旗艦モデルであるEQSがデビューして以降、メルセデスのBEV専用プラットフォームであるEVA2を使用したファミリーの拡充は思いのほか早かった。その4台目が今回試乗したEQE SUVである。筆者はこれを「メルセデスの真ん中」と表現する。その理由とは?
今の日本におけるメルセデスのベストな1台
矢継ぎ早に拡充してゆくメルセデス・ベンツのBEVにあって、日本におけるベストな1台はどれか? 今回の試乗を終えた今、サイズ的にも、性能的にもEQE SUVがそれなのだと確信している。
EQE SUVはメルセデスのBEV専用プラットフォーム、EVA2を採用した4台目のモデル。メルセデスのBEVでEQE SUVと比較検討したくなるのは、ひと回り小型のEQCではないだろうか。
EQCは内燃機モデルのGLCとプラットフォームを共用している。また床下に搭載されたリチウムイオンバッテリーの容量は80kWhで一充電走行距離は400kmに留まる。だが今回のEQE350 4MATIC SUVは89kWhのバッテリーにより528km走ることができる。我が国におけるBEVの不安材料が充電インフラにあるのだとすれば、より長い距離を走れることは正義といえる。
前傾したダッシュパネルが開放感のあるコックピット空間を演出。
メルセデスEQシリーズに共通するのは「見た目と走りの雰囲気に整合性がある」という点だと思う。例えば鋭いスタイリングの赤いスポーツカーが飛び切りの快音を奏でて走るように、メルセデスEQは見た目とドライブフィールが非常に滑らかで丸みを帯びた質感でまとめられている。もちろんそれは、今回のEQE SUVでも例外ではなかったのである。
たっぷりとしたサイズだが上体をしっかり支えてくれるフロントシート。明るい表皮の色で室内がより広く見える。
走りはじめてすぐ、フロント96ps、リア196ps、総計292psといった表面的なスペック比較があまり役立たないことを悟った。EQE SUVのパワートレインの特徴は、BEVにありがちな右肩上がりのパワー感ではなく、いつのまにかスピードが乗っているような滑らかさ、連続性にある。
一方、乗り心地も含めたドライブフィールはフワッと浮遊しているような柔らかさで全体が覆われている。今回試乗したEQE SUVはローンチエディションであり、標準でエアーマティックサスペンションが備わっていることも、走りの質感に効いているはずだ。
ホイールベースはセダンのEQEより若干短いがリアシートの足元スペースは十分。一体感のあるスタイリングで腰高感は希薄だ。
しばらくドライブしていると、EQE SUVはいい意味で存在感を忘れさせてくれるクルマなのだと思った。セダンタイプのEQEよりもホイールベースが9センチも短く、またローンチエディションの標準装備としてリアアクスステアリングが付いているため、街中を走らせたとき、想像以上の小回りが可能なのである。
リアアクスルステアリングは最大10度まで切ることができ、驚くほどの小回りを実現する。
リアアクスルステアリングはバック駐車の際は切れすぎるので慣れが必要だが、前進している限りはボディサイズが苦にならない、とてもコンパクトなクルマに乗っているような錯覚にとらわれる。これは都市部のオーナーにとって確実にメリットとなるはずだ。
サイズ感を気にすることなくドライブできて、しかしシートスペースや荷室は必要にして十分な広さが確保されている。今回そんなEQE SUVをドライブしていて、かつて一世を風靡したミディアムクラス、W124に似ているなと思った。124の時代はセダンと内燃機が全盛だった。だがこれからのトレンドはSUVとBEVに代わっていくに違いない。
ダッシュ中央の12.8インチ有機ELディスプレイは鮮明な印象。タッチ操作の感触も自然だ。
まだBEVのマーケットが成熟していない日本では「EQE SUVがメルセデスのど真ん中」と言われてもピンと来ないかもしれないが、世界的な傾向を鑑みれば間違いないだろう。確かな1台を探しているのであれば「メルセデスの真ん中」を外す手はない。
【SPECIFICATION】MERCEDES-BENZ EQE 350 4MATIC SUV LAUNCH EDITION
■車両本体価格(税込)=13,697,000円
■全長×全幅×全高=4880×2030×1670mm
■ホイールベース=3030mm
■車両重量=2630kg
■総電力量=89kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=528km
■モーター最高出力=292ps(215kW)
■モーター最大トルク=765Nm(78.0kg-m)
■サスペンション=前:4リンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:265/40R21
問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL0120-190-610
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