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海外でも評価の高いエスロクだからこそ左ハンドルで再現!タミヤ製プラモ「ホンダS800」を改造【モデルカーズ】

ホンダ初の普通乗用車S500の排気量拡大版

ホンダのSシリーズは、同社が手掛けた初めての四輪乗用車である。終戦の翌年に設立された本田技研(当初は本田技術研究所)は、二輪車メーカーとしてその技術力を世界的にも知らしめた後、1963年に満を持して四輪市場へと進出を果たしたのだが、この四輪車第一作であるT360(1963年8月発売)は、乗用車ではなくトラックだった。

【画像67枚】フランスで乗られている車両をイメージしたエスロクと、その工程を見る!

T360の試作車初公開は前年6月、鈴鹿サーキットで開催された全国ホンダ会で行われたのだが、このとき一緒にお披露目されたのが、軽スポーツカーの試作車・スポーツ360である。スポーツ360(S360とも言われる)は、T360と同じエンジンに4連キャブレターを装着して搭載、後輪をチェーンで駆動するスポーツカーだった。そして同年・1962年の東京モーターショーにも出展されたのだが、このとき併せて発表されたのが、スポーツ360の排気量を拡大したスポーツ500である。

この2車の見た目上での最も大きな違いは、スポーツ360は軽規格に収めるためリアを短く切り落とした形だったのに対し、普通乗用車であるスポーツ500は自然な長さのリアオーバーハングを持っていたことである。スポーツ360はT360と異なり市販には至らなかったが、500ccモデルはS500の名で翌1963年10月に発売された。搭載されたエンジンは水冷・直列4気筒のDOHC、排気量531ccから最高出力44psを絞り出す(プロトタイプでは492cc/40ps)。

駆動形式はFRだが、前述の通りチェーン式という一風変わったものだった。デフは通常より前寄りに位置し、ドライブシャフト先端にギアが取り付けられ、ここから後方にのびたチェーンによって後輪を回転させるのである。S500は当時使われた言い回し通り、「時計のように精密な」超小型スポーツカーであった。翌年には排気量をアップしてS600へと発展、このためS500の生産数はかなり少ないと言われている。

1964年3月に発売されたS600では、フロントグリルが大型化されて下に伸び、その分バンパー中央も下に逃がされてU字型となっている。排気量は606cc、最高出力は57psとなり、最高速度は145km/hに達した。このS600からはクーペが追加された(1965年)ほか、海外への輸出も開始され、世界的にも好評を博したのである。さらに1966年にはS800へと進化、1970年まで生産された。特徴的なチェーンドライブはS800の初期に一般的なシャフトドライブへと改められている。

左ハンドル化だけでなくS600化もひと足先に実現!
S600およびS800の1/24スケール・プラモデルには、フジミとタミヤがある。フジミ製キットは元々は日東による金型のもの(S800M)だが、フジミが金型を引き取って後に、細部パーツの追加によりS500/S600/S800の選択式とされている。一方のタミヤは、初めにS800をレース仕様とノーマルの2種類でリリースしたのち、ディテールパーツを変更してS600も発売している。

ここでお目にかけている作品は、タミヤ製キットを用いて輸出仕様・左ハンドルのS600としたものである。ヨーロッパでも高く評価されたS600/S800だけに、こんな改造もまた有意義であろう。ただし、この作品を制作した時点ではS600はまだタミヤからはキット化されていなかったため、S800を改造してS600としている。キットがあれば不要な改造ではあるが、そこで行われた作業には、他のキットを改造しようというときにも参考になる部分があるので、工程写真もそのまま公開することとした。作業内容については写真のキャプションをよくお読みいただきたい。最後に、作者・渡辺氏のコメントをお読みいただこう。

「1964年にS500から排気量UPして発表されたS600。小型で軽量な車体に精緻なエンジンを搭載した生粋の国産スポーツカーは、当時まだ子供だった作者には手の届かぬ憧れの対象でした。近年、知人の所有するS800のレストアを少しだけ手伝う機会があり、一人で持てるシャシーの軽さに驚いた記憶があります。完成したS800の乾いた排気音には心底シビレました。

今回はタミヤのS800をS600の欧州仕様に仕立てました。S600への主な改造点は次のとおり。①フロントグリルを格子タイプに、②グリル上のオーナメントをボンネットへ移動し、③ボンネットのバルジを撤去、④エンジンルーム内補器類の配置を移動し、⑤ダッシュボードを左ハンドル仕様に、⑥テールレンズを丸型に変更、の6項目です。この6点のほか、当キットはストレートに組み立てると随分と腰高に仕上がりますので、車高の調整も必要になります。

ヨーロッパではオリジナルにこだわらずにリペイントされた個体が少なくないようなので、ボディ色はダークシーグレーを選びました。英国海軍機に使用される色ですが、ツヤが加わると落ち着いたシックな色合いとなります。適正な希釈率で適正量を吹くと、柚子肌も出ずに、平滑な塗膜が得られます。フェンダー裏等の塗り残しが発生しやすい所から塗り始め、全体を塗り終えたらさらにもう一度塗り重ねて、ある程度の膜厚を稼いでおきます。

非常に曖昧な説明ですが、数値に置き換えることは難しいのです。塗装時にテストピースを用意しておき、その都度試し吹きをしてみると、ちょうどいい加減がつかめるでしょう」

作例制作=渡辺 剛/フォト=羽田 洋 modelcars vol.214より再構成のうえ転載

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