サーキット試乗

【GRヤリス試乗】25式の進化は「空力」と「剛性」にあり。最新“エアロ仕様”と各モデルをサーキットで徹底比較

GRヤリスの進化を検証。20式から25式「エアロ仕様」までを乗り比べ

“モータースポーツ用の車両を市販化する”という逆転の発想で、2020年に誕生したトヨタ「GRヤリス」。年度ごとに改良が加えられているのは言うまでもないが、さらにその性能を高める25式「AERO PERFORMANCE PACKAGE(エアロパフォーマンスパッケージ)」を装着したモデルに試乗する機会を得た。歴代モデルと比較しつつ、その走りのポテンシャルをお届けする。

【画像25枚】これが最新の戦闘服。大型リアウイングが際立つ25式GRヤリス「エアロパフォーマンスパッケージ」の姿を多角的に見る

絶え間なき進化の軌跡

WRCで勝てるマシンを造り込み、それを市販車開発にフィードバックしたGRヤリス。2020年に発売され、2022年には500台限定のフルチューンモデルであるGRMNヤリスを発売。2024年には新開発8ATのGR-DATを新設定するとともに各部に手を入れて進化を果たす。そして、2025年にはさらなる改良を受けるとともに、空力性能および冷却性能を向上させたエアロパフォーマンスパッケージを発売した。トヨタでは20式、24式、25式など年式を略して呼んでいる。

トヨタ GRヤリス 歴代モデル

今回はサーキットで初期の20式MTと25式MTおよび25式GR-DAT、25式GR-DATエアロパフォーマンスパッケージを試乗。進化の度合いをじっくりと味わう機会を得た。24式には昨年ワインディングロードを含む一般道で単独試乗したのだが、そのときはGR-DATの出来の良さに感動するとともに、GRヤリスってこんなに良かったっけ? と思いながらも、どれくらいの進化をしていたのか正確にはわからなかったから、今回はありがたい機会だ。

原点と深化。20式と25MTモデルの決定的違いとは

まずは20式MTでコースイン。最新モデルに比べれば出力は低いとはいえ、それでもコンパクトなボディに272psのパワーは十分以上でアクセルを踏みつければ弾けるように加速していく。ボディの剛性感もまずまずでシャシーがエンジンに負けている感じはしない。アクセル全開でもいけそうな高速コーナーでは、まだ走り始めだから様子を見る意味でアクセルを戻してセーフティに入っていったら路面のうねりでボディが揺すぶられ、少し不安定な挙動になった。さらにヒップポイントが高めゆえにフィット感が今ひとつのシートが惜しい。横Gで身体が持っていかれそうになるから踏ん張ることに気をとられて操作に集中しづらい。それなりに速く本格的なスポーツ性能の持ち主だからそういった点も気になるのだ。

20式GRヤリスRZ High performance(6速iMT)

25式MTに乗り換えると、そのシートポジションが改善されていた(24式も同様)。ヒップポイントが25mm下げられていてお尻がスポッと収まって格段に安定した感覚になる。シートの構造は変えず、三角形のレールとの接合部品を変更しただけだというが効果は絶大。足とお尻の高さの差が少なくなるからペダル操作もやりやすくなっている。

コースインして最初のコーナーを曲がっただけでシートポジションの改善効果が高いことを知るとともに、ステアリング操作に対するダイレクト感が高まり、リアが根を張ったように安定していることも感じられた。件の高速コーナーも最初から躊躇なく全開でいけて難なくクリア。20式と比較するとあらゆる面で進化が感じられて自信をもって攻められるのだ。

進化の核心。締結ボルトの強化がもたらすリニアな操舵感

24式ではスポット増しと構造用接着材の塗布面積拡大でボディ剛性を高めるとともに、フロントサスのアッパーマウントを1点から3点締結としてアライメント変化を抑えるという改良が加えられていたが、25式ではさらにリアサスペンションとボディ、リアショックアブソーバーとボディ、フロントロアアームとロアボールジョイントの締結ボルトの強化が行われている。ボルト頭部のサイズ拡大やボルトフランジの厚みアップなどを行うとともに締め付けトルクもアップしたことで、ステアリング操作時の一体感を向上させているのだ。20式はステアリングを操作したときの反応がやや鈍かったり、手応えが曖昧だったりしたが、25式では前述のようにダイレクトでリニアだ。また、この締結剛性アップに合わせてショックアブソーバーとパワーステアリングのチューニングも変更されている。

