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TSI+DSGのパワートレインが示す3代目ヴァリアントのシルエット【VW GOLF FAN Vol.13】

※この記事は2007年9月に発売された「VW GOLF FAN Vol.13」から転載されたものです。

ファミリーの濃厚なエッセンスを詰め込んだゴルフ・ヴァリアント

ゴルフⅤファミリー、最後の車型バリエーションといわれるワゴンモデルが登場。名称を新たに「ゴルフ・ヴァリアント」と改め、国内デビューを果たした。ここでは、2種類のTSIユニットを搭載するなど、ゴルフⅤファミリーの持つ濃厚なエッセンスを詰め込んだ新型ヴァリアントの試乗リポートをお届けしよう。

ゴルフ原理主義者には認められない!?

’93年に発表されたゴルフIIIのワゴンから数えて3代目となるVのワゴンが、その名を“ヴァリアント”と変えて登場した。名を変えたといっても、これがヨーロッパでの本名だ。日本導入の’95年当時、日本はワゴンブームの真っ只中にあったから、VGJはより分かりやすいワゴンというネーミングを採用したという経緯がある。ともあれ、このゴルフのワゴンは、これまでに世界中で約120万台を販売。我が国でも輸入車コンパクトワゴンセグメントで常にトップクラスの販売実績を誇って、初代の上陸以来、累計で約8万台が売れているという。

インパネ回りのデザインは、基本的にセダン(ハッチバック)のそれを踏襲。アルミのパネルを6時方向のスポークにあしらった3本スポークステアリングなど、その内容はゴルフGT TSIに近いものとなる。写真は上がコンフォートライン、下がスポーツライン。

そんな人気モデルの3代目は大きくて立派な、よりスタイリッシュなボディを持つ。2代目に比較すると、全長は165mm増の4565㎜、全幅は50mm増の1785mm、全高は20~50mm増の1530mmとなっている。もちろん、Vがベースだから、ホイールベースは2575mm(60mm増)。4.5mもの全長はセダン(ハッチバック)のそれを300mm以上延長した格好で、それもあってか、ラゲッジスペースは通常時505L、最大1495Lにもなる、歴代のゴルフのワゴンボディ最大のもの。
日本市場に用意されたエンジンは、ディーゼルが主流となるヨーロッパとは違って、ガソリン2種のみ。現段階、ベーシックのコンフォートラインにGT TSIのスーパーチャージャー&ターボチャージャー付き1.4L(170ps)、上級グレードのスポーツラインにGTIのターボチャージャー付き2.0L(200ps)が搭載される。これらに組み合わされるミッションは当然のことながら、いま最も効率がよいとされる、VW自慢のDSGだ。
VWファンならば、こうした概要だけでも、魅力的なクルマであることが理解いただけるだろう。

シートはコンフォートラインがコンフォートシート、スポーツラインがスポーツシートを標準とし、後者では写真のレザースポーツシートをオプションで選択できる。このレザーシートは8ポジションの調整機能付きパワーシートとなる。

しかし、このヴァリアント、ゴルフ原理主義者からはイチャモンがつきそうだ。まず問題(?)は、結構スタイリッシュになってしまった点。初代、2代目は、ワゴンとしての実用性を強く意識したデザインだった。「まるでバンみたい」と陰口を叩かれた比較的立った初代のDピラーは、2代目でも受け継がれ、そのリアビューのプレーンさが他のワゴンにはない魅力だった。ところが、今度のヴァリアントは「まるでクーペみたい」に寝てしまった。
その外観がジェッタ似あることも、ゴルフ原理主義者には抵抗があるに違いない。ヘッドライトやクロームのワッペングリル、それにサイドに流れるキャラクターラインはジェッタとほとんど変わるところなく、全体に光り物が少なくないことも、質実剛健をモットーとするはずのゴルフとは異なる。これはゴルフなのか? いずれにしても、IIIのワゴンが生まれた時代とは、マーケットの様相も含め背景がまったく違うといえばそれまでなのだが……。

リアシートを倒した際にフロアがフラットになるよう、ゴルフ・ヴァリアントのラゲッジ床は2重構造になっている。フロア下には小物を収納できるスペースが設けられ、さらにその下にスペアタイヤが収まる。

まぁしかし、このクルマ、実際に触れ、乗ってみると、きわめて濃い内容を持っていることが分かる。ファミリーカーとしての資質が抜群といえて、それは驚くなかれ、ゴルフ原理主義者もきっと舌を巻くに違いないと思わせるほどのものなのだ!

ラゲッジは通常の状態で505L、リアシートを畳むと最大で1495L(ISO測定値)の容量を得られる。この容量は、先代に比べ、通常時で+45L、最大時で+25Lとなる。また、写真下のように、リアシートを倒した時にフロアがフラットになる構造も特徴。ホイールハウスの張り出しも抑えられており、スクエアなスペースが得られる。

ヴァリアントこそが真のファミリーカー!?

