
















ミドルクラスのベンチマーク、3シリーズの歴史を振り返る
BMW「3シリーズ」は1975年の登場以来、半世紀にわたりミドルサイズクラスの絶対的な指標として君臨してきた。その歴史は、単なる1台の自動車の変遷に留まらず、スポーツセダンの概念を確立しプレミアムセグメントを牽引してきた。その3シリーズの輝かしい成功の物語を振り返る。第2回目となる今回は、すべての始まりと言える初代(E21型)3シリーズにスポット当てて紹介する。
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自動車史に新たな地平を拓いた初代BMW 3シリーズ
1975年、BMWが3シリーズを発表したことは、単なる新型車の登場に留まらず、自動車の歴史そのものに全く新しい章を刻む出来事であった。この2ドアセダンは、3年前に発表されていたBMW 5シリーズとの血統を感じさせる独特の特徴を備えつつも、市場に姿を現したそのコンパクトでスポーティなモデルは新しい存在感を放っていたのである。
3シリーズのコンセプトは当初から明確であり、それはパワフルなエンジンと完璧なハンドリング、そして従来は高級車クラスでのみ享受可能であった包括的な安全性能を求める、極めて目の肥えたドライバー層を対象としていた。
その期待は極めて高かった。なぜなら3シリーズは国際的な成功を収めた伝説的なBMW「02」シリーズの後継としての重責を担っていたからである。BMW 3シリーズに課せられた使命は、先代が持つスポーティで俊敏なキャラクターを継承しつつ、デザイン、快適性、室内空間、そして安全性といった分野において、新たな品質基準を打ち立てるという挑戦であった。
エクステリアデザインは、チーフデザイナーのポール・ブラックがBMW 5シリーズで確立した新しいデザインアプローチを踏襲し、何よりもその明確なラインによって際立っていた。フロントエンドは、BMWの象徴であるキドニーグリルと円形のヘッドランプが支配的な印象を与える。
このヘッドランプは、2Lエンジンを搭載するトップモデルにおいて、ツインヘッドライト形式として採用され、その高性能を視覚的にも強くアピールした。その他の特徴的なデザイン要素としては、後端に「ホフマイスターキンク」と呼ばれる独特のウィンドウグラフィックを持つクーペのようなサイドビューや、ボンネット中央に盛り込まれた「パワードーム」の輪郭などが挙げられる。
これらの新しいプロポーションにより、BMW 3シリーズは一見すると先代の02シリーズよりも大幅に大きく見えたが、実際の寸法は全長4355mm、全幅1610mm、全高1380mmであり、各寸法でわずか数cm拡大したに過ぎなかった。
しかし、フロント1364mm、リア1377mmというワイドなトレッド幅が、この新たなコンパクトセダンに力強く、安定したスタンスを与えていたのである。インテリアに目を向ければ、そこには後年のBMWモデルの象徴となる革新的なデザインが初めて採用されていた。ダッシュボード中央の操作系をドライバー側へと明確に傾けた、ドライバーオリエンテッドなコックピットデザインのデビューである。この設計は、操作系の視認性とアクセス性を劇的に向上させ、人間工学を最適化する上で画期的な開発であり、今日に至るまでBMWの揺るぎない特徴として受け継がれている。
BMWらしいエンジンラインナップがその地位を盤石なものに
エンジンラインナップもまた、このモデルの革新性を物語るものであった。1975年のフランクフルト国際モーターショー(IAA)開幕前日、BMW AGの経営委員会会長であったエーベルハルト・フォン・クーンハイムは、特にBMW 320iを指して「我々の目には、このクルマは伝説的なBMW 2002 tiiの現代にふさわしい後継者である」と語った。
燃料噴射技術を搭載した320iの4気筒エンジンは最高出力125psを発生し、3シリーズのトップモデルとして、そして自動車ファンの心を掴む存在として、その地位を確固たるものにした。デビュー翌年には、ヨーロッパで最も権威ある自動車雑誌の読者投票において、2Lクラスの「世界最高のセダン」に選出されるという栄誉に輝いている。
発売当初のモデルレンジには、320iの他にBMW 316、BMW 318、BMW 320が用意された。そのモデル名は、それぞれ1573cc、1766cc、1990ccというエンジン排気量に由来する。これら洗練された4気筒キャブレターエンジンは、スポーティな性能と優れた燃費経済性を見事に両立させていた。車重わずか1010kgのボディに90psのエンジンを搭載したエントリーモデルのBMW 316でさえ、俊敏な走りと最高速度160km/hという、ドライバーを笑顔にするに十分な性能を提供したのである。
そして1977年、このクラスの常識を覆す出来事が起こる。ロワーミドルサイズセグメントにおいて史上初となる6気筒エンジンが投入された。BMW 320(4気筒から6気筒へ変更)用の2.0Lエンジンと、新たに設定されたBMW 323i用の2.3Lユニットは、いずれもBMW 3シリーズのために特別に設計されたものであった。特にBMW 323iを駆動する直列6気筒エンジンは、電子制御エンジンマネジメントやトランジスタ点火といった先進技術を備え、143psという高出力を発生。この2ドアセダンを静止状態からわずか9.0秒で100km/hまで加速させる圧倒的な動力性能を誇った。
この強力なエンジン性能を路面に伝え、3シリーズをスポーティな高みへと導く使命は、精緻なシャシー設計によって支えられていた。サスペンションは、フロントにコントロールアームとスプリングストラットを組み合わせた独立懸架(マクファーソンストラット形式)、リアにはセミトレーリングアームとスプリングストラットを採用。特にフロントアクスルは、アンチロールバーを備えたマクファーソン構造により、卓越したステアリング精度を実現するための最適なプラットフォームを形成した。
さらに3シリーズは、弾性的に取り付けられたラック&ピニオンステアリングという、BMWにとって全く新しい設計も採用していた。初代モデルが確立したこの卓越したドライビングダイナミクスと俊敏性への評価は、最新世代の3シリーズに至るまで、その血脈に脈々と受け継がれている。
02シリーズを超え、BMWのベストセラーに
商業的にも大きな成功を収めた。1981年には、75psを発生する1.6Lエンジンを搭載したBMW 315が新たなエントリーモデルとして追加されると同時に、BMW 3シリーズの累計販売台数は100万台という金字塔を打ち立てた。これは、生産開始からわずか6年で先代02シリーズの記録を凌駕し、BMWの歴史上、最も成功したモデルとなったことを意味する。顧客満足度も極めて高く、1980年に行われたある調査では、BMW 3シリーズのオーナーの80%が、自らの車に対して「改善できるところは何もない」と回答したほどであった。
1983年までに、初代3シリーズは合計136万4039台が販売された。その中には、シュトゥットガルトのコーチビルダー、バウアー社が手掛けた4595台の「トップカブリオレ」仕様も含まれる。これは、頑丈なロールオーバーバーを備えたオープントップの4シーターであり、顧客はどのエンジンバリエーションでもこの特別な架装を依頼することができた。
初代BMW 3シリーズは、その誕生から生産終了に至るまで、常にスポーティセダンの新たな基準を提示し続け、BMWの歴史に輝かしい1ページを記した不朽の名作と言えよう。
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