神戸・灘五郷の観光客増加と交通課題の解決を両立し、地域の活性化を目指す
日産自動車は2025年11月28日、神戸市と連携し、2026年1月19日より灘五郷エリアにて自動運転技術を活用したモビリティサービスの実証運行を開始すると発表した。この取り組みを神戸市と最初に実施する神戸・灘五郷エリアは、伝統的な酒造りと歴史が世界中の日本酒ファンを魅了する観光地となっており、今回の実証運行では、酒蔵を訪れる方々に日産の自動運転技術を活用した新しい移動体験を提供することで、利用する観光客による新たな魅力の発見と、地域の活性化の可能性を検証する。自動運転モビリティサービスは、観光資源の新たな発見や、訪れる方々にとっての新しい体験価値を創出し、神戸のツーリズム振興に貢献することを目指すという。
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神戸市実証運行の概要
実施主体:神戸市、日産自動車株式会社
協力:灘五郷酒造組合、Moplus株式会社
期間:2026年1月19日(月)~23日(金)
運行ルート:神戸酒心館、白鶴酒造資料館、菊正宗酒造記念館、浜福鶴吟醸工房(左記をめぐる1周約20分の周回ルート、停車なし)
運行時間:8時00分~16時00分
使用車両:日産リーフをベースとした自動運転車両
試乗人数:1便あたり2名
一般試乗体験を実施
受付期間:2025年11月28日(金)16時00分~12月19日(金)17時00分
対象:神戸市民かつ小学生以上、身長150cm以上
人数:50名(一般試乗40名、こども未来枠2名×5組)
応募方法:https://event.city.kobe.lg.jp/event/Zga5Rf86orikHcmZWcrP
※応募多数の場合は抽選、結果は12月下旬に神戸市より通知予定
2030年度には商用運行開始を目指す
日産はこの実証運行を通じて、地域住民や観光客の皆様の課題に寄り添い、今後のサービス設計につなげたいという。2026年度には地域・乗降場所を拡大し、セレナベースのレベル2実証車両でオンデマンド運行を予定。さらに、2027年度には拡大したエリアでの有償運行の開始、2030年度には商用運行開始を目指すとのこと。また、将来的には、神戸市内のニュータウンなど生活の足となる地域公共交通への自動運転車両導入も検討しているという。
神戸市の白鶴酒造資料館で行われた合同記者会見では、神戸市長の久元喜造氏と、日産自動車代表執行役社長兼CEOのイヴァン・エスピノーサ氏、同執行職 総合研究所所長の土井三浩氏、そして灘五郷酒造組合理事長で白鶴酒造代表取締役社長の嘉納健二氏が登壇。
歴史と伝統のある酒蔵が多い灘五郷の魅力を発信
冒頭に登壇した神戸市長の久元喜造氏は、
「神戸空港は2024年4月18日に国際空港化がスタートし、インバウンドの増加が見込まれています。2024年の外国人延べ宿泊客数は、過去最高の100万人を超えることが確実視されています。そして灘五郷は日本のトップクラスの酒どころであり、歴史、文化、自然が充実しています。灘の酒の伝統的な酒造りはユネスコ無形文化遺産に登録されており、インバウンド観光客からの関心が高いエリアで、歴史と伝統のある酒蔵が多く、市民や観光客が多く訪れるため、自動運転サービスの需要が見込まれることから、日産からの提案を受け実証エリアに選定されました。今回の自動運転における実証運行により、持続可能な公共交通の維持・充実を実現し、子供からお年寄りまで誰もが安心して移動できる『行きたい街』を神戸に築くことを目指します」と、灘五郷エリアの魅力をアピールした。
レベル4の自動運転モビリティサービスを商用化
続いて日産自動車代表執行役社長兼CEOのイヴァンのエスピノーサ氏は、
「私たちが提案しているソリューションは、単に都市交通を再定義するに留まりません。それは、Easy Ride(イージーライド)のような新しいサービスに関するものです。Easy Rideは、私たちが2018年に横浜で開始したロボットモビリティサービスです。私たちは、数え切れないほどのトライアルを実施し、その過程で改善を重ねてきました。そして今年の3月、私たちは大きな節目を迎えました。それは、横浜市の指定されたエリア内で、運転席にドライバーがいない状態で車両が走行した初めての事例です。これは、モビリティを再定義し、高齢化社会が引き起こすドライバー不足のような重要な交通課題を解決するための重要な一歩です。日産は先進技術を活用し、人々に真のモビリティの自由をもたらす新しいサービスを創造しています。先日、私たちは横浜で300名の市民を対象とした自動運転モビリティサービスのトライアルを開始しました。今回、私たちが学んだことを基に、ここ神戸で新たなトライアルを実施し、未来のまちづくりに貢献できることを嬉しく思います。神戸の灘五郷の伝統的な酒造りと歴史は、世界中の日本酒ファンを魅了しています。私もその一人です。今日、市内を運転しているときに、この地域の伝統に感銘を受けました。このトライアルを通じて、私たちは自動運転がこの地の観光価値をどのように高め、世界に誇る酒文化を持つ灘五郷に新しい発見をもたらすことができるかを、神戸市や灘五郷の皆様と共に検討していきます。私たちは、2030年までにこの地域でレベル4の自動運転モビリティサービスを商用化するために、神戸市と酒造組合と緊密に連携しています」と、2030年までにこの地域でレベル4の自動運転モビリティサービスを商用化することを明言した。
AIエージェントを乗せ観光案内も
「今回の実証運行では自動運転車にAIエージェントを乗せ、地域を案内することで、地域事業者へ新しいビジネス機会を提供します。AIは多言語対応(日本語、英語、中国語など)でインバウンド客にも対応できることもポイントの一つです。まず2025年度には灘地域の狭い道や信号のない交差点に対応するための技術開発を実施し、2026年にはビジネス成立の検討も含めたサービス構築と、周辺駅との連携を含めたエリアを拡大。そして2027年に有償運行、2028年にレベル4(無人)での運行をスタートし、2030年に商用運行を目指しています」と述べた。
最後に、灘五郷酒造組合理事長で白鶴酒造代表取締役社長の嘉納健二氏は、
「灘五郷は国内屈指の銘醸地であり、全国の日本酒販売シェアの23%を占めています。各蔵元は見学施設で情報発信に取り組んでいますが、現在の施設間の移動は主に電車・徒歩・自家用車・タクシーです。そのため、自動運転サービスが実現すれば、利便性と異空間体験を提供し、街づくりの活性化に貢献。酒蔵巡りの『ハシゴ酒』が安心してできるようになり、より魅力的な観光コンテンツになるでしょう。この白鶴酒造資料館には年間12万人以上が訪れていまして、そのうちインバウンドの方々は半数以上となっています。今回の日産自動車との共同事業から新しいイノベーションが生まれ、灘五郷と日本酒業界全体が活性化するよう、酒造組合も協力していきたいです」と意気込みを語った。
【ル・ボラン編集部より】
この灘五郷での試みには、モビリティの新たな価値が宿っている。新型リーフの「スーッと滑らか」な加減速と、アリアで実証された「人間らしい」AI制御。これらが融合すれば、無機質な自動運転は、酒蔵の歴史的風情に馴染む「おもてなし」へと昇華するはずだ。「ハシゴ酒」という、ドライバーには許されざる禁断の果実を、最新技術が安全かつ優雅な移動として再定義する。これはある種の、究極の贅沢と言えるのではないだろうか。


















