












感性を研ぎ澄まし、理性で制す!
マセラティの市販モデルの中で、最もレーシングカーに近い存在。レースの血を引きながらも、ストリートでの快適性やマセラティらしい美意識を持つ。そんな「GT2ストラダーレ」に試乗してみた。その魅力は、公道/サーキットの両方をこなせる二刀流ではなく、ドライバーを深く満たしてくれる包容力にこそあるのかもしれない。
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CORSAモードは4段階設定される
スペイン・マラガ郊外。山々に囲まれた孤高のサーキット、アスカリ・レース・リゾート。ここはサーキットでありながら、エスケープゾーンが少なく、ブラインドコーナーも連続する一筋縄ではいかないコースだ。初めて走る者には畏敬の念すら抱かせる。そのようなステージで、マセラティの最新作、GT2ストラダーレのステアリングを握る機会に恵まれた。
助手席にプロドライバーを乗せ、まずはデモランに同乗する。タイトな切り返し、容赦のない上り下り、そして突如現れるブラインドコーナー。短い時間ながら、このコースが簡単には手懐けられないことを痛感させられる。「運転に集中したいから、コーナーやエイペックスポイントをサポートしてほしい」――。そのひと言が自然と口を衝いて出たのは、緊張から逃れるための小さな防御反応だったのかもしれない。
そして、プロドライバーと入れ替わり、GT2ストラダーレのテストドライブに臨むこととなった。最初に選択したのは「SPORT」モード。「MC20」と同じくV6ネットゥーノ・エンジンを搭載しながら、GT2ストラダーレではターボチャージャーや排気系がアップグレードされ、最高出力640㎰/最大トルク720Nmを叩き出す。アクセルペダルに足を添えれば、タービンのプレッシャーと燃焼室からの鼓動が右足とシートを通して伝わってくる。街乗り仕様のスポーツカーでは感じ得ない、まさに実戦仕様の緊張感が鼓動を高鳴らせる。
まず、特筆すべきは空力性能だ。ダウンフォースは前後で合計500kgに達し、特に130kgを発生するフロントは、フード上のSダクトと巨大なリアウィング、アンダーボディの整流によって構築。まさに、高度な空力デザインの恩恵と言える。S字コーナーをぬけるとき、クルマが地面に吸い付くような感覚と、それでもなおステアリングに残るしなやかさには、ただ感嘆するばかりだった。
次なるステップとして、「CORSA」モードへ切り替える。サスペンションは格段に引き締まり、パワートレインの応答性も研ぎ澄まされる。だが、最大の驚きはシフトフィールだった。カーボン製パドルを指で弾くたび、ドライブシャフトを直接蹴るような「ガコン!」という衝撃が背中を貫く。この痛快さは、まさしくGT2レーサーの血統を思い起こさせる。
ちなみに、GT2由来の電子制御ディファレンシャルやABSのキャリブレーションは、CORSAモードでも4段階に切り替え可能で、「CORSA1」ではアシストはほぼ皆無のピュアなドライビングが味わえる。今回の走行では「CORSA3」でセットされていたが、それでも強烈なリアからの蹴り出しと、緻密な荷重コントロールが求められる緊張感は、レーシングカーそのものであった。あらゆる挙動がストレートに伝わってくるからこそ気を抜けなく、だからこそ面白い。ドライバーとしての感性が問われ、そして研ぎ澄まされていく。手に汗握りながらも、スポーツ走行がこんなにも楽しいことかと思い知らされた。
一方、GT2ストラダーレの持ち味は、単なるスペックの高さではなく、感覚との同期とも言える。ミシュラン製セミスリックが路面と交わす対話、カーボンセラミックのブレーキが描く制動Gの線、そして軽量化された車体とシャープなステアリングが描く旋回のアーク。これらすべては、ドライバーの意志が余すことなくマシンへと伝わった結果なのだ。実際、100km/hからのフルブレーキングでは、停止距離わずか29m。MC20比で4mの短縮が図られており、冷却性能を含めた総合的な進化が見て取れる。エンジンの熱管理、ブレーキ温度の制御、それらすべてが連続ホットラップを前提に設計されているのだ。
インテリアから伝わるレースと日常の融合
車内に目を向けると、アルカンターラとカーボンが織りなす無駄のない空間が広がる。Sabelt製のシートは、ただ軽量なだけでなく、身体を完璧にホールドする。20kgの軽量化を達成しながらも、電動による上下調整機能(前後は手動)は維持されており、レーシング仕様の中にも日常性やマセラティらしい美意識が織り込まれている。ただの無機質な機能空間に終始することなく、ストラダーレ(公道)の名の由来を見出すことができる。また、視界の先にはステアリングに組み込まれたシフトライトがコーナーごとに点灯し、集中力を高めてくれる。黄色いアクセントカラーはモデナの象徴でありながら、視認性という機能美にも貢献。ドライバーの操作をサポートする仕掛けが、細部にまで宿っている。
0-100km/h加速は2.8秒と、現時点では、市販マセラティ最速の加速性能を誇る。だがこのクルマの真価は、単なるタイムではなく、ドライバーの感性と直結した「運転する歓び」にある。これは数字では測れないものだ。
生産はわずか914台。その意味は、マセラティ創業年の1914年にちなむ。つまりこのクルマは、単なるスペシャルモデルではない。マセラティの原点を現代に引き継ぐ、象徴的な存在なのだ。
試乗を終えたあとも、シートに残る体圧や湿った手の中に感じるシフトショック、そして耳に残るネットゥーノのサウンドが、いつまでも脳裏に残って離れなかった。GT2ストラダーレの真価は「運転する歓び」と記したが、「運転する歓びに全身を預けられる歓び」と表現する方が正しいのかもしれない。そうすれば、この高揚感をもっと理解してもらえるだろうか? そう、マセラティGT2ストラダーレは、感性と理性の間で、誰よりもドライバーを深く満たしてくれる1台なのである。
【Specification】マセラティGT2ストラダーレ
■車両本体価格(税込)=43,940,000円
■全長/全幅/全高=4669/1965/1222mm
■ホイールベース=2700mm
■トレッド(前/後)=1681/1649mm
■車両重量=1365kg
■エンジン形式/種類=-/V型6気筒DOHC 24V+ツインターボ
■内径/行径=88.0/82.0mm
■圧縮比=11.1
■総排気量=3000cc
■最高出力=640ps(470.6kW)/7500rpm
■最大トルク=720Nm(73.4kg-m)/3000-5500rpm
■燃料タンク容量=60L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=-km/L
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前後:Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:245/35 R20、後:305/30 R20
問い合わせ先=マセラティジャパン 0120-965-120
※「ル・ボラン」2025年6月号より転載