ルノー・スポールはずばり「遊びの天才」
かたや慎重派のジャーマンスポーツを横目に、これがラテンの血か! と笑ってしまうほど、アルピーヌは走りの愉しさを全面に押し出してくる。A110をこの世に送り出したルノー・スポールは、ずばり「遊びの天才」だ。
重厚感の塊と言える718ケイマンGT4から乗り変えたA110Sは、質感、走り、あらゆる意味でペラッペラな紙のようだった。
なにせ車重は、300kg以上も違う。だからパワーが292psしかなくても、ワインディングでライバルに見劣りする場面は“ほぼ”ない。ほぼというのは1.8L直列4気筒ターボに色気が全くないからだが、ベースモデルに対してこの「S」は最高出力も+40psの292psにまで高められており、最大トルクに至っては320Nmのピーク値が高回転まで続くようにチューンされているから、速さも刺激もなかなかのもの。なおかつ7速EDCのギア比と変速の速さで、きっちりエンジンを回しても、ショートシフトさせても運転を存分楽しめる。
極めつけは、なんと言ってもコーナリングパフォーマンスの高さだ。その足まわりはベースモデルよりも剛性レベルが引き上げられており、ただ素直にステアリングを切るだけでもA110Sは、驚くほどイージーにコーナーを曲がる。ケイマンが911とのパワーバランスから得られなかったダブルウィッシュボーンサスペンション。その横剛性と接地性の高さ、そして軽さを武器に、重心の高い横置きミッドシップとは思えぬ安定感で、どこからでも切れ込める。
しかしそこからさらに、きちんとフロントタイヤに荷重を乗せて、その重みをこぼさぬ様に横方向へ回し込んで行くと、先ほどとは比べものにならないほど気持ち良いリズムで、A110Sはその本領を発揮し出したのである。
どうしてこんな走りができたのかといえば、それはマルチファンクションに内蔵されるGセンサーモードのおかげだった。Gボールが織りなす前後左右の軌跡が、可能な限り丸くなるまで、何度もワインディングを往復する。そのうちにドライバーは、A110Sの走らせ方がつかめるようになるのだ。つまりはクルマが走らせ方を、教えてくれたのである。
こうした機能をお遊びと言うのはたやすいが、だとすればルノー・スポールは、本気で遊んでいるのだ。アマチュアドライバーに語りかける真剣さという点ではポルシェよりも、いやどんなスポーツカーメーカーよりもルノー・スポールはユーザーに向き合っている。
ただしその道を突き詰めるほどに、A110Sと718ケイマンGT4の自力の差は露わになると思う。もし筆者がクローズドコースで走りを追求するならば、機能性やセッティングに対するロバスト性を考え718ケイマンを選ぶだろう。なぜならそれこそが「GT4」というバッジが持つ本来の意味だからだ。対してA110Sの魅力は、今まさに我々の目の前で、解放されているのである。