LET'S PLAY VWs

キャルルックシーンに多大な影響を与えた伝説のマシンがリニューアル! ドラッグストリップに帰ってきた。【LET’S PLAY VWs】

オリジナルの”Inch Pincher”は1960年代まで遡り、現存しているかは不確か。「FLAT4」は1996年にリバイバル、膨大な資料を元にリニューアル。

1960年代、アメリカの「EMPI」社により「Inch Pincher Too!」は、1970年の米カリフォルニア州・ポモナで開催される「ウィンターナショナル」に出場させるために製作された。いきなりデビューしたこのマシンは、NHRA I/Gassクラスのレコード を更新、12秒09をマークして衝撃を与えた。

VWが速いことを証明し、全米で繰り広げられたプロモーションのためツアーに駆け巡り、一大フォルクスワーゲンブームが巻き起こった。その盛り上がりは、1968年から1983年まで「O.C.I.R (Orange County International RaceWay)」で開催された伝説のイベント「BUG-IN」開催へと繋がる。

【写真21枚】当時のオリジナルスタイルの姿に戻った「Inch Pincher Too!」 

1979年4月にO.C.I.R.で開催された「BUG IN-22」に、日本人が走らせるチョップトップの「タイプ1」があった。ルーフは4インチチョップトップされていて、ドアには「FLAT4」のロゴが入っていた。FLAT4が持ち込んだこのマシンの足元には、ブルーアルマイトのホイールを装着。日本のVWショップからのエントリーとして話題になったという。

実はこのクルマこそ、今回撮影したInch Pincher Too!のベースである。その後、BUG-INを走行したマシンは日本に持ち帰られ、ボディをホワイトにリペイント。1982年8月富士スピードウェイで開催された「VWファミリーデイ」では、VWフリークたちの前で雄姿を披露している。そののち、レースのレギュレーションとの関係から徐々に表舞台から姿を消すこととなる。

BUG-INを走ったヒストリー
1991年にFLAT4 BRMホイールの登場により世界中の空冷VWカスタムシーンにノス タルジックなカリフォルニアルックブームが起こる。1996年、BRMをはじめとするFLAT4オリジナルプロダクトのプロモーションのため、Inch Pincher Too!がリバイバルされることとなる。

80~90年代初頭、世界のVWシーンはカスタムが中心。ドラッグレースにおいても最新のパフォーマンスにしか注目が集まっておらず、1970年代のレースカーになど世界中の誰もが価値を見出していない時代だった。いまでこそ昔のレースカーをリバイバルさせることは当たり前になってきたが、FLAT4が復刻の先駆けとなっていったのだった。

このInch Pincher Too!は2008年に開催された「BUG-IN 33」、2009年の「EUROPEAN BUG IN」、ノルウェーで開催された「SCC」にも参加。EUROPEAN BUG-INでは「D.D.S.」とInchPincherのトリビュートマシンである「Dyno Pincher」と並んで、会場を大いに沸かせている。ドライバーを務めたのは現・藤田社長だ。

そして2021年、「BRM」発売30周年をきっかけにInch Pincher Too!のリニューアル計画が、藤田社長の号令のもとスタートする。1996年に作った当時の妥協点(オリジナルを再現出来ていない部分)であった、オーバルウインドーからスクエアウインドーへの変更やペイントのやり直しなど、こだわりを実現させている。

Mollyペイントが再現された美しい姿
ペイントを担当した「DMC」遠藤さんいわく、さまざまな角度、光の当たり方による色の変化を各方面から入手した画像データをもとに再現している。エンジンはニューケースで組み直し、当時のルックスに忠実にパーツの構成、ホースの取り回しなど変更している。当時のパーツが手に入るものもあるが、60年も経過していることも考慮しなくてはいけなかったという。

そして当時のオリジナルスタイルの姿に戻ったInch Pincher Too!は、2022年6月に開催された「VW Drag In 15」で、カリフォルニアのような青空の下、エンジンサウンドを轟かせてスタートラインについた。その姿は当時の「NHRA」のI/Gクラスを彷彿とさせるもので、このレースカーがドラッグストリップに戻ってきたことを、世界のレースファンの脳裏に焼き付けることとなった。

今回のリニューアルでは多くのワンオフパーツが使用されているが、BRMホイールやGTウッドステアリングなどはFLAT4オリジナルが気軽に手に入る。Inch Pincher Too!と同じパーツで愛車をカスタムし、当時の雰囲気を楽しむのもおすすめだ。

◆Specifiction
 BODY:4”CHOPPED ROOF&FIBER GLASS
 INTERIOR:Inch Pincher STYLE BUCKET SEAT&ALUMINUM DOOR PANEL
 DISPLACEMENT:1,995cc
 BORE×STROKE:88mm×82mm
 COMPRESSION RATIO:9.0:1
 CARBURETOR:WEBER48IDA DUAL w/EMPI LINKAGE
 WHEEL:FLAT4 BRM
 TIRE:FRONT MICHELIN 135SR15ZX/REAR M&H 6.00×26-15
 STAREEING WHEEL:FLAT4 GT WOOD15“
 SHIFTER:Inch Pincher STYLE
 OTHER SPECS:Inch Pincher STYLE ROLL CAGE
 SUN/AUTOMETER SIDE SWEEP TACHOMETER
 HURST LINE LOCK
 MAGNETO IGNITION
 SANTANA CRANKSHAFT PULLEY

『LET’S PLAY VWs Vol.61』掲載

Photo/Masatake-ISHIKO (石河正武) Text/Jun-ISHIHARA (石原 淳)
LE VOLANT web編集部

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