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前代未聞のMRオープン4シーター!! 速さや快適性なんてなんのその!! バモスホンダは常識にとらわれない痛快な軽トラックだった

世の中のムードとか人の目を気にしすぎると、人生は窮屈になる。世間の常識を取り払い、本当に自分とって楽しく思えることは、と考えてみると、意外なほど、世間には大きな可能性が広がっていることに気が付くかもしれない。例えば自動車税が最も安い軽商用車にだって、実は楽しみが溢れている。ミッドシップレイアウトのオープンカーと聞けばホンダ・ビートだが、同じホンダにはさらに痛快な同レイアウトの軽トラックがあった。奇抜なスタイルに怯まず、バモスに乗って凝り固まった頭を解放しよう。

前代未聞のMRオープン4シーター

バモスホンダが発売された1970年は、ホンダが自動車メーカーに進出してからまだ7年目。N360の大ヒットにより躍進したばかりで、この時代のホンダには他社にない勢いが溢れていた。その後N360は、エンジン出力を抑えた穏やかな特性のNⅢへ発展。これに合わせてTN360もTNⅢへ進化。これが1970 年1月のことで、同年10月にはそのTNⅢをベースにしたバモスホンダが発売されるのである。

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TNⅢは軽トラック最大の荷台を生み出すべく、サブフレームこそあるものの荷台フロアを主要骨格とするミッドシップ構造を採用していた。そのフロアを使え回せば、自由にボディをデザインできたともいえる。だからと言ってドアさえないバギーのようなスタイルのトラックを作ろうなど、普通のメーカーにできることではない。この時代のホンダはメーカーとしてだけでなく、開発者たちも若かったということだろう。

バモスホンダが発表された当時の資料では警備用、建設現場用、工場内運搬用、電気工事用、農山林管理用、牧場用、その他移動をともなう屋外作業、配達など機動性を必要とする仕事にピッタリな設計としている。確かにガードパイプがあるだけだから、室内へジャンプして乗り込むことも降りることもできるし、荷台はちょっとしたトラックと変わらぬ容量がある。前述した仕事なら良きパートナーになりそうだが、肝心の当事者たちにそう思ってもらえなかった。バモスホンダの生産計画は月産2000台(輸出を含む)としていた。ところが販売は低迷して1973年の生産中止までに生産されたのは、わずかに2500台にすぎなかった。

バモスホンダには3タイプのバリエーションがある。最もベーシックなバモス2は2シーターで、フロントシートまで覆うホロが備わる。今回紹介するのはバモス4でリアシートを備え、その後ろまでホロがある。さらにバモス4のホロを荷台後端まで伸ばしたのがバモスフルホロ。近年最も目にする機会が多いのはバモス4で、おそらく新車登録が最も多かったのだろう。

バモスホンダは途中、TNⅢがマイナーチェンジにより1972年にTN-Ⅴへ移行したことでベースモデルを変更している。初期のTNⅢベース時代はエンジン出力が30psだったが、後期TN-Ⅴベースだと27psにパワーダウン。逆に低速トルクは強くなっているのだが、ホンダらしさという点では初期モデルに分があるだろう。そして今回取材したのは、この初期モデル。オーナー氏は手に入れた当時、ホンダから供給されていた部品をフルに使ってレストアを施し、新車時の性能を今も保った状態にあると言える。

N360やTNなどの空冷2気筒SOHCエンジンにはセルスターターがない。発電機であるダイナモを回すことで直接クランクを回してしまうセルダイナモがスターター代わりなのだ。だからキーを回しても一般的な音が聞こえず、静かにシュルシュルとダイナモが回る音しか発しない。エンジンが始動してしまえば誰でも気がつくが、慣れていないとセルが回らないと驚くことになる。

N360と共通と書いたが、実際にはTNへ搭載される際にシリンダーが水平に寝かせた強制空冷2気筒エンジンは、やはりN360にも似た特性。またトランスミッションはバイクでお馴染みのドグミッションなので繋がりが良い反面、1速や後退にシフトすると若干音を発する。これにさえ慣れれば、バモスホンダの運転に必要なコツなどない。ごく普通に加速して、ドラムの割にブレーキは強力だから普通に止まることができる。

それよりも、この楽しさを何と表現すればいいだろう。すべてが剥き出しの車内で、360度クランクにより等間隔爆発する独特のエンジン音を聞いていると、ただ運転しているだけなのにワクワクしてくるのだ。空冷2気筒SOHCエンジンは左右のピストンが同時に上下し、片側ずつ交互に点火する。筆者が過去にN360を所有していたからかもしれないが、このエンジンは本当に面白い。

ホンダのエンジンは高回転ばかりで低速トルクが細い印象もあるが、バモスホンダはTNⅢと同じローギアードが採用されているから、意外に低速で粘る。今回のように砂地で走る場合、アクセルを踏み込むとすぐに砂を掻いてしまう。そこでアクセルを踏まずクラッチ操作だけで進んでみると、エンジンは止まりそうになりながらもスルスルと車体が動いてくれる。高回転まで回しても車速はさほど伸びないのだが、速さや快適性なんてものを求めてはいけない。オープンカーが潔さを象徴するものであるのなら、まさにバモスホンダこそオープンカーらしいクルマではないだろうか。取材を終え、本気で欲しくなってしまった。

ホンダ公式サイト

TEXT:増田 満 PHOTO:内藤敬仁 取材協力:新作光弘 カー・マガジン504号より転載
CAR MAGAZINE編集部

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