トヨタ

多様なパワーユニット戦略で挑む!「トヨタが描く カーボンニュートラルへの道」

トヨタはブランドとしては初となる新型BEV「bZ4X 」を10月末に公表。これでHEV、PHEV、FCVなどの点と点が繋がり始め、同社が描くパワーユニット戦略が明確化されたと言えるだろう。ここでは、その「bZ4X」の詳解と、岡山国際サーキットでのスーパー耐久シリーズに出走した水素カローラのリポートから、トヨタが突き進むカーボンニュートラルの道を考察したい。

トヨタは様々な手段で脱炭素化を実現

目下、自動車業界にとって最大のテーマとなっているのが、パリ協定に基づく2050年カーボンニュートラルの実現であることは間違いない。トヨタ自動車ももちろん例外ではないが、そこには確固たるポリシーがある。巷で言われるBEV(バッテリー電気自動車)シフトだけが、そのための唯一の道ではないということだ。
世界をマーケットとする量販メーカーとしては、各国のクルマを取り巻く事情、そして電源構成などに応じた方法を考えなければならないのは当然である。さらに、トヨタが1997年にプリウスを発売した時から一貫して言い続けているように「エコカーは普及してこそ環境への貢献」になる。解決策をBEV化だけに求めるのではなく、実現可能でありまた効果的な様々な手段でカーボンニュートラルに向かっていこうというのが、トヨタのブレない考えなのだ。

bZ4X

トヨタはすでにHEV(ハイブリッド)、PHEV(プラグインハイブリッド)、そしてFCV(燃料電池自動車)にBEVという電動車フルラインナップを構成している。そしてこの2021年、新たな選択肢の可能性として大いに話題を呼んだのが水素エンジンを搭載するカローラ・スポーツでの富士24時間レース参戦だ。

カーボンニュートラル燃料を活用したレース参戦の真意

水素エンジンの一番のメリットは、グリーン水素の使用によりカーボンニュートラルを実現できること。しかも、これまでレースの現場で培われてきたエンジニア達の知識や経験をフルに活かすことができるし、内燃エンジンだけに魅力的なサウンドが残るのも大きい。将来のモータースポーツ用の燃料として、大きな可能性を秘めているのは間違いない。

ORC ROOKIE Corolla H2 concept

「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」は、GRヤリスのエンジンを水素燃料による発動へと改良を施し、カローラ・スポーツのボディに搭載したレーシングカーだ。

モータースポーツの現場では圧倒的な速さで技術開発が進むというのもレース参戦への動機となった。課題が明確でスピード感が求められ、競争相手が居て結果が数字として明確に示されるのがモータースポーツ。実際、富士24時間を完走した水素カローラは、その後のスーパー耐久シリーズに継続参戦し、燃費と速さに磨きをかけてきた。また、課題だった給水素時間も大幅に短縮されてきているのである。

過去3戦で水素の供給を受けた企業や自治体に加えて、福岡市との連携も加わり、太陽光、地熱、汚泥など5つの由来の水素がORC ROOKIE Corolla H2conceptに使用された。また、前回レースからの課題であった給水素時間も大幅な短縮に成功。

さらに、この参戦を通じて水素カローラに仲間が増えてきたこともトピックだ。水素を「つくる」「はこぶ」「つかう」の各領域で、どんどん新たな企業が名乗りを上げてきたのだ。結果、11月に岡山国際サーキットで行われた最終戦では太陽光、地熱、汚泥など5つの由来の水素で走り、その水素はバイオディーゼル、燃料電池のトラックで運ばれていたのだ。

ST-Qクラスに参戦したORC ROOKIE Corolla H2 conceptは、3戦目となる今レースで、当初の目標から大幅にタイムアップを果たし、レーシングカーとしての可能性をアピール。

その岡山での最終戦では、2022年以降に向けた意欲的な計画が明かされた。まさに仲間として集ってきた川崎重工、SUBARU、トヨタ、マツダ、ヤマハ発動機のトップによる会見が行われ、「カーボンニュートラル実現に向けて、内燃エンジン用の燃料の選択肢を増やす取り組みについて共同で挑戦していくこと」が発表されたのである。