25式GRヤリスRZ High performance(6速iMT)

25式GR-DATはMTの6速に対して8速ということもあって加速はリズミカルで気持ちがいい。Dレンジのままでもスポーティに走らせれば減速時のダウンシフトが巧みでシフトチェンジはすべてクルマ任せで十分だ。これならMTよりも速く走れそうだと思う反面、ヘアピンなど小さく回り込むコーナーではノーズの重さがでてきてアンダーステア傾向が強くなる。約20kgの重量増がフロント周りに集中しているためだ。そこが少し惜しいところだが、シフト操作から解放されステアリング操作などにより集中できるのは大きなメリットだろう。

エアロパフォーマンスパッケージは異次元の安定感

25式GR-DATエアロパフォーマンスパッケージの空力効果は想像以上だった。様子見のペースからすでに違いが感じられ、より安定した姿勢を保ってくれることを実感。リアが安定しているから高速コーナーでさらに自信が増す一方、小さなコーナーで曲がりづらくなるのでは? という疑問も湧いたが、実際にはハードブレーキ時の姿勢が安定しつつステアリングを切り込んでいけば、ノーマルと同等かそれ以上にスッとノーズが入っていった。

じつは当初はフロントのリップスポイラーは無い状態で開発が進んでいたが、レーシングドライバーの大嶋和也選手からのフィードバックで追加することが決定したのだという。前後のエアロバランスが良好なのはそのためだ。発表から発売までの時間がかかったのも、納得がいくまでテストを繰り広げていたからなのだろう。

25式GRヤリスRZ High performance+ Aero performance package(GR-DAT/8速AT):ダクト付きアルミフード、フロントリップスポイラー、フェンダーダクト、燃料タンクアンダーカバー、可変式リアウイング、リアバンパーダクト。計6アイテムすべてを同時装着することで、効果を最大化するエアロパフォーマンスパッケージ。GRヤリスの冷却性能と空力性能を、さらに向上させる。

20式が完成して発売されたときが、じつは進化へ向けてのスタートだったというGRヤリス。スーパー耐久や全日本ラリーなどの実戦で露わになったウィークポイントに手を入れ、ドライバーのフィードバックからドライビングポジションや各スイッチ類の操作性を向上させ、締結剛性向上など一体感を高めるアイテムも投入されてきた。限界域で鍛え上げられてきたのだ。25式は究極の姿にも思えるが、さらなる進化を果たすことにも期待したい。

【Specification】トヨタ・GRヤリス RZ“High performance”+ Aero performance package

■車両本体価格(税込)=5,475,000円(6速MT)/5,825,000円(8速AT)
■全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
■ホイールベース=2560mm
■トレッド=前:1535、後:1565mm
■車両重量=1290kg(6速MT)/1310kg(8速AT)
■エンジン型式/種類=G16E-GTS/直列3気筒インタークーラーターボ
■内径×行程=87.5×89.7mm
■総排気量=1618cc
■最高出力=304ps(224kW)/6500rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/3250-4600rpm
■燃料タンク容量=50L(無鉛プレミアム))
■燃費(WLTC)=12.4km/L(6MT)/10.8km/L(8速AT)
■トランスミッション形式=6速MT/8速AT(GR-DAT)
■サスペンション形式=前:マクファーソンストラット/コイル、後:ダブルウィッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前:Vディスク、後:Vディスク
■タイヤ=前後:225/40ZR18 ミシュラン・パイロットスポーツ4S

【画像25枚】これが最新の戦闘服。大型リアウイングが際立つ25式GRヤリス「エアロパフォーマンスパッケージ」の姿を多角的に見る

石井 昌道

AUTHOR

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。自動運転や電動化への造詣も深い。

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