ヴァリアントが数あるゴルフのラインナップのなかでも、ファミリーカーの資質が特に高いと思われる理由は、リアシートのコンフォート性が抜群であるからだ。

コンフォートラインが搭載するのは1.4L TSIユニット。ゴルフGT TSIに搭載されたものと共通のユニットで、直噴の直4DOHC16Vユニットにターボとスーパーチャージャーをプラス。1.4Lから170ps/6000rpm&24.5kg-m/1500~4750rpmを発揮する。

第一には、ルーフのラインをセダンのように後方に向かって急激に下げていく必要のないワゴンボディゆえに、リア空間の縦方向のサイズがユッタリとしたものになっていることが挙げられる。
オプションで用意される2ピース構造のパノラマスライディングルーフは、ルーフを下げる必要のないワゴンボディならでは特典といえる。こういってはなんだが、セダンの場合、ルーフが下がっているため、リアシートのヒップポイントも下げざるを得ず、そこに座った感覚はどちらかといえば穴蔵的。太いCピラーもあって、閉所感も少なくない。

スポーツラインに搭載されるのは、2L直噴ターボから200ps/5100~6000rpm&28.6kg-m/1800~5000rpmを発揮する2.0TSI。つまりは、ゴルフGTIに搭載されているユニットだ。このユニットも、VWでは「TSI」と呼称することになった。

第二には、これもワゴンゆえだが、ラゲッジスペースのフラットフロア化が結果的に、リアシートのヒップポイントをセダンに比較して約20mm押し上げている点が挙げられる。荷室を有効に、様々な形で使えるよう工夫するのは、ワゴン開発時の重要なテーマのひとつ。VWの開発陣は荷室のフラットフロア化を目指して、本来のトランクルームのフロアを二重構造としてかさ上げし、リアシートをダブルフォールディング式に倒したときにフロア全体がフラットになる構造とした。それが、リアシートのヒップポイントを上げる結果となっている。
このリアシートの約20㎜のヒップポイント上昇は、乗員のアイポイントの約20mm上昇を意味し、乗員にセダンでは得られない視界の良さや開放感を提供、さらにリア空間を快適なものとする。

足回りはコンフォートラインよりもスポーツラインの方がややハード。パワートレイン同様、コンフォートラインがゴルフGT TSI、スポーツラインがGTIという相対関係を思い浮かべるとわかりやすい。

トランクルームのフロアを二重構造でかさ上げする手法は、すでにゴルフ・プラスでも採用されている。ご存知のように、ゴルフ・プラスはボディ全高を高くし、前後シートをセダンに比較して前方にセット、アップライトに座らせることで豊かな空間を獲得したクルマ。ゴルフ原理主義者も評価する優れたパッケージングだ。
このため、セダンでは使い勝手が悪いと指摘されたラゲッジスペースも、大きく改善することができたわけだが、一方で、リアシートのヒップポイントがやや高くなりすぎたキライもある。リアシートを普通にセットすると、足の長いドイツ人にはちょうどいい高さなのだろうが、我々日本人の平均的な足の長さでは、フロアに足がペタッとつかない、つまりいざというときに踏ん張れなかったりして、長距離ではむしろ疲れてしまう可能性が少なくない。

1.4L TSIユニット、2.0TSIユニットともに組み合わせるミッションは6速DSG。ギア比などもすべて共通だ。ただし、スポーツラインではステアリング上にパドルシフトが備わる点が異なる。

いうまでもないが、全高がセダンとゴルフ・プラスの中間にあるヴァリアントのそのリアシートは、我々日本人にはピッタリというべきヒップポイント。リアシートに子供やご老人を乗せる機会が多いファミリーカーの場合、これは絶対に見逃せないポイントで、なにを隠そう、リポーターはこれをもって、ファミリーカーとしての資質が、ゴルフのラインナップの中でも抜群と見ているのだ。

新旧モデルを比較すると……?

