
この記事ではEクラスがラインナップする4つのボディタイプを集め、乗り味を中心に徹底比較を敢行。ワインディングを走り込むことで、ボディタイプによる車両セッティングの違いなどが浮き彫りとなり、新しいEクラスの、いやメルセデス・ベンツの職人芸的なクルマ作りを思い知ることとなった。
4種のボディタイプと2種のエンジンを比較
前身のミディアムクラスを含めれば累計販売台数は約1400万台と、メルセデスの中で最多を誇るEクラス。そんな同社のベストセラーとも言えるメルセデスの使命は、ユーザーの多様なニーズに応えることにもある。

BODY TYPE/4台の全長比でE200ステーションワゴン・スポーツは4955mm、セダンのE200スポーツは4940mm、E300スポーツのクーペとカブリオレは4845mm。ボディタイプにより全長や車重、前後重量比など様々だが、ボディやサスペンションの設定をそれぞれに最適化することで、どれに乗っても「レベルの高いEクラス」を感じとることができた。
ボディはセダンにステーションワゴン(オールテレイン含む)、クーペとカブリオレと4種類。エンジンは1.5L直4から4L・V8まで幅広く、プラグインハイブリッドにガソリンとディーゼルが用意されるなど多種多様。今回はその中から4台をピックアップして、比較試乗で違いを明らかにしてみた。

ENGINE/200系グレードは1.5L直4+BSGの「M264」エンジン(写真左)、300系グレードは2L直4の「M264M20」エンジン(写真右)が搭載される。他には2L直4ディーゼルの「OM654」、2L直4+ハイブリッドシステムの「M274」、3L直6の「M256」、そして63Sが積む4LV8の「M177」の全6種類のエンジンバリエーションだ。
セダンとステーションワゴンはE200スポーツ、クーペとカブリオレはE300スポーツと、ボディは4種類あるがエンジンは2種類。Eクラスの豊富なラインナップからみれば物足りないかもしれないが、セダンにするかステーションワゴンにするか、あるいはクーペかカブリオレかとチョイスに悩む人は少なくないだろうから、あえて同エンジンで比較できることは参考になるだろう。

WHEEL/200系グレードは新デザインとなる円盤と5ツインスポークを組み合わせたアルミホイール(左)、300系グレードは10スポークアルミホイール(右)を標準装備。サイズはどちらも19インチが標準。
完熟試乗で見えてきたセダンの高い完成度に圧倒
E200のエンジンは当初は2Lターボだったが、2019年に1.5Lターボ+BSGへ換装。Cクラスでは高評価だった同ユニットは、ひと回り大きなEクラスでも役不足ではないだろうか?
街中に郊外路、高速道路などの一般的なシーンでは低・中回転域のトルクが充実していて扱いやすく、力感も十分。いまどきの直噴ターボとしては最大トルク発生値が3000~4000rpmと比較的に高いが、BSGのモーターが低回転域をアシストするからこの設定が成立するのだ。ストロングハイブリッドのようにグイッとくるモーター感こそないものの、メーター内のEQと描かれた表示では頻繁にPOWER側に振れてアシストしているのがわかる。モーターの最大トルクは38Nmにすぎないが、クランクシャフトに作用するのは最大160Nmなのだという。
だから1.5Lでも低回転域から頼もしいのだ。実用的な直噴ターボは、低・中回転は充実しているものの相対的に高回転は頭打ち感があるのが一般的だが、E200にそれは当てはまらない。アクセルをいっぱいに踏み込めば4500rpmあたりから活気づいてシュンシュンと軽快に吹け上がっていくのだ。1気筒あたりの排気量が小さいからマルチシリンダー風のフィーリングで環境ソリューションユニットとは思えないほど元気。ワインディングロードを駆け巡るのも楽しい。最高出力は184psに過ぎないので絶対的には速くはないが、日常域では十分以上といったところだ。
2世代前あたりまではセダンとステーションワゴンには明確な差があった。後者はテールの開口部が大きいから剛性面では不利で、重量バランスは後ろ寄りとなり、リアサスペンションのセッティングも随分とかわってくる。その違いが乗り比べればすぐにわかるほどだったのだが、現行モデルでは一般的な走行だったらほとんどわからないレベルになっている。

