーのインテリアともに特別仕様となっている。ディーラーオプションでデタッチャブルハードトップも選べる。
実は安東さん、今回初めて試乗したエリーゼにすっかりやられてしまい、その興奮が冷めやらぬうちに話をうかがったので、他のクルマの話にもちょいちょいエリーゼの名前が登場した。
「エリーゼから乗り換えると、メガーヌでもヒップポイントが高いと感じてしまいました(笑)。このトロフィーに乗って感じたのは、FFの大パワーのクルマには相応の運転スキルが必要だということです。お恥ずかしながら、試乗を始めるときにホイールスピンさせてしまいました。そんなにガスペダルを踏み込んだつもりはなかったのに、これでちょっとナーバスになった。丁寧に扱わないと暴れるかもしれないと思ったんです。前輪だけであのパワーをコントロールするのはなかなか難しい。クラッチペダルも結構ストロークがあって、これでニュルでタイムを出す技術ってスゲーなと感心しました。僕には短時間で手なずける自信がない。でもこれを手なずけたらきっと面白いんだろうなとも思う。約500万円の価格は安くはないけれど、この内容を鑑みればリーズナブルかもしれませんね」
アップGTIの印象も決して悪くなく、ご自身の昔の愛車を思い出したそうだ。
「音が意外にいいですね。でも、ペダルもシフトもストロークが長いし、アップライトなシートポジションなんでシフトレバーがすっごい下のほうにあると感じてしまいます。元々スポーツカーとして作られた訳ではないので仕方ないとは思いますが、シフトレバーにもう少し節度感があるときっともっと楽しくなるでしょうね。ボディサイズと動力性能はちょうどいいですね。僕が初めて買ったシティターボIIを思い出しました。ドッカンターボだったけれど、僕にはちょうどよくてクルマの楽しさを学びました。だからアップGTIみたいなクルマに最初に乗ると運転が好きになるかもしれない。腕に覚えのある人が乗ってもそこそこ楽しめるだろうし、運転しているうちにジワジワ楽しくなってくる。ペダルの剛性感とか、さすがドイツ車ですね」

VOLKSWAGEN UP! GTI/フォルクスワーゲン・アップ! GTI/アップGTIは昨年600台の限定車として登場、瞬く間に完売した。現在はカタログモデルとして再登場となり、限定車の仕様にリアビューカメラやプレミアムサウンドシステムを追加採用。“タングステンシルバーメタリック”も新採用のボディカラーだ。
そしてエリーゼである。安東さんはエリーゼの試乗のみ、2回もおかわりをした。
「ついに出逢ってしまった……。これが率直な感想です(笑)。今回、一番安全に楽しく気持ちよく運転できました。文句ないドライビングポジション、ちょうどいい動力性能、絶妙なシフトフィール、すべてが整っていて、究極のバランスマシンだと感激しました。見た目からスパルタンでドライバーに厳しいクルマだと想像していたんです。でも実際にはなんて優しいクルマなんだろうと。大変なのは乗り降りと荷物スペースくらい。いったんシートに収まってしまえば、あとはもう永遠にドライブしていたくなる(笑)。あのカチッカチッとしたシフトフィールが最高です。次のポジションに吸い込まれて、シーケンシャルのようにシフトレバーを真っ直ぐ動かしているみたいに感じる。たまらんですねえ、トランスミッションおたくとしては(笑)。エンジンのレスポンスもいいんです。回転が勝手に合うというか、無用な気を遣う必要がまったくありませんでした。
詰まるところ、MTで気持ちいいクルマはシフトフィールだけがよくてもダメで、すべてのバランスが揃ってはじめて気持ちいいと感じるんだと、エリーゼに乗ってあらためて認識しました」
安東さんは911のMTを愛車にしているが、この取材を終えて心配なことがあるという。
「家に帰って911に乗ってガッカリしたらどうしようかと(笑)。サラリーマン時代に大借金してかなり無理して911を買ったのは、その当時の僕にとって完璧なMT車だったからなんです。今日は後に振り返ってみたときに、僕の自動車遍歴のターニングポイントになったかもしれません」
【Specification】RENAULT MEGANE RS. TROPHY
■全長×全幅×全高=4410×1875×1435mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1450kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1798cc
■最高出力=300ps(221kW)/6000rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/3200rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション(F:R)=ストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35R19:245/35R19
■車両本体価格(税込)=4,890,000円
お問い合わせ
ルノー・ジャポン 0120-676-365
【Specification】LOTUS ELISE HERITAGE EDITION
■全長×全幅×全高=3800×1720×1130mm
■ホイールベース=2300mm
■車両重量=904kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+スーパーチャージャー/1798cc
■最高出力=220ps(162kW)/6800rpm
■最大トルク=250Nm(25.4kg-m)/4600rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=195/50R16:225/45R17
■車両本体価格(税込)=7,895,250円
お問い合わせ
エルシーアイ 0120-371-222
【Specification】VOLKSWAGEN UP! GTI
■全長×全幅×全高=3625×1650×1485mm
■ホイールベース=2420mm
■車両重量=1000kg
■エンジン種類/排気量=直3DOHC12V+ターボ/999cc
■最高出力=116ps(85kW)/5000-5500rpm
■最大トルク=200Nm(20.4kg-m)/2000-3500rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション(F:R)=ストラット:トレーリングアーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ドラム
■タイヤサイズ(F:R)=195/40R17:195/40R17
■車両本体価格(税込)=2,342,000円
お問い合わせ
フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン 0120-993-199
【Specification】ABARTH 124 SPIDER
■全長×全幅×全高=4060×1740×1240mm
■ホイールベース=2310mm
■車両重量=1130kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1368cc
■最高出力=170ps(125kW)/5500rpm
■最大トルク=250Nm(25.5kg-m)/2500rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=205/45R17:205/45R17
■車両本体価格(税込)=4,060,000円
お問い合わせ
FCAジャパン 0120-130-595

安東弘樹 (あんどうひろき)/1967年生まれ。物心ついた時からクルマに対しての興味は異常ともいえるほど。1991年、TBSにアナウンサーとして入社。2018年3月に退社し、フリーアナウンサーに転身。これまでに40台以上のクルマをすべてローンで購入し乗り継ぎ、所有してきたクルマは、現主要生産国のすべてを網羅している。クルマ全体に興味があり、愛しており、さらに道路行政や、クルマ文化に対しても一家言あり、各誌、各サイトにおいてコラムの執筆も多数行なっている。