コラム

デジタル全盛への反逆。1825psの怪物、ブガッティ・トゥールビヨンが「画面」を捨てた理由

ブガッティ・トゥールビヨン
ブガッティ・トゥールビヨン
ブガッティ・トゥールビヨン
ブガッティ・トゥールビヨン
ブガッティのチーフ・インテリア・デザイナーのイグナシオ・マルティネス氏
ブガッティのデザイン・ディレクター、フランク・ハイル氏
ブガッティ・トゥールビヨン
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ブガッティ・トゥールビヨン
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ブガッティ・トゥールビヨン
ブガッティ・トゥールビヨン
ブガッティ・トゥールビヨン
ブガッティ・トゥールビヨン

ブガッティ・トゥールビヨンが示す「デジタル・デトックス」という贅沢

ブガッティ・オートモビルが2024年夏に発売した「トゥールビヨン(Tourbillon)」は、ヴェイロン、シロンの系譜を継ぐ新時代の象徴である。全長4671mm、全幅2051mmという堂々たるボディにシステム最高出力1825ps、最大トルク3000NmのPHEVシステムを搭載した「超弩級」のハイパーカーだ。だが、このモデルでブガッティが世に問うたのは、その圧倒的なスペック以上に、車内に流れる「時間」の概念であった。なぜ彼らは、デジタル全盛の現代においてあえて「完全なるアナログ」を選択したのだろうか。

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100年先を見据えた「タイムレス」な空間哲学

「トゥールビヨンのようなクルマは、代々受け継がれるものでなければならなりません」。ブガッティのデザイン・ディレクター、フランク・ハイル氏はそう語る。スマートフォンの画面が数年で陳腐化するように、車内を支配する大型タッチスクリーンは、いずれそのクルマを「過去の遺物」にしてしまうリスクを孕んでいる。だからこそ、ブガッティは「デジタル・デトックス」という大胆な決断を下した。

トゥールビヨンのインテリアでは、流行を追うデジタルデバイスの支配領域は極限まで縮小されている。その代わりに据えられたのは、物理的なコントロールが生み出す確かな手触りと、圧倒的な質感を誇るアナログな操作系である。センターディスプレイすらも通常はダッシュボード内に格納されており、ドライバーが必要とした瞬間にのみ姿を現す。これは、19世紀初頭の時計製造技術にその名を由来する「トゥールビヨン」が、機械式時計と同様に「タイムレス(永遠)」な存在であることを宿命づけられているからに他ならない。

スイス時計技術の結晶、至高のインストルメント・クラスター

この「アナログへの回帰」を最も象徴するのが、ドライバーの眼前に鎮座するインストルメント・クラスターだ。600以上の部品から構成されるこのメーターパネルは、スイスの熟練した時計職人との共同開発によって誕生した。

特筆すべきは、その構造美である。ミリング加工されたアルミニウム製ケース、エレガントに肉抜きされたスケルトン構造、そしてクリスタルガラス越しに覗く精緻なギアの動きは、20世紀初頭のブガッティに見られた機械的なシンプルさを現代に蘇らせたものである。

さらに、ステアリングホイールには革新的な「固定ハブ」構造が採用された。リム部分のみが回転し、中央のハブが固定されたままとなるこの機構により、メーターパネルの視認性を常に確保しながら、エアバッグや各種コントロールスイッチをシームレスに統合することに成功している。これは単なる懐古趣味ではなく、安全性と機能性を極限まで追求したエンジニアリングの結晶である。

「カー・クチュール」──走りへの没入を誘う空間

エクステリアにおいて、ヴェイロン以来の伝統である「Cライン」や馬蹄形グリル、そしてダウンフォースを高める「フライングフェンダー」がブガッティのアイデンティティを主張するように、インテリアにもまた、ブランドのDNAが色濃く反映されている。

車内では、エクステリアのセンターラインと呼応するように、キャビン中央を貫くラインがドライバーとパッセンジャーの空間を明確に隔てている。このレイアウトは、左右の座席にそれぞれ独立した「ビスポーク(特注)」な空間を提供するものだ。

ブガッティはこのアプローチを、オートクチュール(高級仕立服)になぞらえて「カー・クチュール」と呼ぶ。シートやドアパネルには、新開発された特注ファブリックとしなやかなレザーが使用され、視覚だけでなく触覚をも刺激する。一方で、この芸術的な空間を実現するためには、エアバッグの配置や衝突時の安全性といった、公道を走行する車両としての厳格な要件をクリアする必要があった。イグナシオ・マルティネス氏が「芸術的な願望と実用的な要件のバランス」と語るように、このインテリアは極めて高度な設計知能の上に成り立っているのである。

トレンドに抗う勇気。「鉛筆、手、そして心」で描かれたデザインは色褪せない

シロンよりもわずかに大型化したボディを持ちながら、電動化という時代の要請に応えたトゥールビヨン。しかし、その内側には「デジタル化」という安易なトレンドに抗い、100年後も愛される芸術品であり続けようとするブガッティの強靭な意志が込められている。ブガッティでチーフ・インテリア・デザイナーを務めるイグナシオ・マルティネス氏の、「鉛筆、手、そして心を通してデザインすることで、その運転体験は永遠のものとなるのです」という言葉こそが、トゥールビヨンというクルマの本質を物語っているのだ。

【ル・ボラン編集部より】

1825psという数字の暴力に目を奪われがちだが、トゥールビヨンの真価は、その内装に宿る「時間への抗い」にある。現代の高級車が競って搭載する巨大スクリーンは、数年で陳腐化する運命だ。対して、スイス時計の機構をそのまま計器盤としたこの大胆さはどうだ。それは100年後も愛でられる工芸品としての宣言に他ならない。ヴェイロン、シロンと続く系譜の中で、彼らは「速さ」だけでなく「永遠」をも再定義した。デジタル全盛の今、このアナログへの回帰こそが、最も濃密で贅沢な未来の提示なのだ。

【画像13枚】600の部品が刻む「時」。スイス時計技術が息づく計器盤と、究極のアナログ空間を見る

※この記事は、一部でAI(人工知能)を資料の翻訳・整理、および作文の補助として活用し、当編集部が独自の視点と経験に基づき加筆・修正したものです。最終的な編集責任は当編集部にあります。

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