MERCEDES-BENZ E300 CABRIOLET SPORTS/アコースティックソフトトップを閉めれば、高い静粛性が保たれる。オープントップ時は風の巻き込みを防ぐエアキャップ、首元を温めるエアスカーフなどが活躍。
だが、神経を尖らせながら比較してみると、それなりに違いはあった。昨年のビッグマイナーチェンジによってEクラスは全体的に上質な乗り味となり、コンベンショナルなサスペンションのE200スポーツでも驚くほど乗り心地は良くなっている。それがより顕著に感じられるのはセダンのほうだ。ランフラットタイヤの縦バネの硬さや重さをほとんど感知させない見事な足さばき。資料を見てもシャシー面での改良情報はないが、メルセデスらしい熟成・進化を思わせる。ステーションワゴンもたいていのシーンではほぼ同等の乗り心地だが、凹凸が連続する荒れた路面ではほんの少しだけ尖った入力感を感じられた。
ハンドリングはもう少し開きが大きい。セダンはノーズの入り方がスムーズで、いかにもバランスのいいFRを走らせている気持ち良さがある。スポーツカーを何台も乗り継いで腕に覚えがある人でも、さすがはメルセデスと感心するだろう。ステーションワゴンに乗り換えるとアンダーステア傾向が少し強くなり、軽快感が薄れる。ノーズの入りが悪いというよりも、リアがグッと粘っている感覚だ。
前後重量配分はステーションワゴンのほうが後ろ寄りでほぼ50:50と良好なので、積載量の増減が多いことを考慮し、剛性などに合わせて最適なセッティングを施した結果だろう。軽快感の違いは車両重量によるものもある。ハンドリングだけではなく、加速力でもそれは感じられた。

MERCEDES-BENZ E300 CABRIOLET SPORTS/後席はサイドサポートのあるゆったりしたシートやカップホルダーなども備わり、ロングドライブでも大人が十分くつろげる室内空間が担保されている。
固定概念を覆すカブリオレの乗り味
E300は1800rpmから370Nmものトルクを発生するからE200から乗り換えると、たっぷりとした余裕を感じられ、贅沢な気分になる。モーターのアシストがないゆえか、あらゆる場面でリニアな感覚がありドライバビリティも一枚上手だ。4500rpm以上の高回転域は加速感、サウンドともに迫力があり、E200との差も大きい。この上には直6のE450もあり、またそれは別格だが、重量とのバランスやコストパフォーマンスを考えれば満足度はかなり高い。
クーペとカブリオレには70kgの重量差があるが、パワー&トルクに余裕があるので、それを如実に感じるというほどではない。それでもクーペでアクセルを積極的に踏み込んでいくと、ひと際鋭い加速と適度に引き締まったサスペンションで気分は高揚してくる。可変ダンパーにより、硬めだけれど乗り心地の悪化は最小限だ。

MERCEDES-BENZ E200 SPORTS/試乗車は「AMGラインインテリアパッケージ」を装着し、レザーARTICOダッシュボードやAMGスポーツステアリングホイールが奢られた上質感のある仕様となる。
セダンに対してホイールベースが65mm短くなっていることもあり、ハンドリングはシャープだ。ステアリングを切り込めば即座にノーズが反応して曲がっていく感覚はスポーツカー顔負け。それでもスタビリティが高くて安心感もあるのがメルセデスらしい。
カブリオレもスポーティだが、それに加えて上質さが際だっていた。重たくなるからクーペに比べると全体的におっとりとした動きではあるが、ステアリング操作に対する正確性はむしろ上回っているほど。前後重量配分はクーペが53:47なのに対して52:48、ルーフを開けているとさらに後ろよりになって50:50に近づいていることが効いているのかもしれない。クーペほどのダイレクト感はないが、動きのスムーズさや素直さはカブリオレのほうが上手。明確にキャラクターの違いがあって、どちらを選ぶべきか悩ましいほどだ。

MERCEDES-BENZ E200 SPORTS/トランク容量は540Lとなり、後席の背もたれは、40:20:40の分割可倒式が採用される。荷室床面には小物類の収納に便利なサブトランクが設置されている。
重箱の隅を突いて分かった新型Eクラスの総評は?
現代の高度な技術はボディによる性能やフィーリングの差は限りなく小さいが、じっくりと相対比較をすれば、それなりに違いを見いだせたことは興味深かった。