スーパー耐久第3戦富士から、井口卓人氏、佐々木雅弘氏、モリゾウ氏、松井孝允氏、石浦宏明氏、小林可夢偉氏の6人のメンバーで参戦。

それを受けてにスーパー耐久シリーズでは2022年から、水素に加えてカーボンニュートラル燃料、バイオディーゼルを用いたマシンが各社から出場することとなった。まさに「モータースポーツを起点にしたもっといいクルマづくり」が自動車産業あげて推進されることになったわけだ。

緊急ピットインを行うシーンもあったが、水素エンジン関連ではなく、電装系に関するトラブルだった。また、参戦したST-Qクラスは、賞典外だったため表彰式は行われていなかったが、今回は参戦したドライバーが表彰台でトロフィを受け取るセレモニーも行われた。

さて、その岡山国際サーキットのイベントスペースには実はトヨタbZ4Xが展示されていた。そう、トヨタ最新のBEVである。

bZシリーズの展望とトヨタが描くBEV戦略に迫る!

トヨタは内燃エンジンに固執している、あるいはBEVを嫌っているなどと見る向きは今も多いが、実際にはトヨタはBEVが適する、ニーズのある市場に向けては躊躇なく商品を投入していくとかねてから公言してきた。bZ4Xはまさにそれを具現化したものだ。

象徴的なフロントグリルや上下に薄いバンパー形状が先進的なEVを表現。いわゆるクーペ調のSUVとは一線を画すスリークなスタイリングで、独自性にチャレンジしたデザインとなっている。

このbZ4X、さすがトヨタが投入するBEVだけあって、言ってみれば単なるBEVにはなっていない。特に強いこだわりがうかがえるのが、その高効率性である。
BEVの最大の問題である航続距離の短さを解決するために簡単なのはバッテリー容量を増やすことがだが、それはクルマを大きく重くし、価格上昇に繋がり、何より環境負荷が小さくならない。bZ4Xはバッテリー容量を71.4kWhに抑えながら、航続距離はFWDモデルで500km前後を実現している。しかも、BEVにとってこちらも非常に重要なバッテリーの耐久性の面でも、10年後の容量維持率90%を目指すとしているのだ。

ソーラーパネル装着車もラインナップされ、1年間で約1800kmの走行距離に相当する発電量を生成可能(トヨタ自動車試算値)。災害などの緊急時にも太陽光による充電が可能となる。

それはこれまでハイブリッド車で培ってきた技術の緻密な積み重ねの結果である。前面投影面積を抑え、空力性能に優れたデザインを施し、ブレーキの引きずりを減らし、バッテリー温度管理を徹底する。輻射式ヒーターの採用など、冬場の航続距離低下への対策も万全である。

e-TNGAの考え方に基づきスバルと共に開発した新しいEV専用プラットフォーム。全方位衝突に対応するボディ構造や衝突時の保護性能確保に寄与する電池パックを採用する。

多くの人が買い求めやすく、実際に使って不自由を感じることがないBEV。bZ4Xには、紛う方なきトヨタらしいクルマづくりの精神が貫かれている。トヨタは2025年までに世界に、このbZシリーズ7車種を含む全15車種のBEVを導入していくとしている。これは期待していいだろう。

専用プラットフォームによりDセグメント並みの前後シート間を確保(約1000㎜)。サスティナブルなファブリック張りのインストルメントパネルなどが落ち着いた室内空間を演出する

冒頭に書いた通り、BEVだけに固執した早急な電動化は結局は誰のためにもならない。技術はこの先、何が優勢になるか分からないということを考慮しても、可能性のある分野は愚直に開発を進めていく
というのが責任ある自動車メーカーとしてのあるべき姿勢だろう。

メーター類はステアリングホイール上部を通して見るトップマウントメーターを採用。中国投入モデルはステアバイワイヤシステムと異形ステアリングホイールを組み合わせた「ワンモーショングリップ」が採用され、順次各国でも搭載モデルを投入する予定だ。

その中には水素はじめ新しい燃料を用いた内燃エンジンも、一方でもちろんBEVも同じように位置づけられる。あらゆるソリューションを駆使ししてブレないやり方で、カーボンニュートラルへの道を邁進していく。これからもトヨタの大胆な動きからは目を離すことはできなそうだ。

問い合わせ先=トヨタ自動車0800-700-7700 http://www.toyota.co.jp/

フォト= 田村 弥/W.Yamura、宮越孝政/T.Miyakoshi ルボラン2022年2月号より転載

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