先代ゴルフ・ワゴンとゴルフ・ヴァリアントのもっとも大きな違いはデザインの基本的なコンセプト。フロント・マスクはベースとなったゴルフ( IIIとIV)に準じるデザインが通例だったが、ヴァリアントではゴルフよりも、むしろジェッタに近いイメージを採用。さらにリアのDピラーを寝かせたデザインも歴代ゴルフ・ワゴンにはなかったものだ。

先代もGTI(IV)同様のエンジンを積んだモデル(GT)があったが、それはモデル末期に追加されたもの。上陸時点ですでにGTI(V)同様のパワートレインを持つモデルが存在するのも、ヴァリアントのキャラクターを物語る。

ヴァリアントのボディサイズは先代ゴルフ・ワゴン比で全長+165mm、全幅+50mm、全高+40mm、ホイールベース+60mm。全体に一回り大柄になったが、とりわけ全長の伸長が目立つ。その長くなった全長分はラゲッジスペースの拡大に充てられた、と考えるべきだろう。

ワゴンとしてみれば走りの質は期待以上

その走りは、期待以上のものだ。ワゴンボディゆえに剛性がほんの少し落ちた感触があり、ロードノイズもやや増えた気がするものの、それはセダンに比較した場合であって、このクルマの魅力を損なうほどのものではない。かえって、ワゴンボディゆえの重さ、前後重量配分の良さなどが、乗り心地を向上させ、より素直な操縦性をもたらしているよう。全体にセダンよりもまろやかな印象で、そうした観点でもファミリーカーの資質が高いと思われる。

長さ1360mm、幅870mmという大きなガラスエリアを持つパノラマスライディングルーフはオプションの設定。VWでは、このヴァリアントが初採用となる。

速さは、1.4コンフォートラインで十分。170ps仕様TSIユニットは、重いボディを意識させることなく、伸びやかな加速を示す。2.0スポーツラインともなると、ワゴンとしては過剰というべきスピード。GTIと同じエンジンだから当たり前といえば当たり前。ただ、これに対応するべく、足回りも固められていて、17インチのロープロファイル・タイヤを装着していることも実感させられる。といっても、伝わってくるのは角が取れたショックで、決して不快ではないが……。

セダン(ハッチバック)から変わった点……といえば、センターコンソール下にあるシャッター付きドリンクホルダー。その仕切りに
使われている栓抜き(?)がカバー付きに。

コンフォートラインが1.4Lツインチャージャー、スポーツラインが2 ターボと、両グレードともにターボユニット搭載車だけに、マフラーは2本出しタイプを採用。

さて、これからゴルフのラインナップのなかから1台を選ぼうという人は、大いに迷われるに違いない。純粋にファミリーカーとしてのゴルフを求めるなら、オススメはこのゴルフ・ヴァリアントの1.4コンフォートラインだ。実はゴルフ原理主義者であるリポーターであっても、このクルマのよさは認めざるを得ない。

VWでは今後、直噴+過給器システムのガソリンエンジンを「TSI」と呼ぶことに決定。そのため、このスポーツラインやゴルフGTIに搭載される2.0Lターボ(従来のT-FSI)も2.0TSIという名称に順次、変更されるという。

【specifications】
TSI Comfortline[2.0 TSI Sportline]
■全長×全幅×全高=4565×1785×1530mm
■ホイールベース=2575mm
■トレッド(前/後)=1540/1515mm[1525/1500mm]
■車両重量=1470kg[1520kg]
■最小回転半径=5.0m
■乗車定員=5名
■エンジン型式/種類=BLG/直4DOHC16V+SC+ターボ[BWA/直4DOHC16V+SC+ターボ]
■内径×行程=76.5×75.6mm[82.5×92.8mm]
■総排気量=1389cc[1984cc]
■圧縮比=9.7[10.3]
■最高出力=170ps(125kW)/6000rpm[200ps(147kW)/5100~6000rpm]
■最大トルク=24.5kg-m(240Nm)/1500~4750rpm[28.6kg-m(280Nm)/1800~5000rpm]
■燃料タンク容量=55L(プレミアム)
■10・15モード燃費=14.0km/L[11.2km/L]
■ミッション形式=6速DSG
■変速比=(1)3.461(2)2.150(3)1.464(4)1.078(5)1.093(6)0.921(R)3.989(F)4.117((5)(6)(R)3.043)
■サスペンション形式=前ストラット&コイル、後4リンク/コイル
■ブレーキ=前Vディスク/後ディスク
■タイヤ(ホイール)=205/55R16(6.5J)[225/45R17(7J)]
■東京標準現金価格=2,960,000円[3,350,000円]

TSI Comfortlineと2.0TSI Sportline の違いは……?

コンフォートラインとスポーツラインの装備の違いを見ていくと、まず、スポーツラインではヘッドライトがオートライト機構付きバイキセノンとなりフォグランプも備える。フロントシートはスポーツシートで、レザーもオプションで用意。ステアリングにパドルシフトも備わる。対してコンフォートラインではヘッドライトは4灯ハロゲン(オートライトなし)、シートはコンフォートタイプとなる。タイヤサイズはコンフォートラインが205/55R16、スポーツラインが225/45R17。

2.0TSI Sportline

TSI Comfortline

リポート:小倉正樹/フォト:赤松 孝
取材協力=フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン

VW GOLF FAN Vol.13から転載
LE VOLANT web編集部

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