MERCEDES-BENZ E200 STATIONWAGON SPORTS/2枚連結した12.3インチの液晶パネルを備え、様々な車両情報を表示するほか、新機能となる実際の景色をナビ画面に映し出すARカーナビも搭載されている。
ステーションワゴンはラゲッジルームがセダンのように独立していないことでノイズが耳に付きやすいのが一般的。高度な快適性をもつEクラスならば、街中での短時間の試乗ぐらいだと違いがわからないぐらいのレベルだが、じっくりと比較してみるとわずかにセダンのほうが耳に心地いい。乗り心地もほぼ同様と言えるが、状況によってはセダンのほうが上質。ハンドリングはワインディングをそれなりに楽しむペースになるとフィーリングの違いは明確で、これまたセダンに軍配が上がる。そこまでマニアックに動きの気持ち良さや上質感の違いを求める人は多くないだろうが、あえてセダンを選択する意味はあるわけだ。
ステーションワゴンでも満足度は高いが、エンジンの選択は熟考したほうがいい。E200でも普通に走らせている分には不足はないが、フル乗車で荷物も満載といったそれらしい使い方が多いと高速道路の登り区間などでもう少し力が欲しくなるはず。軽快感に価値があるセダンならば軽量なE200とのマッチングがいいが、ステーションワゴンはディーゼルやE300が欲しくなるだろう。
スポーティとラグジャリーが融合したクーペとカブリオレは、その選択に悩む人も少なくないだろう。スポーティ重視ならクーペ、ラグジャリー重視&オープンエアの爽快感をとってカブリオレという、イメージ通りの違いは当然あるだろうが、今回の比較試乗ではカブリオレが想像以上に良かった。普通に考えれば重くてボディ剛性的にも不利な分、クーペに対して走りでは一歩譲ると思いきや、それらを絶妙なセッティングで克服してクーペとは違った魅力を獲得しているのだ。
ダイレクト感に溢れるクーペよりも穏やかではあるものの、ペースを上げても上質さは一切失われず、動きの素直さではむしろ上回っている。クーペは純粋にスポーティでワインディングを走らせているとペースを上げていきたくなる。対するカブリオレは高度なシャシー性能や良好なドライバビリティを適度なペースでしみじみと味わおうという気持ちになる。様々なクルマに乗ってきて酸いも甘いもかみ分けられる大人のためのモデルとして完璧に仕上がっているのだ。
今回の4台だけでも、それぞれが魅力的で迷ってしまうが、セダンが9、ステーションワゴンが8、クーペとカブリオレがそれぞれ4と計25ものモデルが用意されている。すべてのなかからベストEクラスを探せ! となると、相当に悩ましいことになりそうだ。
【Specification】MERCEDES-BENZ E300 CABRIOLET SPORTS
○上質&スポーティの高度な融合
×40:20:40ではない後席分割可倒
■全長×全幅×全高=4845×1860×1430mm
■ホイールベース=2875mm
■車両重量=1870kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1991cc
■最高出力=258ps(190kW)/5800-6100rpm
■最大トルク=370Nm(37.7kg-m)/1800-4000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=(前)4リンク、(後)マルチリンク
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤサイズ=(前)245/40R19、(後)275/35R19
■車両本体価格(税込)=9,560,000円
【Specification】MERCEDES-BENZ E200 SPORTS
○メルセデスらしい上質感が際立つ
×良くも悪くもコンサバティブ
■全長×全幅×全高=4940×1850×1455mm
■ホイールベース=2940mm
■車両重量=1720kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1496cc
■最高出力=184ps(135kW)/5800-6100rpm
■最大トルク=280Nm(28.6kg-m)/3000-4000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション(F:R)=4リンク:マルチリンク
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤサイズ=(前)245/40R19、(後)275/35R19
■車両本体価格(税込)=7,690,000円
【Specification】MERCEDES-BENZ E200 STATIONWAGON SPORTS
○E200では物足りなくなる可能性
×以前に比べて減ったセダンとの差
■全長×全幅×全高=4955×1850×1465mm
■ホイールベース=2940mm
■車両重量=1830kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1496cc
■最高出力=184ps(135kW)/5800-6100rpm
■最大トルク=280Nm(28.6kg-m)/3000-4000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=(前)4リンク、(後)マルチリンク
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤサイズ=(前)245/40R19、(後)275/35R19
■車両本体価格(税込)=8,100,000円
【Specification】MERCEDES-BENZ E300 COUPE SPORTS
○スポーツカー並みのダイレクト感
×わずかだが犠牲になる上質感
■全長×全幅×全高=4845×1860×1430mm
■ホイールベース=2875mm
■車両重量=1800kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1991cc
■最高出力=258ps(190kW)/5800-6100rpm
■最大トルク=370Nm(37.7kg-m)/1800-4000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=(前)4リンク、(後)マルチリンク
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤサイズ=(前)245/40R19、(後)275/35R19
■車両本体価格(税込)=9,190,000円
お問い合わせ
メルセデス・ベンツ日本 0120-190-610