コラム

V8で蘇った「赤い頭」。新型フェラーリ「849テスタロッサ」、その名に秘められたマラネッロの真意とは

フェラーリの新型フラッグシップの名は「849テスタロッサ」

フェラーリの新たなフラッグシップとして、伝説の名「テスタロッサ」が復活を遂げた。システム総出力1050psを発生するV8 PHEVパワートレインを搭載し、「849」という謎めいた数字を伴う。この数字が意味するものとは何か。なぜ今、この名なのか。イタリア・ミラノで開催された発表会の現場から、モータージャーナリスト西川 淳氏がその全貌と開発陣の言葉を交え、詳細にレポートする。

【画像124枚】蘇る伝説。新型「849テスタロッサ」と歴代モデルの姿を写真で比較する

V8を意味する「849」。テスタロッサ復活の裏にある、ネーミングの苦悩

テスタロッサ復活! そのニュースを聞いて心が躍った方も多いに違いない。筆者も発表の現場にいて、新型モデル=SF90シリーズ後継のフラッグシップが“テスタロッサ”であると知って、もうその名前だけで白飯が食えると思ったものだ。

同時に首を傾げた人も多かったはず。なぜならテスタロッサの前に3桁の数字“849”が付加されていたから。ん? どういう意味だ?

3桁の数字+車名。この方式そのものはマラネッロの伝統的なネーミング手法の一つだ。812スーパーファストや296スペチアーレなどがその例に当たる。ただし、数字の意味合いにはいくつかの法則性があって、1気筒あたりの排気量の近似値の場合もあれば、馬力や総排気量の近似値、気筒数などを組み合わせる場合もあった。

まぁ、要するに数字の響きや見栄えに加えて、他ブランドも含めた既存の、もしくは商標上の兼ね合いで半ば強引に決められていると言っていい。言ってみれば“その時々で決めている”。実をいうと年々、新たな名前をつけることが難しくなっている。だからと言ってわかりやすい法則性にこだわるとじきに破綻する。今回の“849テスタロッサ”という車名などは、使われていない数字+ヘリテージ名ということで、苦労のネーミングと言えそう。

で、849はどういう意味かというと、これがまたかなり強引で、8気筒+49である。49は何かというと、1気筒あたりの排気量499ccに由来する。じゃ、499でいいじゃないか、とか、498の方が収まりはいいだとか、いろんなご意見もあるだろうけれど、マラネッロとしては今回、849が最も良いと判断したようだ。

テスタロッサは「赤い頭」。その名はV12ミドシップのためだけにあらず

ちなみにテスタロッサというとまずは1984年デビューのピニンファリーナデザインを思い出し、それとの関連性がまるでないスタイルや12気筒ミドシップでないことを批判する人も散見されるのだが、それはお門違いの文句というもの。そもそもテスタロッサとは赤いシリンダーヘッドのことで、マラネッロ製の高性能なレーシングカーやスポーツカーに採用されてきた伝統だ。

要するに極めてコンセプチュアルな名前であり、そのことは初めてその名を採用したモデルが500TR(テスタ・ロッサ)という2L直4レーシングエンジン搭載のFRバルケッタであったことからも分かる。ちなみに最も価値のあるとされるテスタロッサは1950年代末の250テスタ・ロッサであろう。250cc×12気筒=3L V12をフロントミドに積んだロード&レーシングカーだった。

舞台はミラノ。価格は46万ユーロから。9月末には日本上陸へ

発表会はミラノで開催された。通常、マラネッロのリアミドシップスポーツモデル(最近ではパイロットカーと呼ばれる)は本拠地で披露されるものだが、今回はミラノにゲスト500名を招き3日間に渡って開催された。ミラノという街の先進性やデザイン性を意識したというが、ひょっとしてこの手のイベントに参加するカスタマーたちにとってマラネッロはもう“行き慣れた場所”なのかも知れない。新型車の発表も多く、いよいよ来月に迫った電気モデルの披露はマラネッロだろうから……。

ちなみに849テスタロッサもさっさと9月末には日本で披露される予定だ。その際、日本での価格も発表されると思うが、ひとまずミラノで発表された価格をお知らせしておこう。クーペが46万ユーロ(約7970万円)、スパイダーが50万ユーロ(約8670万円)で、アセットフィオラノ仕様はそれぞれに設定可能で5.25万ユーロ(約910万円)の追加となる。イタリア国内でのデリバリーはクーペが26年第2Q、スパイダーが同じく第3Qとなっている。

開発陣が語る。「エレガンスとパフォーマンスのかつてない挑戦だった」

発表会にはいつものようにエンリコ・ガリエラ(プロダクトマーケティング)、ジャンマリア・フルジェンツィ(エンジニアリング)、フラビオ・マンゾーニ(チェントロスティーレ)の3人が登壇し、プレミア後にはグループインタビューに応じている。

エンリコ曰く、「技術的な進化が激しく、早急なアップデートが必要になった。またクーペとスパイダーを同時発表する意味は、もちろん好きな方を自由に選んでもらいたいし、ウェイティングリストの管理もしやすいからだ」らしい。ちなみに最近ではスパイダーの方が全体的に少し多くなる傾向が強いという。

フェラーリ 849テスタロッサ・スパイダー

「発表会の様子を見たか? この滑りやすいフロアの上を静かに、歩くような速さで入ってきただろ? 1000馬力1000Nmを超えるハイパワーマシンがだよ? 微速域から超高速域まで、完全にコントロールできることが最も重要だ」と、ジャンマリアがやや興奮気味に語れば、続けてフラビオも「ロードカーとしての性能がここまで向上すると、冷却や空力といった技術的なデザイン要素をどのようにエレガントに処理するかが重要になる。F80のような機能性を100%重視するスーパーカーではなく、849テスタロッサは実用性もあるロードカーであり、フラッグシップモデルだ。エレガンスとパフォーマンスの融合はかつてない挑戦だったよ」と語っていた。

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