


















































英国の新たなるポルシェ911レストモッド「セオン・デザイン」とは
セオン・デザイン(Theon Design)というイギリスのレストモッド・ショップをご存知だろうか? タイプ964のポルシェ911を専門にレストモッドしているショップと聞けば、最近話題のシンガー(Singer)を思い浮かべるが、セオンは設立が2016年と新しいうえ、1年で5~6台を製作しているに過ぎない。ただし、その志はシンガーに負けず劣らず高いと見た。
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シンガーとの違いは「クーペにも施す」カーボン補強にあり
創業者のアダム・ホーリーはデザイナーとしてBMW、レクサス、ジャガー・ランドローバーに勤務した経験を持つ。タイプ964をドナーカーとして用いる理由についても、「911のオリジナルシェイプを保った空冷ポルシェとしてはもっとも進化したモデルであるからで、たとえばタイプ993を用いて911のクラシックなスタイリングを再現するにはフランケンシュタインのような継ぎ接ぎにしなければならず、作業に長い期間を要する」と語り、デザイン先行の発想であることがうかがえる。ちなみに、タイプ964をドナーカーとすることについては、2~3年ほどのリサーチを行ったうえで決定したという。
もっとも、セオンのレストモッドは技術的にも高いレベルにある。それを象徴するのがタイプ964のボディセルをカーボンコンポジット製タブで補強している点にある。ホーリーによれば、タイプ964のタルガはボディに負荷を掛けるとドアが閉まらなくなるほど変形してしまうが、セオンによってボディが補強したタルガであれば難なくドアを開閉できるそうだ。
実は、カーボンコンポジットを用いた補強はシンガーも行っているが、彼らが対象としているのはカブリオレのみで、クーペにはカーボンコンポジットによる補強を実施していない。これに対してセオンはクーペにもタルガにも補強を行っているほか、その形状についてモノコックを連想させるタブという言葉を使っていることから、カーボンコンポジット製シートを貼り付けるシンガーに比べて、より大がかりな作業であるように思われる。
とはいえ、その位置づけはあくまでも補強であって、オリジナルのスチール製ボディセルはそのまま残されているとのこと。これは、タイプ964が当時の安全規制をすでにクリアしており、もしもボディセルに手を加える場合は認証を取り直す必要が生じることに関係しているようだ。
「ポルシェらしさ」を失わない、英国流のパーソナライゼーション
シャシー面で注目されるのは、オランダのトラクティブ社製セミアクティブ・ダンパーを採用している点にある。また、タイヤサイズはオリジナルより拡大されているものの、前後のサイズ比をオリジナルと同じにすることで「ポルシェらしさ」を残しているという。
いっぽうのエンジンは、オリジナルの空冷フラット6をベースとしているのは当然ながら、排気量はオリジナルと同じ3.6Lを筆頭に、3.8L、4.0Lの計3種類が揃う。さらに、オーナーの要望に応じてスーパーチャージャーやターボチャージャーの装着も可能とのこと。最高出力は最大で420bhp(約426ps)以上、最大トルクは350lb/ft(約470Nm)以上と発表されているが、これは自然吸気式のケースだろう。
こうしたスペックからも想像されるとおり、セオンの製品は一品一品が手作りで、様々なパーソナライゼーションが可能とされる。そうした柔軟性はインテリアデザインにも貫かれていて、オリジナルのタイプ964に近いシンプルなものから、デザイン性の強いクラシック調のものまで様々な仕様がオーダーできる模様。この辺は、創業者ホーリーの面目躍如といったところだが、どのデザインを見てもタイプ964の面影を強く残している点が大きな特徴といえる。
「ポルシェらしさ」を追求する姿勢についてはホーリーも力説していて、これこそがセオンと他のレストモッドストアとの最大の違いであるという。
500馬力超で1トン切り。究極のアナログ体験を具現化した「セオンR」
なお、セオンはクーペとタルガをベースとするモデルをラインナップしていたほか、昨年10月には高性能バージョンのセオンRを発表。こちらはカーボンパーツを多用することで車重を1000kg未満まで削減したほか、DOHC 24バルブにモディファイされた4.0L高回転エンジンは500bhp(約507ps)以上を発揮。6速マニュアルトランスミッションと組み合わせることで「究極の空冷アナログ・ドライビング体験」を具現化したと主張している。
これまでにセオンは北米、チリ、中国、ヨーロッパ、イギリスなどに納車した実績を持つものの、日本からのオーダーを受け付けたことはまだないとのこと。あわせて、日本における正規代理店を検討中というから、今後の展開が楽しみだ。