ここで集まったEセグメントの俊足たちは、ボディ形状が異なっている。そんな、用途も仕立て方もまるっきり異なる独プレミアムの個性派たちを、レーシングドライバーでありモータージャーナリストの木下隆之氏がワインディングで駆り、自身のドライビング経験と現場での試乗インプレッションを織り交ぜて語った! 前編のBMW M5コンペティションに続いて、今回はメルセデスAMG GT53とアウディS6アバントの登場だ。
性格は違えど紳士的なGT53とS6
M5がドライバーのドライビグスキルを嘲笑うかのような、あるいはドライバーに突きつけた挑戦状のような緊張感を伴うのに対して、AMG GTは、どこか紳士的に振る舞う。試乗車のGT53は、GT43と比較してパワーが増強されている。直列6気筒3L+ISG+電動スーパーチャージャーは最高出力435psを誇る。だから速い。十分に速い。M5ほどではないものの、0→100km/h加速は4.5秒と公表されている。
それは、スターターを兼務するISGに加え、電動スーパーチャージャーが内燃機関のウィークポイントを補うからだ。エンジン回転が高まるまでの間を埋めてくれる。だから発進の瞬間からパワフルなのである。
そして、駆動方式は4MATIC+。サスペンションはライドコントロール+エアサスペンション。トランスミッションは8速ATを組み合わせる。前後の駆動配分は最大0〜100まで変わり、足回りは路面の突起を巧みにいなしながら、いざコーナリングが開始されると硬く締め上げられる。減速ではバリンバリンとバックファイア音を響かせながら駆け回る。過激な動力性能であることに疑いはないが、どこかにドライバーに寛容な優しさが含まれるのが特徴だ。それは紳士的であり、まだ余裕すらも感じさせる。
【写真11枚】上質さとスポーティさを備える仕立てメルセデスAMG GT53 & アウディS6アバントの詳細を写真で見る
その点、今回持ち込んだアウディS6アバントは、はっきりと落ち着きを感じる。S6の上位モデルに位置して、V型8気筒エンジンが800Nmを発揮するRS6アバントであれば事態はもう少し緊張をはらむかもしれないが、V型6気筒2.9Lと8速ティプトロニックとの組み合わせにはホッとさせられるのだ。
とはいえ、エンジンサウンドは過激であり、バリバリと壁を破るように勇ましい。変速は感動するほどハイレスポンスだから、パドルを叩くたびにサウンドが同調する。ワインディングを走らせているうちに、背後に広大な荷室を背負ったアバントであることを忘れてしまう。たびたびバックミラーで荷室の存在を確認する必要があるほどだ。というほどに、走りの性能は際立っている。
最大トルクは600Nmに達し、ハイパフォーマンスモデルと同等の数値を叩き出す。
上りなのか下りなのか、勾配など無関心に激しく加速を試みた。だが、過激さは皆無だった。ハードコーナリングに挑んでも見苦しいロール姿勢に陥ることはなく、路面からの突き上げも優しくいなしてくれる。GT53とはまた違った意味で紳士的な性格なのだ。これならば家族を連れ立ってロングドライブに出かけた時、不用意にアクセルを踏み込み、ステアリングを切り込んでも不満を口にされないギリギリの良心が備わっているだろう。
つまりそれは、世界最速のコンフォートツーリングワゴンと言えるのかもしれない。
【SPECIFICATION】メルセデスAMG GT53 4MATIC+
■全長×全幅×全高=5050×1955×1440mm
■ホイールベース=2950mm
■車両重量=2080kg
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ターボ/2996cc
■最高出力=435ps(320kW)/6100rpm
■最大トルク=520Nm(53.0kg-m)/1800-5800rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション(F:R)=4リンク:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=265/40R20:295/35R20
■車両本体価格(税込)=19,150,000円
【SPECIFICATION】アウディS6アバント
■全長×全幅×全高=4955×1885×1455mm
■ホイールベース=2925mm
■車両重量=2000kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ターボ/2893cc
■最高出力=450ps(331kw)/5700-6700rpm
■最大トルク=600Nm(61.2kg-m)/1900-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウィッシュボーン:Wウィッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/40R20:255/40R20
■車両本体価格(税込)=14,080,000円
この記事を書いた人
1982年に全日本学生自動車王者に輝いた。出版社で編集部所属、独立してレーシングドライバーとして活動を開始してから40年となる。日産、ホンダ、三菱、トヨタとレーシングドライバー契約。レーシングカーはもちろんのこと、スカイラインGT-R、ホンダ・レジェンド、三菱ランサーエボリューション、レクサスLFAなどの開発に従事。国内外のトップカテゴリーで数多くのチャンピオンを獲得。スーパー耐久シリーズでは最多勝記録を更新中。ニュルブルクリンク日本人最多出場、日本人最高位記録保持。GTアジア選手権2連覇等、海外に活動の場を広げて活躍中。2023年からはトーヨータイヤと「プロクセスアンバサター」契約し、Team TOYOTIRESのドライバーとしてニュルブルクリンクに参戦を開始している。一方で、執筆活動も旺盛で、11本のコラムを連載中。「豊田章男の人間力」「ジェイズや奴ら」等を上梓。トヨタガズーレーシングアドバイザー、レクサスブランドアドバイザー、BMWスタディ・スポーティングディレクターを経験。数々の企業案件に参画してきた。サントメ・プリンシペ民主共和国・補佐官/トウキョウファーム経営戦略アドバイザー/日本カーオブザイヤー選考委員/日本ボートオブザイヤー選考委員/日本自動車ジャーナリスト協会会員/株式会社木下隆之事務所・代表